木の器だから、おひつと似たようなもの。
そう思われがちですが、役割はむしろ逆です。
おひつは、炊けたご飯の水分を「保つ」器。飯台は、余分な水分を「逃がす」器です。
ふたが無いのも、浅くて広いのも、ぜんぶ理由があります。合わせ酢を回しかけて、切るように混ぜて、湯気を逃がす。そのために面積が要る。だから飯台は、あの形をしています。
そして選ぶときに見るのは、3つの言葉だけ。木の名前と、桶を締めている輪の素材と、直径です。
【早見表】何を作るかで、選ぶ道具が変わります
| 作るもの | 選ぶもの | 見るところ |
|---|---|---|
| 酢飯(2〜3人分) ▾ | 直径27cm前後の飯台 | 木曽さわら・銅箍 |
| 酢飯(4人分以上) ▾ | 直径30〜36cmの飯台 | 厚口かどうか |
| 巻き寿司・恵方巻 ▾ | 竹の巻きす | 「国産竹」の表記 |
| 伊達巻・厚焼き玉子 ▾ | 鬼すだれ | 竹皮が付いているか |
| 覚えておくこと | 直径が、そのまま量の目安です。27cmで2合前後、30cmで3合前後 | |
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1. 寿司桶は、酢飯を「作る」道具です
おひつと飯台は、水分の扱いが逆
どちらも木の器で、どちらもご飯を入れる。だから同じ仲間に見えます。けれど、頼んでいる仕事が正反対です。
おひつは、水分を保つ器。ふたをして、炊きたての状態をできるだけ長く引きのばす。
飯台は、水分を逃がす器。合わせ酢を加えたご飯から、余分な水気と湯気を抜いていく。
だから飯台には、ふたが要りません。浅く、広く作られているのも同じ理由。ボウルで酢飯を作るとべたつくのは、湯気の逃げ場が無いからです。
なぜ、さわらなのか
飯台に使われる木は、たいていさわら(椹)です。ヒノキの仲間ですが、桶に向く性質がいくつも重なっています。
ひとつは、木目が緻密で、乾いたときの縮みが少ないこと。桶は輪で締めて作るので、木が縮むと輪がゆるみます。縮まない木ほど、箍(たが)が外れにくい。
もうひとつは軽さ。そして適度な油分を含んでいるので、水切れがいい。
最後がいちばん効きます。さわらの香りは控えめです。木の匂いが強いと、酢飯の風味に乗ってしまう。控えめだからこそ、この用途に残った。だから昔から、飯台にはさわらが使われてきました。
豆知識:売り場では「飯切」「半切」という名前でも並んでいます
同じものが、店によって寿司桶・飯台・飯切(はんぎり)・半切(はんぎり)と呼ばれています。通販の商品名に4つとも並んでいることも珍しくありません。
「寿司桶」で見つからないときは、「飯台」か「飯切」で探してみてください。とくに業務用の売り場では、飯台と飯切のほうが通りがいい呼び方です。盛り付け用の浅い桶も「寿司桶」と呼ばれるので、酢飯を作る道具を探しているなら、深さのある飯台のほうを見てください。
2. 山一|南木曽の、十人の工房
長野県木曽郡南木曽町、従業員十名
株式会社山一は、長野県木曽郡南木曽町で木工品を作っている会社です。設立は昭和46年(1971年)。
規模を先に書いておくと、従業員は十名。大きな工場ではありません。会社は自分たちの仕事をこう説明しています。
「良質な信州木曽の原木を使い、昔ながらの伝統的な木工品、現代的な木のクラフト製品など幅広く製造しております」
原木のところから木曽で、桶もまな板も同じ工房から出てくる。飯台は、そのなかの一品です。
銅の箍(たが)が、目印になります
桶は、板を並べて輪で締めて作ります。その輪が「箍(たが)」。素材はいくつかありますが、木の桶に伝統的に使われてきたのは銅です。
商品名に「銅箍(どうたが)」と入っていれば、それが目印になります。使ううちに色が沈んで、木肌との対比が出てくる。手入れをして直せるのも、金属の箍の利点です。
すし飯台 27cm|まず一台なら、この大きさ
直径27cm、2合前後。2〜3人の食卓なら、これでちょうど収まります。
木曽さわらに銅箍。重さは約550g。片手で持ち上げて、流しで洗える範囲です。
迷ったら、小さいほうを選んでください。大きすぎる飯台は、少量の酢飯だと切りにくく、しまう場所にも困ります。
すし飯台 30cm前後|家族で、ちらし寿司まで
直径30cm、3合前後。4人の食卓や、ひな祭りのちらし寿司ならこちら。
作った桶のまま食卓に出せるのが、この大きさから効いてきます。器を移し替えずに済む。
置き場所だけ先に決めておいてください。直径30cmは、思っているより場所を取ります。
3. 雅漆工芸|木祖村から、プロの厨房へ
木曽五木を、手で器にする
株式会社雅漆工芸があるのは、長野県木曽郡木祖村(きそむら)。山一と同じ木曽ですが、こちらは木曽川の源流に近い村です。
使う木は木曽五木。ひのき・さわら・ねずこ・あすなろ・こうやまきの5種で、木曽の山を代表する木です。その木から、器と調理道具を手作りしています。
納め先に、この会社の性格が出ています。ホテル、料理店、和食の店、菓子店、そしてスーパー。毎日使われる現場の道具を作ってきた会社です。
毎日使う道具は、直せることが前提です
業務用の道具は、壊れたら買い替えるのではなく、直しながら使い続けることが前提になります。木の桶に金属の箍が使われてきたのも、そこに理由があります。
家庭で毎日は使わないからこそ、長く保つものを選んでおくと結局は楽です。年に数回しか出番が無い道具ほど、しまっているあいだに傷んでしまうので。
銅箍 飯台 27cm|椹(さわら)と銅タガ
木曽の木を、木曽の村で器にしている会社のもの。直径27cm、素材は椹、箍は銅。
プロの厨房に納めてきた形が、そのまま家庭サイズで出ています。飾りは無く、作りだけで見せるつくりです。
「椹」はさわらの漢字表記です。売り場でこの字を見かけたら、同じ木のこと。
4. 志水木材|水車の製材から、寝台列車の浴槽まで
1944年、水車で丸太を挽くところから
志水木材産業の始まりは1944年。傷痍軍人として帰国した志水豊次郎が、木材の製材業を始めたところからです。
当初は水車の力で丸太を挽き、建築材料や養蜂の資材を作っていました。そこから木風呂の製造へ移り、1955年頃には公団住宅向けに一日40台を作るまでになります。
戦後の住宅に、木の風呂桶を入れていた会社ということ。いま同社が寿司桶とおひつと檜風呂を並べて作っているのは、この流れの延長線上にあります。
四季島の浴槽になった木曽の桶
この会社の名前が広く出たのは、寝台列車「TRAIN SUITE 四季島」の浴槽に採用されたときでした。ものづくり大賞NAGANO 2017 で特別賞を受けています。
揺れる列車のなかで水を張る浴槽を、木で、自在な形に作る。桶を作る技術が、そのまま通用した例です。
同社の桶は、いまのところ自社の通販で扱われています。通販モールでは見つかりません。木曽にはこういう作り手がいる、ということだけ知っておいてください。探すときは会社名で。
5. 竹虎|高知。巻きすと鬼すだれ
創業明治27年、日本唯一の虎斑竹専門店
桶が木曽なら、巻きすは竹の産地です。株式会社山岸竹材店、店の名前は竹虎。高知県須崎市安和にあります。
創業は明治27年(1894年)。虎斑竹(とらふだけ)という、表面に虎の模様が浮かぶ竹を専門に扱う、日本で唯一の店。
会社はこう書いています。「竹虎で扱う竹細工はごく一部の商品を除き、すべて国産竹材を用いて国内で製造されています」
巻きすと鬼すだれは、別の道具です
売り場で似た顔をして並んでいますが、用途が違います。
巻きすは、平らな竹ひごを糸でつないだもの。海苔巻きや太巻きを巻くための道具です。
鬼すだれは、三角に近い断面の太い竹を並べたもの。これで巻くと、伊達巻の表面にあの筋が付きます。
おせちに伊達巻を作るなら、巻きすでは筋が出ません。逆に、太巻きを巻くのに鬼すだれは向きません。作るものが決まっているなら、そちらを選んでください。
国産 竹皮付の鬼すだれ|伊達巻をつくる
約24×24cm。表皮を残した竹ひごを並べた、伊達巻用のすだれ。
竹皮が付いたままなので、卵地がくっつきにくい。おせちの時期にだけ出番がある道具ですが、そのぶん長く持ちます。
商品ページに「国産」「日本製」と明記されています。竹の道具は、そこを見て選んでください。
竹の巻きす|太巻き・細巻き・恵方巻に
竹ひごを一本ずつ糸でつないだ、いちばん基本の形。しなやかに曲がって、締めた力がまっすぐ伝わります。
だし巻き玉子の形を整えるのにも使えます。焼いた直後、熱いうちに巻いておく。
選ぶときは「国産竹」の表記を見てください。それが売り場での目印になります。
6. 選び方と、長く使うために
サイズは、直径が量の目安になります
飯台は直径(cm)で売られていて、それがそのまま入る量の目安になります。
27cmで2合前後。30cmで3合前後。36cmを超えると7〜8合あたり。厚みによって同じ直径でも差が出るので、商品ごとの合数表示を見てください。
2〜3人なら27cm、4人以上なら30cm以上。迷ったら小さいほうです。大は小を兼ねません。広すぎる桶で少量の酢飯を切ると、ご飯が散って冷めすぎます。
使う前に、水を張る
新しい飯台を下ろすときと、使う直前。どちらも水を張って、木を湿らせてから使います。
乾いた木にご飯を入れると、米粒が張り付いて取れなくなる。水を含ませておけば、洗うときにするりと落ちます。張った水は捨てて、さっと拭いてから酢飯を入れてください。
新品はとくに、数時間ほど水を張っておくと木のあくが抜けて落ち着きます。
しまい方だけ、気をつけてください
洗ったあとは、しっかり乾かしてからしまうこと。ここを飛ばすと、次に出したときに困ります。
直射日光に当てて急に乾かすのは避けてください。木が縮んで、箍がゆるむ原因になります。風通しのいい日陰で、立てかけて乾かす。
ビニール袋に入れて密閉しないのも同じ理由です。年に数回しか使わない道具ほど、しまい方で寿命が変わります。
木の器の洗い方そのものについては、曲げわっぱの手入れのほうに詳しくまとめてあります。
豆知識:さわらは「ヒノキに似ている」という理由で、切ることを禁じられました
江戸時代、木曽の山は尾張藩が治めていました。伐りすぎて木が減ったため、藩は停止木(ちょうじぼく)という制度を作ります。1708年にヒノキ・サワラ・アスナロ・コウヤマキの四木、1728年にネズコを加えた五木。これが木曽五木の由来です。
面白いのは選ばれ方で、守りたかったのはヒノキでした。ヒノキだけ禁じても、似た木で代用されてしまう。だから外見が似ていて、使い道のある木もまとめて禁止木にした。さわらは、そのひとつです。
罰は「木一本、首一つ」と言われるほど重かったと伝わります。いま木曽にさわらの良材が残っているのは、300年前にそこまでして守られたからでもあります。
7. よくある質問(FAQ)
おひつと寿司桶、両方いりますか?
やりたいことが違うので、片方が片方の代わりにはなりません。おひつは炊けたご飯を保つ器、飯台は酢飯を作る器です。
手巻き寿司やちらし寿司を作るなら飯台。炊飯器の保温をやめてご飯を移したいなら、おひつのほうです。先に買うなら、作りたいもので決めてください。
サイズはどう選べばいいですか?
直径で選びます。27cmで2合前後、30cmで3合前後が目安です。2〜3人なら27cm、4人以上なら30cm以上。
迷ったら小さいほうを選んでください。広すぎる桶で少量の酢飯を切ると、ご飯が散って冷めすぎます。しまう場所も、直径が数cm変わるだけでずいぶん違います。
使う前に、何かすることはありますか?
水を張って、木を湿らせてください。乾いたままご飯を入れると、米粒が木に張り付いて取れなくなります。
新品は数時間、ふだんは使う直前に張ってさっと拭く。これだけで洗うときの手間がまるで変わります。
洗剤で洗ってもいいですか?
白木(無塗装)の桶は、基本はたわしと水です。洗剤は木に染み込んで、においが残ることがあります。
油汚れが付いたときだけ、薄めた中性洗剤で手早く洗ってすすぐ。詳しくは曲げわっぱの手入れにまとめてあります。食洗機と漂白剤は避けてください。
箍(たが)がゆるんできました。使えますか?
木が乾いて縮んだサインです。水を張って少し置くと、木が戻って締まることがあります。まずそれを試してください。
戻らないときは、作った会社に相談するのが確実です。金属の箍は締め直せるので、直して使い続けられるのが木の桶の利点でもあります。急に乾かさないのが、いちばんの予防になります。
巻きすは、洗ったあとどうすればいいですか?
竹の目に沿って洗って、立てかけて乾かします。糸で編んであるので、糸のあいだにご飯粒が残りやすい。使う前に濡らしておくと、付きにくくなります。
乾ききる前にしまわないでください。竹はカビます。すっかり乾いてから、平らにして保管を。
8. まとめ:おひつは保つ器、飯台は逃がす器
木の器だから同じようなもの、ではありません。おひつは水分を保つ器、飯台は逃がす器です。ふたが無いのも、浅くて広いのも、合わせ酢を回しかけて、切って、湯気を逃がすための形。
木はさわら。縮みが少ないから箍が外れにくく、軽くて水切れがよく、香りが控えめだから酢飯の風味を邪魔しない。だから昔から、この木が使われてきました。
選ぶときに見るのは3つ。木曽さわら、銅箍、そして直径。直径がそのまま量の目安になります。27cmで2合前後、30cmで3合前後。迷ったら小さいほうを。
巻きすなら「国産竹」の表記。伊達巻を作るなら巻きすではなく鬼すだれです。作るものが決まっているなら、そちらを選んでください。
作っているのは、長野県木曽の山あいにある十人ほどの工房だったり、木曽五木で厨房の道具を作ってきた村の会社だったり、高知で明治27年から竹を扱ってきた店だったりします。手巻き寿司の日を決めたら、木曽さわらの飯台をひとつ、ぜひ手に取ってみてください。