「炭火で焼くと、やっぱり違う」。
その差を作っているのは、火力ではなく火持ちです。
強い火なら、ガスでも出せます。炭火が違うのは、その強さが最初から最後まで変わらないところ。だから中まで火が通るあいだ、表面が焦げきってしまわない。
その火持ちを支えているのが、炭の硬さです。そして硬さは、何の木を、どう焼いたかで決まります。
ここで知っておきたいことがひとつ。「備長炭」は名前であって、産地ではありません。売り場で見るべきなのは、その前に付いている2文字のほうです。
【早見表】何に使うかで、選ぶ炭が変わります
| 使い方 | 選ぶもの | 見るところ |
|---|---|---|
| 七輪・BBQで焼く ▾ | 紀州・土佐・日向の備長炭 | 産地名と、家庭なら1〜3kg |
| ご飯を炊く・水に入れる ▾ | 食品用と書かれたもの | 小ぶりで扱いやすい形 |
| 置いて使う(消臭・調湿) ▾ | かごや袋に入ったもの | 置き場所に合う大きさ |
| 産地を応援して選ぶ | ふるさと納税 | 和歌山県の自治体 |
| 覚えておくこと | 「紀州備長炭」は和歌山・奈良で焼いたものしか名乗れません | |
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1. 備長炭は、白炭の一種です
水に沈むほど硬い木を、1週間かけて焼く
備長炭とは、白炭のうち、ウバメガシを炭化したものを指します。カシの仲間を使ったものも含みます。
ウバメガシは、海沿いの斜面に生える常緑樹です。ツヤのある小さな葉と、小ぶりのどんぐりを付けます。特徴は硬さで、水に沈むといわれるほど詰まっています。
その木を、熟練の職人が勘を頼りに、およそ1週間かけて焼き上げる。窯の温度も、出す時期も、決まった数字ではなく人が見て決める。硬い木を、時間をかけて締める。この2つが、あの火持ちを作ります。
「白炭」と呼ばれるわけ
炭には大きく白炭と黒炭があります。違いは、焼いたあとの出し方です。
白炭は、高温になった炭を窯から掻き出し、灰と土をかけて一気に冷まします。その灰が表面に付いて白っぽく見えるので、この名前があります。急に冷やされた炭は、硬く、締まった状態で固まります。
硬いということは、ゆっくりしか燃えないということ。裏を返すと火が付きにくいので、そこは覚悟がいります。
豆知識:「備長」は、人の名前から来ています
産地の名前でも、木の名前でもありません。江戸時代の炭問屋、備中屋長左衛門(びっちゅうや ちょうざえもん)が、この炭を広めたことから「備長炭」と呼ばれるようになったといわれます。
紀南の地で焼かれていた炭そのものは、平安時代から作られていたと伝わります。商人の名前が、そのまま製品の名前になって千年近く残っている。なかなか無いことだと思います。
2. 「紀州」の2文字が意味すること
売り場で「備長炭」と書かれた袋を見たとき、その前に産地名が付いているかどうかを見てください。ここが、この記事でいちばんお伝えしたいところです。
産地名は、名乗るのに条件があります
「紀州備長炭」という名前は、和歌山県木炭協同組合が商標として登録しています。つまり紀州、いまの和歌山県と奈良県で焼かれたものでなければ、この名前を使えません。
ここが効いてきます。「備長炭」だけなら、産地の縛りはありません。けれど「紀州」が付いていれば、それは産地の証明になっている。
売り場で探すのは、この2文字です。商品名の頭にあることも、袋の裏の産地欄にあることもあります。
産地は3つあります
紀州備長炭(和歌山)は、備長炭が生まれた土地のものです。料亭や、炭火で焼く店で長く使われてきました。和歌山のみなべ町だけで、年に150トンほどが焼かれています。
土佐備長炭(高知)も広く出回っています。2014年以降、白炭の生産量がいちばん多いのは高知県です。そして日向備長炭(宮崎)。
どれが上、ということはありません。木の育つ環境が違うので、締まり方や火の立ち方に個性が出ます。まずは手に入りやすいものから試して、好みを見つけるのがいいと思います。
3. 焼く|火持ちで選ぶ
焼くために買うなら、見るのは産地名と量の2つです。
家庭なら1〜3kg。15kgは業務用です
売られている単位は1kg、3kg、10kg、15kgあたり。15kgは飲食店向けの箱なので、家庭で買うと置き場所に困ります。
七輪で数回楽しむなら1kg、家族でBBQを何度かするなら3kgくらいが現実的です。炭は湿気を吸うので、余らせるより使い切れる量を買ってください。
着火は正直、手間がかかります。白炭は硬いぶん火が付きにくい。最初に着火剤や成形炭で火種を作り、そこへ備長炭を足すのが確実です。
豆知識:ひとつの町で、年に150トン
和歌山県のみなべ町だけで、年におよそ150トンの備長炭が焼かれています。15kgの箱にして1万ケース。数字だけ見ると多く感じますが、これを窯ごとに、人が1週間ずつかけて焼いていると思うと見え方が変わります。
原木のウバメガシは、和歌山の県の木でもあります。海沿いの斜面という、他の作物には向かない土地に育つ木から、この炭は生まれました。
紀州備長炭|産地が名前に入っているもの
和歌山・奈良で焼かれたものだけが名乗れる炭です。
商品名や説明に「和歌山県産」「ウバメガシ」と書かれているかを確かめてください。産地を扱う組合の名前が入っているものもあります。
家庭で使うなら、まず小さい単位から。火持ちがどれくらい違うかは、一度使えば分かります。
土佐備長炭・日向備長炭|産地違いを試す
高知と宮崎の備長炭です。
白炭の生産量がいちばん多いのは高知県で、手に入りやすさでは有利です。同じウバメガシでも、育つ土地で締まり方が変わります。
産地を変えて焼き比べるのも、この道具の楽しみ方のひとつ。ただしいちどに複数の産地を混ぜると、違いが分からなくなります。
ふるさと納税で「紀州の炭」を受け取る
備長炭は、産地の自治体の返礼品にも並びます。和歌山県の自治体が楽天ふるさと納税に出ていて、紀州備長炭を焼いているのは、その山あいにある小さな窯元です。自治体が出しているものなので、この章で書いた産地の確認が、そのまま済みます。炭のほか、備長炭で焙煎したコーヒーのような加工品も見つかります。
ただし返礼品は容量が大きめのことがあります。家庭で使うなら1〜3kgが目安。炭は湿気を吸うので、乾いた置き場所があるかを先に考えてください(6章に書きました)。
4. 焼く以外の使い道
備長炭は、燃やすためだけのものではありません。燃やさずに使う道も、昔から知られています。
炊飯と、水に入れる使い方
米を炊くときに一緒に入れる、あるいは水に入れておくという使い方が、昔からあります。炭の表面には細かい穴が無数にあり、そこが働くといわれてきました。
買うときは「食品用」と書かれたものを選んでください。燃料用として売られている炭は、口に入るものに使う前提で作られていません。
使う前に、よく洗って煮沸します。そのあと乾かして使うのが基本です。数か月使ったら、また煮沸して干すと長く使えます。
置いて使う|下駄箱、押し入れ、冷蔵庫
そのまま置いておく使い方もあります。下駄箱、押し入れ、冷蔵庫。かごや不織布の袋に入った状態で売られているので、そのまま置けます。
湿気を吸ったら、天日に干して戻す。これを繰り返せば、かなり長く使えます。使い終わった炭は、砕いて土に混ぜるという戻し方もあります。
飾りとして使う人もいる。黒くて艶のある炭は、それだけで置物になります。盛り炭や飾り炭と呼ばれる使い方です。
食品用の備長炭|炊飯と、水に入れる
口に入るものに使うなら、食品用と書かれたものを。
燃料用とは分けて売られています。米と一緒に炊いたり、水に入れたりする使い方に合わせて、小ぶりで扱いやすい形になっています。
使う前に洗って煮沸し、乾かしてから。数か月たったら、また煮沸して干せば戻ります。
置いて使う備長炭|下駄箱・押し入れ・冷蔵庫
かごや不織布の袋に入った状態で売られています。
袋のまま置くだけなので、手がかかりません。置き場所に合う大きさを選んでください。
湿気を吸ったら天日に干して戻す。これを繰り返せば、かなり長く使えます。最後は砕いて土に混ぜるという戻し方も。
5. 安全に使う|換気・敷板・後始末
屋内で使うなら、換気は必須です
炭を燃やすと一酸化炭素が出ます。においも色もないので、気づきません。閉め切った部屋で炭を使うのは、絶対に避けてください。
窓を開ける、換気扇を回す。できれば両方。テントや車の中で使うのは、とくに危険です。
下に敷くものも要ります。七輪でも下は熱くなるので、敷板や耐熱のマットを必ず挟んでください。
火を消すのは、水ではありません
水をかけて消すのは避けてください。急に冷やすと炭が割れて飛びますし、七輪なら本体を傷めます。
基本は火消しつぼです。ふた付きの容器に炭を入れて、空気を断って消す。そうして消した炭は、乾かせば次も使えます。この炭を消し炭と呼びます。火が付きやすいので、次回の火種に。
消えたように見えても、中はまだ熱を持っています。ふたをしたまま、完全に冷めるまで置いてください。燃えるものの近くに置かないこと。
6. よくある質問(FAQ)
「備長炭」と「紀州備長炭」は、何が違うのですか?
産地の縛りがあるかどうかです。「紀州備長炭」は和歌山県木炭協同組合が商標として登録していて、紀州(和歌山県・奈良県)で焼かれたものでないと名乗れません。
「備長炭」だけなら、その縛りはありません。産地を確かめたいなら、「紀州」「土佐」「日向」といった産地名が付いているかを見てください。
火が付きません。どうすればいいですか?
備長炭だけで火を起こそうとしないでください。白炭は硬く締まっているぶん、着火に時間がかかります。着火剤や成形炭で火種を作り、そこへ足すのが確実です。
火が回るまでは、うちわであおぐより空気の通り道を作るほうが早いです。炭を立てて並べ、下から空気が抜けるようにしてみてください。
家庭で買うなら、何kgがいいですか?
1〜3kgです。七輪で数回なら1kg、家族でBBQを何度かするなら3kg。15kgは飲食店向けの単位なので、置き場所に困ります。
炭は湿気を吸います。余らせるより、使い切れる量を買って、乾いた場所で保管するほうが確実です。
ご飯を炊くのに使えますか?
「食品用」と書かれたものを選んでください。燃料用の炭は、口に入るものに使う前提で作られていません。
使う前によく洗って煮沸し、乾かしてから入れます。数か月使ったら、また煮沸して干す。そうやって繰り返し使うものです。
室内で使ってもいいですか?
換気ができる場所でだけにしてください。炭を燃やすと一酸化炭素が出ます。においも色もないので気づけません。
窓を開け、換気扇を回す。できれば両方です。テントや車の中で使うのは、絶対に避けてください。下には敷板か耐熱マットを必ず挟みます。
使い終わった炭は、どうすればいいですか?
火消しつぼでふたをして、空気を断って消します。水をかけないでください。炭が割れて飛びますし、七輪なら本体を傷めます。
そうして消した炭は「消し炭」といって、次の火種になります。火が付きやすいので、取っておくと次が楽です。完全に冷めるまで、燃えるものの近くに置かないこと。
7. まとめ:見るのは「備長炭」の前の2文字
炭火が違うのは、火が強いからではありません。その強さが最後まで変わらないからです。支えているのは炭の硬さで、硬さは何の木を、どう焼いたかで決まります。
備長炭は、水に沈むといわれるほど硬いウバメガシを、職人が勘を頼りに1週間かけて焼いたもの。高温の窯から掻き出して灰で一気に冷ますから、締まった炭になります。その代わり、火は付きにくい。
選ぶときに見るのは、「備長炭」の前に付く2文字です。「紀州備長炭」は和歌山・奈良で焼いたものしか名乗れません。商標として登録されているからです。土佐なら高知、日向なら宮崎。産地名が、そのまま出どころを教えてくれます。
買う量は家庭なら1〜3kg。屋内で使うなら換気を必ず、消すのは水ではなく火消しつぼで。
山あいの窯で、いまも人の手で焼かれています。次に炭を選ぶときは、袋の産地欄をのぞいて、日本の産地の一袋をぜひ手に取ってみてください。