同じように振っているのに、あの子は大皿に乗って、自分は乗らない。その差を生んでいるのは、腕でも慣れでもなく、けん玉そのものかもしれません。
「子どもの頃にやってみたけれど、大皿にすら乗らなかった」
そこで止まっている方は、多いのではないでしょうか。まず見てほしいのは、パッケージに日本けん玉協会の公認シールがあるかどうかです。うまくなるのは結局そのあとの練習ですが、規格どおりに作られたけん玉なら、できない原因が道具にあるのかどうかで迷わずに済みます。
そしてその「けん玉」は、いま世界語になりました。kendamaと書いて通じ、海外には競技人口があり、世界大会まで開かれています。生まれたのは広島県廿日市市、いま競技用を作っているのは山形県長井市。日本の中でも、生まれた土地と作る土地が離れているのが面白いところです。
この記事では、2,480円の一本から、16,000円の漆仕立てまで、日本製のけん玉の選び方をまとめます。公認シール、糸の長さ、木の種類、そして長く使うための手入れまで。技のやり方には踏み込みません。
【早見表】誰が使うかで決まる、けん玉の選び方
| 使う人 | 選ぶもの | 糸の長さ | 価格の目安 |
|---|---|---|---|
| 大人・小学生の入門 | 協会認定の競技用 | 38〜40cm | 2,480円〜 |
| 小さい子・シニア | 皿の大きいモデル | 35cm前後に短く | 2,980円〜 |
| 技を増やしたい | 粘る塗装のもの | 38〜40cm | 3,600円〜 |
| 贈り物・記念に | 漆・銘木のもの | 38〜40cm | 16,000円〜 |
| まず見るところ | — | — | 日本けん玉協会の公認シール |
1. 大皿に乗らなかったのは、けん玉のせいかもしれません
けん玉は、見た目がどれも似ています。木の玉に、十字の形をした木の持ち手。値段は数百円から二万円を超えるものまであって、何が違うのか分かりにくい道具です。
けれど、決定的な差がひとつあります。日本けん玉協会が定めた競技用の規格で作られているかどうかです。規格に沿ったものには公認シールが貼られ、パッケージにもその旨が書かれています。
規格が揃えているのは、玉が触れる面です
競技用けん玉は16-2型と呼ばれる規格に沿って作られ、完成品の検査を通ったものだけが認定されます。全長18cm、けんが16cm、皿胴の幅が7cm、玉の直径が6cm。
揃えてあるのは寸法だけではありません。皿のふちの丸み、すべり止めの丸み、すべり角、そして紐の取り付け方まで、同じ仕様と決められています。玉が触れる面の条件を、どの一本でも同じにしてあるということです。
規格の外にあるものは、そこが揃っているとは限りません。うまくいかないときに、原因を道具から切り分けられない。初めての一本としては、そこがいちばん困るところだと思います。
認定品はもうひとつ、段位の審査(初段以上)と、協会が主催する大会では使用が義務づけられています。誰が持っても同じ条件で競うためです。玩具安全基準のSTマークも取得しているので、子どもに持たせるときの安心材料にもなります。
豆知識:百円ショップのけん玉が悪いわけではありません
百円ショップにも木製のけん玉が並んでいます。触ってみる入口としては、まったく問題ありません。子どもが興味を持つかどうかを確かめるには、むしろ手軽です。
分かれ道は、続ける気になったときです。大皿・小皿までは遊べても、そこから先の技になると、規格の差がそのまま結果に出ます。「面白い」と思った時点で、規格品に持ち替えてください。そこからの伸びが変わります。
2. 糸の長さを変えるだけで、別物になります
目安は「玉が膝の高さ」
買ってすぐできて、いちばん効くのがこれです。けんを持って腕を下ろしたとき、玉が膝あたりに来る長さが目安になります。標準は38〜40cmほどです。
長すぎると、玉が余計に振れて狙いが定まりません。短すぎると、玉を引き上げる余裕がなくなります。どちらも「技が決まらない」という同じ症状になるので、原因に気づきにくいところです。
小さいお子さんには、35cm前後まで短くしてみてください。身長に対して糸が長いままだと、振り上げた玉が体に当たります。結び目をほどいて調整するだけなので、買い直す必要はありません。
糸はけんの穴と玉の穴に通して結んであるだけです。ビーズを外して結び直せば、長さは自由に変えられます。家族で共有するなら、使う人に合わせて締め直すのが早道です。
検定や大会に出るつもりがあるなら、ひとつだけ補足を。認定けん玉は、塗装を足したり削ったりすると認定品として扱われなくなります。ただし糸の長さの調整と、サインの書き込みは例外なので、ここは気兼ねなく合わせてください。協会が主催する公式の大会では、糸の長さは38cm以上(小学生は35cm以上)と決められていて、上の目安はその下限とちょうど重なります。
3. 広島で生まれ、山形で作られている
いまの形のけん玉が生まれたのは広島県廿日市市だとされています。木工の町で、いまもイワタ木工が競技用けん玉を作り続けています。
一方、競技用けん玉の代名詞になっているのは山形県長井市の山形工房です。もとは木地玩具や民芸品を作っていた工房で、1977年に競技用けん玉の製造を始め、翌1978年に日本けん玉協会の指定工場になりました。看板商品の「大空」は、公式サイトに生産国:日本と明記されています。
「kendama」は、そのまま世界語になりました
海外ではkendamaと書いて通じます。翻訳されずに日本語のまま定着した、めずらしい部類の言葉です。競技人口があり、世界大会も開かれています。
面白いのは、向こうでは子どもの玩具というより、スケートボードに近い扱いになっていることです。技を連続でつなぐ映像が共有され、専用の塗装をした機種が生まれ、日本の工房がそれに応えて新しいモデルを出す。昔遊びとして残ったのではなく、外へ出て別の育ち方をした道具です。
豆知識:玉はサクラ、けんはブナ
競技用の「大空」は、玉にサクラ、けんと皿胴にブナを使っています。同じ木で作らないのには理由があって、ぶつかり合う二つの部品なので、硬さの違う木を組み合わせたほうが傷みにくいからです。
全長18cm、けんが16cm、皿は大小とも7cm、玉の直径が6cm。この数字が決まっているからこそ、誰が持っても同じ条件で技を競えます。
4. 選び方|皿の大きさ・塗装・木
公認シールを確かめたら、あとは使う人に合わせるだけです。寸法は規格で揃っているので、選ぶところは3つしかありません。
① 皿の大きさ|乗りやすさが変わります
競技用の皿は大小とも7cmです。ここを約25%大きくしたモデルもあり、そのぶん玉が乗りやすくなります。
小さいお子さんや、久しぶりに手に取る方には、こちらが向きます。「乗らない」で終わらずに、まず成功する体験ができるかどうかは大きな差です。
皿が大きくても級や準初段の検定には使えますので、上達の道が閉じるわけではありません。
② 塗装|つるつるか、粘るか
同じ形でも、塗装によって玉の止まり方が変わります。表面がつるつるしたものは玉が滑り、粘りのある塗装は玉が止まりやすい。技を増やしていきたい人ほど、後者を選びます。
ストリート向けに作られた機種は、このグリップを意図して仕上げてあります。最初の一本は標準のもので構いません。物足りなくなってから考えれば十分です。
③ 木|見た目のためだけではありません
標準はブナとサクラですが、けやき、イタヤカエデ、えんじゅといった木で作られたものもあります。木目がそのまま見えるので、道具というより工芸品の顔つきになります。
さらに上には漆仕立てや、紫檀・マホガニーといった銘木のものがあります。こちらは競技用というより贈り物や記念の一本という位置づけです。
5. 用途別のおすすめ
どれが優れているかではなく、誰が使うかで選んでください。どれも日本けん玉協会の認定品か推奨品で、生産国は日本です。
最初の一本(山形工房 大空・標準色)
迷ったら、ここから。
日本けん玉協会の認定品で、級・段位の検定にも公式大会にも使えます。全長18cm、玉はサクラ、けんと皿胴はブナ。2,480円で、この先ずっと使える一本が手に入ります。
色は8色あります。見た目で選んでかまいません。中身は同じで、性能に差はありません。
小さい子・久しぶりの方へ(福祉けん玉 大晴)
皿が約25%大きい、乗りやすい一本。
同じ山形工房が、初めての人のために作ったモデルです。競技用より皿を大きくして軽くしてあるので、まず「乗った」という手応えが得られます。
日本けん玉協会の推奨品で、級と準初段の検定には使えます。易しいだけの入門用ではなく、そのまま続けられる道具です。
木目を楽しむ(さくら・けやき・イタヤカエデ)
塗りつぶさずに、木を見せる。
標準色は塗装で仕上げますが、こちらは木目がそのまま見えます。手に取るたび一本ずつ表情が違うので、道具として持つ楽しさが出ます。
3,200円。認定品なので、検定にも大会にも使えます。大人が自分用に選ぶなら、この帯がちょうどいいと思います。
技を増やしたい(大空 STREET)
玉が止まる塗装。
海外で育ったストリートの技に合わせて作られた機種です。表面に粘りがあるので、玉が皿やけん先で止まりやすくなります。連続技を狙う人向けです。
3,600円。最初の一本にする必要はありません。標準のもので物足りなくなってからで十分です。
発祥の地から(イワタ木工 夢元無双)
広島県廿日市市、けん玉が生まれた町。
2003年から2008年まで作られた「夢元」が、2013年に「夢元無双」として復活したものです。従来の形にとらわれず、バランス技が止まりやすい設計になっています。
山形の大空とは、持ったときの感触がまるで違います。二本目に、あえて違う工房のものを選ぶという買い方もあります。
贈り物・記念に(漆仕立て・銘木)
遊ぶ道具から、飾れるものへ。
漆で仕上げたものが16,000円、紫檀やマホガニーといった銘木のものが2万円台。ここまで来ると、玩具というより木工品です。
海外の方への贈り物にも向きます。「kendama」は説明が要らない言葉ですし、日本の木と職人の仕事が、そのまま手のひらに収まっています。
6. 長く使う|糸の替えどきと玉の手入れ
糸は消耗品です
いちばん先に傷むのが糸です。けんの穴で擦れるので、そこから毛羽立ってきます。細くなってきたら、切れる前に替えてください。
認定品には替え糸が付いていることが多いので、まずは箱の中を確認してみてください。付いていなくても、替え糸だけで手に入ります。
糸が切れて玉が飛ぶと、それ自体が危ないので、ここはためらわずに替えるところです。
玉は、削れていくのが普通です
使い込むと、玉の穴のふちや皿の角が削れてきます。これは傷みではなく、使った跡です。むしろ角が少し落ちたほうが、玉が引っかからずに乗るようになります。
気をつけたいのは水気です。木なので、濡れたまま置くと膨らんだり割れたりします。汗をかいた手で握ったら、乾いた布で拭いてからしまってください。
玉だけの交換部品も売られています。けんが手に馴染んでいるなら、玉だけ新しくするという直し方もできます。
7. よくある質問(FAQ)
百円ショップのけん玉ではだめですか?
入口としては問題ありません。興味を持つかどうかを確かめるには、むしろ手軽です。
分かれ道は続ける気になったときです。大皿・小皿までは遊べても、その先の技になると規格の差が出ます。「面白い」と思った時点で、公認シールのあるものに持ち替えてください。
何歳から遊べますか?
競技用の対象年齢は5歳以上が目安です。それより小さいお子さんには、皿の大きいモデルを選び、糸を35cm前後まで短くすると扱いやすくなります。
重さを軽くするより、糸を短くするほうが先に効きます。身長に対して糸が長いままだと、振り上げた玉が体に当たります。
公認シールがあるかどうかは、どこで分かりますか?
パッケージと、けん玉本体です。日本けん玉協会の認定品には、その旨がパッケージに書かれ、本体にもシールが貼られています。
通販で買うなら、商品ページに「日本けん玉協会認定」と書かれているかを見てください。書かれていなければ、認定品ではないと考えたほうが安全です。
糸が切れました。買い直しですか?
替え糸だけで直せます。糸はけんの穴と玉の穴に通して結んであるだけなので、自分で交換できます。
認定品には替え糸が付属していることが多いので、まず箱を確認してみてください。長さを変えるついでに、使う人に合わせて調整するのもおすすめです。
皿の大きいモデルだと、検定は受けられませんか?
級と準初段までは受けられます。日本けん玉協会の推奨品として認められているためです。
その先の段位を目指すなら競技用が要りますが、そこまで進む頃には、二本目が欲しくなっているはずです。最初から競技用で苦労するより、乗る楽しさを先に知るほうが続きます。
海外の人への贈り物に向きますか?
向きます。「kendama」は、そのまま通じる言葉です。海外には競技人口があり、世界大会も開かれています。
渡すなら、木目の見えるものや漆仕立てが喜ばれます。日本の木と職人の仕事が、説明なしで伝わる形になっているためです。替え糸を一本添えておくと、より親切です。
8. まとめ:シールを見て、糸を合わせる
大皿に乗らなかったのは、腕のせいではないかもしれません。まず見るのは、日本けん玉協会の公認シール。玉の重さも皿の深さも規格で決まっているので、規格品は素直に落ちてきます。
次に糸の長さ。腕を下ろして玉が膝の高さに来るくらいが目安で、標準は38〜40cmです。小さいお子さんなら35cm前後まで短く。結び直すだけで、難しさが変わります。
あとは使う人に合わせるだけです。乗る手応えが先に欲しいなら皿の大きいもの、技を増やしたいなら粘る塗装のもの。木目や漆を選べば、遊び道具から工芸品の顔になります。
けん玉は広島県廿日市市で生まれ、いま競技用は山形県長井市で作られています。山形工房が競技用を作り始めたのが1977年、翌年には協会の指定工場になりました。その間に「kendama」は世界語になり、海を渡って別の育ち方をしています。2,480円の一本が、その真ん中にあります。