「渓流釣りをやってみたいけれど、道具を揃えるのが大変そう」
そう思って踏み出せずにいる方は、多いのではないでしょうか。テンカラなら、その心配は要りません。要るのは竿、ライン、ハリス、毛鉤の4つだけ。リールもありません。
日本の山で受け継がれてきた釣り方です。糸の先に毛鉤を一つ結び、それだけで渓流の魚を狙います。竿を仕舞えば57cm。リュックに差して山へ入れる、そういう軽さの釣りです。
そして面白いことに、いまこの釣りはtenkaraと書いて海外で通じます。英語圏のフライフィッシングのなかで、ひとつのジャンル名として定着しました。
この記事では、竿の長さの選び方から、毛鉤とラインの組み合わせ、そして川に入る前に確かめることまでをまとめます。投げ方には踏み込みません。
【早見表】テンカラに要るもの、4つ
| 道具 | 役割 | 入門の目安 |
|---|---|---|
| 竿 | これがほぼすべて | 3.0〜3.6m |
| ライン | 毛鉤を運ぶ重み | レベルライン(フロロカーボン) |
| ハリス | ラインと毛鉤をつなぐ | 0.8号ほど |
| 毛鉤 | 餌の代わり | 数個あれば足りる |
| リール | — | 使いません |
| 川に入る前に | — | 遊漁券と解禁期間の確認(6章) |
1. 要るのは4つだけ。リールもありません
釣りを始めようとすると、たいてい道具の多さで止まります。竿があって、リールがあって、糸があって、仕掛けがあって、そのうえルアーやら錘やらが要る。始める前に、揃えることで疲れてしまうのがふつうです。
テンカラは、そこがまるで違います。竿、ライン、ハリス、毛鉤。この4つで成立します。竿の先に糸を結び、糸の先に毛鉤を一つ付ける。それだけです。
リールが無いと、何が変わるのか
いちばん大きいのは軽さです。リールが無いぶん手元に重みがなく、竿全体が軽くなります。一日中振っていても腕が残ります。
次に覚えることの少なさです。糸を巻き取る操作がないので、道具の扱いで迷う場面がほとんどありません。糸の長さは最初から決まっていて、あとは振って、落として、合わせるだけ。
そのぶん、狙える範囲は竿とラインの長さまでに限られます。遠くへ飛ばす釣りではありません。目の前の流れを丁寧に探っていく釣り方です。
豆知識:ラインが「重り」の代わりをします
毛鉤はほとんど重さがありません。ではどうやって飛ばすのか。ラインそのものの重みで運びます。だからテンカラのラインは、ふつうの釣り糸より太くて張りのあるものを使います。
主流はレベルラインと呼ばれるフロロカーボンの糸で、太さが均一なものです。号数を上げれば飛ばしやすく、下げれば風に流されにくくなるので、慣れてくると同じ竿のまま感触を変えられます。
2. 竿の長さ|3.0〜3.6mから。仕舞えば57cm
迷ったら3.6m、木が近いなら3.0m台前半
テンカラ竿は、おおむね3.0mから4.5mまであります。入門なら3.0〜3.6mが扱いやすいところです。
長いほど遠くの流れに届き、短いほど振り回しやすい。渓流は木の枝が頭上まで張り出していることが多いので、狭い沢に入るなら短めが正解になります。開けた本流なら、長いほうが有利です。
1本で長さを変えられる竿もあります。手元を伸ばして3.1mと3.6mを切り替えるような機構で、どちらの川に行くか決めきれないときには、これが早道です。
仕舞寸法を見てください
テンカラ竿は振り出し式です。使うときに伸ばし、終わったら縮めてしまいます。この縮めた状態の長さを仕舞寸法といいます。
たとえば宇崎日新のスターターセットは、3.15mの竿でも3.60mの竿でも、仕舞寸法は57cmです。リュックの脇に差せる長さで、自重は60〜65g。ペットボトル1本より軽い計算になります。
山へ歩いて入るなら、ここが効きます。電車で移動して沢を詰める、という遊び方ができるのは、この寸法のおかげです。
3. 「tenkara」は、海を渡って別の育ち方をした
テンカラは、もともと日本の山で暮らす人たちの釣り方でした。餌を用意する手間をかけずに川魚を獲るための、生業に近い技術です。
それがいま、tenkaraという綴りのまま海外で通じます。英語圏のフライフィッシングのなかでひとつのジャンル名として確立しているので、翻訳されずに残った言葉のひとつです。
向こうで受けたのは、おそらく道具が少ないことでした。リールもフライラインも要らず、竿と糸と毛鉤だけで山に入れる。装備を削ぎ落とす方向の遊びとして読み替えられたわけです。日本では生業から始まったものが、海外ではミニマリズムとして受け取られた。同じ道具で、入口がまるで違います。
4. 作っているのは、兵庫県丹波市
竹から始まって、いまも国内で焼いている
テンカラ竿を作っているメーカーのひとつが、兵庫県丹波市の宇崎日新です。創業は1948年。竹を素材とする竿の製造から始まり、グラスファイバーを経て、いまのカーボンに至っています。
公式サイトには「日本国内を生産拠点とし」「ロッドでは日本で数少ない自社一貫製造国内ライン」「自社窯を持った製造メーカー」と書かれています。カーボンの竿は窯で焼いて仕上げるので、その窯を自社で持っているかどうかは、作りの根っこに関わります。
テンカラだけで十を超える機種を並べているのも、この会社の特徴です。入門用から本流用まで、同じ工場の中で作り分けられています。
豆知識:釣竿は「日本製」とは限りません
これは覚えておいて損のないところです。大手メーカーの竿でも、生産は海外という製品がめずらしくありません。ブランド名は日本の会社でも、その一本がどこで作られたかは別の話です。
日本製を探しているなら、見るのはメーカー公式サイトの生産体制や原産国の記載です。通販ページの説明文ではなく、作っている会社が自分で書いているところを確かめてください。
5. 用途別のおすすめ
最初の一本は迷わないことが大事です。竿・ライン・毛鉤がひととおり入ったセットから入れば、届いた日に川へ行けます。
最初の一式(宇崎日新 テンカラ スターターセット)
届いたその日に、川へ行けます。
竿、仕掛けセット(毛鉤付き)、スペアの毛鉤3個、毛鉤ケース。4つの道具がひととおり揃っています。結び方が分からなくても、仕掛けは組んだ状態で入っています。
3.15m(自重60g)と3.60m(65g)の2種類。どちらも仕舞寸法57cmです。迷ったら、行く川が狭ければ短いほう、開けていれば長いほうを選んでください。
標準の一本(宇崎日新 ZEROSUM テンカラ)
長さを選んで、そこから始める。
3.2m・3.6m・4.05m・4.5mとラインナップがあるので、通う川に合わせて決められます。セットではなく竿だけなので、ラインと毛鉤は好みで組めます。
2本目にも向きます。最初のセットで感触をつかんだあと、行く川が決まってきたら、その川に合う長さを一本足すという買い方があります。
1本で2つの長さ(宇崎日新 PRO SPEC 2WAY テンカラ)
行く川を決めきれないときに。
3.1mと3.6mを1本で切り替えられるズーム式の竿です。狭い沢に入ってから開けた場所に出る、という渓流ではこれが効きます。
グリップはひょうたん型のコルク。握りが手に収まるので、長さを変えても持ち替えの違和感が出にくくなっています。
小さな沢・持ち歩き(宇崎日新 TENKARA MINI)
頭上に枝がある川へ。
源流に近い細い流れは、竿を振る空間がありません。短い竿のほうが、はるかに扱えます。木をかわしながら、目の前の落ち込みを一つずつ探っていく釣りになります。
荷物を減らしたい人にも。登山や沢歩きのついでに一本入れておく、という持ち方ができます。
毛鉤(数個あれば足ります)
まずは市販のセットで十分です。
毛鉤には浮き毛鉤、本毛鉤、逆さ毛鉤、番傘毛鉤といった種類があります。なかでも逆さ毛鉤は、ハックルが前を向いた独特の形で、テンカラらしい一本です。
職人が一つずつ手で巻いた毛鉤もあります。慣れてきたら自分で巻く人も多く、そこまで行くと道具集めではなく作る楽しみになります。
ライン・ハリス(消耗品です)
ここは切れて当たり前の部分。
主流はレベルラインと呼ばれるフロロカーボンで、太さが均一なものです。ハリスは0.8号ほどが目安。どちらも根がかりや木への引っ掛けで失うので、替えを持っていくものです。
号数を変えると、同じ竿でも感触が変わります。太くすれば飛ばしやすく、細くすれば風に流されにくい。竿を買い足す前に、ここを試すほうが安上がりです。
6. 川に入る前に|遊漁券と解禁期間
道具より先に、ここを確かめてください
渓流の多くは、地元の漁協が管理しています。魚を放流し、川を維持しているのはその漁協です。そういう川で釣りをするには、遊漁券が要ります。
買い方は川によって違いますが、近くの釣具店やコンビニ、川沿いの商店で売られていることが多く、その日だけの券と、一年通しの券があります。最近はスマートフォンで買える川も増えました。
もうひとつが解禁期間です。渓流魚には産卵の時期があるので、釣ってよい期間が決められています。期間の外に竿を出すことはできません。
いつからいつまでか、いくらかかるかは、河川ごとに違い、年によっても変わります。ここに書いた数字を信じるのではなく、入ろうとしている川の漁協が出している案内を、その年に確かめてください。たいてい漁協のウェブサイトか、遊漁券を売っている店で分かります。
面倒に思えるかもしれませんが、この仕組みがあるから川に魚がいます。券を買うことは、その川を維持する費用を分担することでもあります。道具を揃える前に、まず行きたい川を決めて、そこの決まりを見る。それが順番としては正しいところです。
7. よくある質問(FAQ)
本当にリールは要らないのですか?
要りません。竿の先にラインを結び、その先にハリスと毛鉤を付けます。糸の長さは最初から決まっていて、巻き取る操作がありません。
そのぶん狙えるのは竿とラインの長さの範囲までです。遠投する釣りではなく、目の前の流れを丁寧に探る釣り方だと考えてください。
竿の長さは何mを選べばいいですか?
入門なら3.0〜3.6mが扱いやすいところです。迷ったら3.6m。
ただし頭上に木の枝が張り出した狭い沢なら、短いほうが振れます。開けた本流なら長いほうが届きます。決めきれなければ、1本で長さを変えられるズーム式という選択肢もあります。
最初にいくらぐらいかかりますか?
竿・ライン・毛鉤が入ったセットが、いちばん見通しが立ちます。宇崎日新のスターターセットは、メーカー希望小売価格で19,500円(3.15m)と20,500円(3.60m)です。
これに遊漁券が加わります。金額は川ごとに違うので、行き先を決めてから確かめてください。
釣竿は、日本製かどうかどこで分かりますか?
メーカー公式サイトの、生産体制や原産国の記載です。大手ブランドの竿でも海外生産の製品はめずらしくないので、見るのはブランド名ではなく、そこです。
たとえば宇崎日新は、公式サイトに「日本国内を生産拠点とし」「自社一貫製造国内ライン」と明記しています。通販ページの説明文ではなく、作った会社が自分で書いているところを見てください。
毛鉤は何種類も要りますか?
最初は数個で足ります。市販のセットに入っている数で、まず一日遊べます。
種類は浮き毛鉤、本毛鉤、逆さ毛鉤、番傘毛鉤などがありますが、揃えるのは使ってみて「もう少しこうしたい」と思ってからで構いません。失くしやすい道具なので、予備を持つほうが先です。
遊漁券はどこで買えますか?
近くの釣具店やコンビニ、川沿いの商店で扱っていることが多いです。スマートフォンで買える川も増えました。その日だけの券と、一年通しの券があります。
売っている場所も金額も、川ごとに違います。行き先の漁協が出している案内を、その年に確かめてください。あわせて、解禁期間の外では釣りができない点も見ておいてください。
8. まとめ:竿を一本、リュックに差して
テンカラに要るのは4つだけ。竿、ライン、ハリス、毛鉤です。リールがないぶん軽く、覚えることも少なくて済みます。
竿は入門なら3.0〜3.6m。頭上に木があるなら短く、開けた本流なら長く。仕舞えば57cm、重さは60g台なので、リュックに差して山へ入れます。
作っているのは兵庫県丹波市の宇崎日新。1948年に竹の竿から始まり、いまもカーボンを自社の窯で焼いています。ただし釣竿は、大手ブランドでも海外生産がめずらしくありません。日本製を探すなら、見るのはメーカー公式の生産体制や原産国の記載です。
そして道具より先に、行きたい川を決めてください。渓流の多くは漁協が管理していて、遊漁券と解禁期間があります。川ごとに違うので、その年の案内を確かめてから。その仕組みがあるから、川に魚がいます。