「削り器なんて、うまく削れる気がしない」。
そう思って、売り場でそっと戻したことはありませんか。
ところが、難しいのは削る動作ではないんです。刃をどれだけ出すか、それだけ。木槌でどこを叩けば刃が出るのかさえ知っていれば、初日から削れます。
削りたての鰹節は、袋を開けたパックとは香りがまるで違います。ふわりと立ちのぼって、湯気に乗って鼻に届く。冷奴にひとつまみ載せただけで、いつもの一皿が変わります。
このページでは荒節と本枯節の違い、売り場でいちばん分かりにくい「血合い抜き」、そして削り器の選び方と刃の調整までをまとめます。
【早見表】鰹節の種類と向く料理
| こう使いたい | 選ぶもの | 特徴 |
|---|---|---|
| まず削ってみたい | 荒節(一本) ▾ | 香りが強い。価格が抑えめで、練習にも向く |
| 上品なだしが欲しい | 本枯節(一本) ▾ | カビ付けを繰り返したもの。魚臭さが消える |
| 吸い物・茶碗蒸しに | 血合い抜きの削り節 ▾ | だしが澄む。手間のぶん高い |
| 味噌汁・煮物に | 血合い入りの削り節 ▾ | コクはこちらが強い。安い |
| 道具から入る | 削り器 ▾ | 刃は特殊鋼が切れる。調整が9割(5章) |
| 売り場での確認 | 叩いて音を聞く | カンカンと澄んだ音なら乾燥が足りている |
| そばつゆ・煮物に | 厚削り ▾ | 薄削りより長く煮出せる。返しに向く |
1. 荒節と本枯節|カビを付けるかどうか
鰹節は大きく荒節(あらぶし)と本枯節(ほんかれぶし)に分かれます。違いは一点、カビを付けるかどうかです。
カビは、失敗ではなく道具です
「カビが生えたものを食べるのか」。初めて本枯節を見た方は、そう身構えると思います。ですが、これは意図して付けたものです。
使われるのはユーロティウム属のカビで、鰹節の世界では「優良鰹節カビ」と呼ばれています。役割は二つ。節の内部に残った水分をさらに抜くことと、脂肪分を分解することです。
脂が分解されると、魚特有の匂いが消えて、風味が上品になります。長く置けるようにもなります。腐敗を防ぐために付けているのではなく、味を変えるために付けている。ここが分かると、白い粉の見え方が変わるはずです。
期間の差は、カビを付けた回数の差
本枯節は荒節の表面を削ってからカビを付け、天日に干すという工程を繰り返します。完成までは3か月から半年。
この幅は、カビを付けた回数の差です。回数が多いほど水分が抜け、脂が分解されます。値段の差の中身は、ほぼこの時間だと考えてかまいません。
| 荒節 | 本枯節 | |
|---|---|---|
| カビ付け | しない | 繰り返す |
| 仕上がりまで | 短い | 3か月〜半年 |
| 味 | 香りが強く、力強い | 魚臭さが消え、上品 |
| 向く料理 | 毎日のだし・かけ節・お好み焼き | 吸い物・お浸し |
本枯節が常に上、という話ではありません。お好み焼きや冷奴にかけるなら、荒節の強い香りのほうが立ちます。上品さが欲しい料理と、香りで押したい料理は別だからです。
目と指先で、一本ずつ確かめている
カビを付ける前の工程が、実はいちばん手がかかります。
皮、皮下脂肪、骨、不純物。これらを、職人が目と指先で確かめながら取り除いていきます。魚は一本ずつ大きさも状態も違うので、決まった手順どおりには進みません。その都度、手で加減を変えます。
だから本枯節は、形が整っているものほど手が入っています。売り場で並べて見比べると、削り面のなめらかさや、角の立ち方が違うのが分かります。
1本のカツオから、4本の節が取れます
節には背節(雄節)と腹節(雌節)があります。カツオ1尾から、背節2本・腹節2本の計4本が取れる仕組みです。
違いは脂の量で、背側の雄節は脂が少なくさらさら、腹側の雌節は脂が多くしっとりしています。 「どちらがだし向きか」については、説明が出典によって割れています。迷ったらまず雄節から。削ったときに崩れにくく、扱いやすいためです。
2.血合い抜きは「上位版」ではありません
削り節の袋に「血合い抜き」と書かれたものがあります。同じ売り場で、隣より高い。
高いほうが良いもの、と考えたくなります。ところがこれは、上下ではなく用途の違いです。
血合いとは、背と腹のあいだにある、血管が集まって血がたまる部分です。暗い赤色をしています。これを取り除いたものが「血合い抜き」です。
| 血合い入り | 血合い抜き | |
|---|---|---|
| だしの色 | 濃い | 澄んで透明感がある |
| 味 | コクが強い | 雑味が少なく上品 |
| 削り節の色 | 濃い | きれいな桜色 |
| 成分 | 鉄・ビタミン・タウリンを含む | 抜いたぶん減る |
| 価格 | 安い | 抜く手間のぶん高い |
| 向く料理 | 味噌汁・麺つゆ・煮物 | 吸い物・茶碗蒸し・色を残したい料理 |
味噌汁に血合い抜きを使っても、その良さは分かりません。味噌の香りに隠れてしまうからです。むしろ血合い入りのコクのほうが、味噌汁には合います。
逆に吸い物や茶碗蒸しでは、だしの色がそのまま料理の見た目になります。ここで血合い入りを使うと、汁が濁って見えます。高いほうを買うのではなく、作る料理で決めるのが正解です。
3. 産地|3つの市で98%が作られている
国産の鰹節は、驚くほど狭い範囲で作られています。
鹿児島県枕崎市、鹿児島県指宿市、静岡県焼津市。この3市で、国産鰹節の98%を占めます。全国に散らばっていそうな食品ですが、実際には産地がここに集約されています。
- 枕崎(鹿児島)|最大の産地。鰹節といえばまずこの名前が出ます
- 指宿・山川(鹿児島)|本枯節の技術が高く、形のきれいな節を作ることで知られます
- 焼津(静岡)|15軒ほどの工場があり、日本一の生産量を持つ工場もここにあります
袋にこの地名が書かれていれば、それが産地表示です。とくに本枯節を買うなら、指宿・山川の名前は目印として覚えておく価値があります。
4. 選び方|節と削り器の候補
ここまでを踏まえた候補です。初めてなら、荒節と削り器を一緒に。というのが素直な入り方だと思います。
いきなり本枯節を買うのはおすすめしません。刃の調整に慣れないうちは削り損ないが出ますし、本枯節は硬いぶん、最初の一本としては手強いからです。
堅魚屋/新丸正(静岡・焼津)|荒節
最初の一本はここから。
日本一の生産量を持つ工場がある焼津で、80年以上つくり続けてきた蔵。工場直売の「堅魚屋(かたうおや)」では、削りたての試食ができます。
カビ付けをしていない荒節は香りが強く、削ったときの立ち上がりがはっきり分かります。本枯節より柔らかく、刃の調整を覚えるのにも向きます。
お好み焼きや冷奴にかけるなら、むしろこちら。上品さより香りで押す場面では、荒節が勝ちます。
金七商店(鹿児島・枕崎)|クラシック節
吸い物のだしが変わります。
カビ付けを繰り返して3か月〜半年かけた本枯節。魚臭さが抜け、だしが澄んで上品になります。
この蔵は、カビを付けているあいだ、蔵にクラシック音楽を流しています。だから「クラシック節」。枕崎で、伝統的な本枯節の製法をそのまま続けている作り手です。
硬いので、削り慣れてから。指宿・山川産は本枯節の技術で知られます。
台屋(新潟・三条)|削り器
これがあるかどうかで、全部が決まります。
もともと「鉋台屋」大工が使う鉋の台を作ってきた工場が、その技術で削り器を作りました。1946年の創業。刃は大工の鉋と同じ青紙やSKの鋼、台は数年かけて自然乾燥させた白樫です。
削り器で難しいのは刃の調整だけ(5章)。その調整をする台こそが本業の会社。というのが、この一台の由来です。
木槌が付属するかを確認してください。刃の調整に要ります(5章)。無ければ小さめの金槌でも代用できます。
にんべん(東京・日本橋)|血合い抜き削り節
吸い物・茶碗蒸しに。
1699年(元禄12年)創業。伊勢から出てきた高津伊兵衛が、20歳のときに江戸で鰹節の商いを始めたのが始まりです。300年以上、鰹節を扱ってきた店。
血合いを抜いた削り節はだしが澄み、削り節そのものも桜色になります。色を残したい料理で本領を発揮します。
味噌汁に使っても差は分かりません。味噌の香りに隠れます。用途を決めてから買うほうが無駄になりません。
血合い入りの削り節(毎日用)|買い替えなくていい一袋
味噌汁と煮物なら、こちらで十分です。
コクは血合い入りのほうが強く、価格も抑えめ。鉄・ビタミン・タウリンを含みます。
削り器を買っても、こちらは常備しておくと楽です。毎日ぶんを毎回削るのは、正直に言って続きません。
厚削り|そばつゆ・煮物の返しに
そばつゆ・煮物の「返し」に。
厚く削ったもので、長く煮出して強いだしを取るための節です。薄削りとは使いどころが違います。
吸い物に使うと重くなります。麺つゆを自作したい方向けの一袋です。
5. 削り器の使い方|刃の調整が9割
削り器が届いたら、まず刃を見てください。ここさえ合えば、あとは押すだけです。
うまく削れない原因は、腕ではなく刃の出すぎ。厚く出ていると、削れずに欠けます。
木槌で、台座のどこを叩くか
調整は木槌で軽く叩くだけ。覚えることは二つしかありません。
台座の下部を叩けば刃が出て、上部を叩けば引っ込みます。
目安は、指先で触って紙1枚分。それ以上出ていると厚く削れて、節が欠けます。
刃を引っ込めた状態から始めて、少しずつ出してください。最初から出しておくと、いきなり失敗します。
削れなければ、少し出す。この順番なら失敗しません。
削る向きを間違えると、粉になります
鰹節には目があります。逆向き、つまり逆目に削ると、削り節にならずに粉になります。
せっかく刃を合わせても、ここでつまずくと台無しです。
- 刃先を自分のほうに向ける
- 頭側を下にして、頭側から削る
- 頭側の斜めになった部分を台座に合わせると、当たりが安定します
力はほとんど要りません。刃が合っていれば、軽く押すだけで薄い削り節がふわりと出てきます。
力を込めている時点で、刃の調整に戻る合図です。
削った分は、その日のうちに
削り節は時間が経つと酸化して、色がくすみ、香りが落ちていきます。
これが削り器を買う理由そのものです。パックの削り節が悪いのではなく、どんな削り節も削った瞬間から香りが減っていく、という話。
その日に使う分だけ削って、残ったらラップか密閉袋に入れて冷蔵庫へ入れてください。
節そのものの保存
削っていない節は、密閉して冷蔵庫が確実です。本枯節は表面にカビを付けたものなので、湿気を与えると新しいカビが出ることがあります。
その場合は、乾いた布で拭き取れば使えます。
「叩いてカンカンと澄んだ音がするか」。これは買うときだけでなく、家でも使える確認方法です。
音が鈍くなっていたら、湿気を吸っています。
6. よくある質問(FAQ)
本枯節の白いカビは、洗ったほうがいいですか?
洗わないでください。水を当てると節が湿気を吸ってしまいます。
表面のカビは意図して付けたもので、ユーロティウム属という鰹節専用のカビです。節の水分を抜き、脂を分解して風味を上品にする役割があります。
気になるなら、乾いた布で軽く拭き取るだけで十分です。
削り器を買っても、続くでしょうか?
正直なところ、毎日ぶんを毎回削るのは続きません。朝の味噌汁のたびに削るのは、現実的ではないからです。
そのため、削り節も一緒に常備しておくことをおすすめします。ふだんはパック、冷奴やお浸しのように香りが主役になる日だけ削る。この使い分けなら無理がありません。
削り器は「毎日の道具」ではなく「香りを立てたい日の道具」と考えると、続きやすくなります。
うまく削れず、粉ばかり出てしまいます
原因はほぼ二つです。
ひとつは刃が出すぎていること。台座の上部を木槌で叩いて引っ込め、指先で触って紙1枚分まで戻してください。
もうひとつは削る向きです。頭側から削っていますか。逆目に削ると、どれだけ刃を合わせても粉になります。
力を込めている時点で、たいてい刃が合っていません。
荒節と本枯節、どちらを買えばいいですか?
作る料理で決めてください。
吸い物・お浸しなど、だしの上品さが出る料理なら本枯節。魚臭さが抜けて澄んだだしになります。
お好み焼き・冷奴・毎日の味噌汁なら荒節。香りが強いぶん、こちらのほうが立ちます。
削り器と一緒に買うなら、まず荒節から。本枯節より柔らかく、刃の調整を覚えるのに向いています。
雄節と雌節は、どちらがだしに向きますか?
ここは、出典によって説明が割れています。断定できません。
確かなのは脂の量の差です。背側の雄節は脂が少なくさらさら、腹側の雌節は脂が多くしっとりしています。カツオ1尾から、この4本(背2・腹2)が取れます。
迷ったら、まず雄節から試してみてください。脂が少ないぶん削ったときに崩れにくく、扱いやすい方です。
削り節はどれくらい日持ちしますか?
表示の期限に従っていただくとして、風味の話をすると別です。
削り節は時間が経つほど酸化して、変色し、香りが落ちます。期限内でも、開封後は日ごとに変わります。
開封したら、ラップか密閉袋に入れて冷蔵庫へ。削っていない節も同じく密閉して冷蔵庫が確実です。
節を叩いてカンカンと澄んだ音がしなくなっていたら、湿気を吸っています。
7. まとめ:まず、荒節と削り器を一緒に
削りたての鰹節の香りは、パックのものとはっきり違います。そして難しいのは、削る動作ではありません。刃をどれだけ出すかだけです。
木槌で台座の下部を叩けば刃が出て、上部を叩けば引っ込む。目安は指先で触って紙1枚分。引っ込めた状態から始めて、削れなければ少しずつ出す。この順番なら、初日から削れます。力を込めている時点で、刃が合っていない合図です。
節を選ぶときは、カビを付けたのが本枯節、付けないのが荒節。白い粉は失敗ではなく、水分を抜いて脂を分解するために意図して付けたものです。ただし本枯節が常に上ではありません。お好み焼きや冷奴なら、荒節の強い香りのほうが立ちます。
削り節の「血合い抜き」も、上位版ではなく用途違いです。吸い物や茶碗蒸しのように色を残したい料理には血合い抜き、味噌汁や煮物にはコクのある血合い入り。高いほうを買うのではなく、作る料理で決めてください。
国産鰹節の98%は、枕崎・指宿・焼津の3市で作られています。袋にこの地名があれば、それが産地表示です。ぜひ一度、削り器と荒節を一本、台所に置いてみてください。削った日の味噌汁で、違いはすぐに分かります。