毎日使うのに、選び方をきちんと教わる機会がないのが醤油です。棚には濃口、淡口、たまり、再仕込み、白と並んでいますが、その違いを説明できる人は多くありません。
しかも、広く信じられている誤解がいくつかあります。たとえば淡口醤油は、濃口より塩分が高い。色が薄いので体に優しそうに見えますが、逆です。「生醤油」という表示に至っては、読み方によって意味が変わります。この記事では、五種類の違いと製法の見分け方、そして木桶で仕込む蔵元を産地別に紹介します。
【早見表】醤油五種の違い
| 種類 | 主な産地 | 特徴 | 向く使い方 |
|---|---|---|---|
| 濃口 | 全国(流通の約8割) | 香り・色・旨みのバランス型 | 迷ったらこれ。何にでも |
| 淡口(うすくち) | 兵庫・龍野 | ⚠ 色は薄いが塩分は濃口より高い | お吸い物・煮物(色を付けたくない時) |
| たまり | 愛知・三重・岐阜 | 大豆主体でとろみと濃い旨み | 刺身・照り焼き・煎餅 |
| 再仕込み | 山口・島根など山陰山陽 | 塩水の代わりに醤油で仕込む。濃厚 | 刺身・冷奴。かけ醤油として |
| 白 | 愛知・碧南 | 小麦主体。琥珀色で甘みが立つ | 茶碗蒸し・浅漬け |
1. 五種類の違いと、淡口の誤解
日本農林規格では、醤油は濃口・淡口・たまり・再仕込み・白の五種類に分けられます。流通量の約8割は濃口で、私たちが「醤油」と呼んでいるのはほぼこれです。
違いを生むのは、主に大豆と小麦の比率、そして仕込みの水分です。たまりは大豆がほとんどで小麦をわずかしか使わないため、とろりとして旨みが濃くなります。逆に白醤油は小麦が主体で、色が薄く甘みが立ちます。
⚠ 淡口は「薄味」ではありません
ここが最大の誤解です。淡口醤油の塩分は、濃口より高いのが一般的です。製造の過程で塩を多めに使い、発酵を抑えて色を淡く仕上げるためです。
「薄口」と書かれることもあって、味が薄いと受け取られがちですが、薄いのは色だけです。お吸い物や炊き合わせで淡口を使うのは、素材の色を濁らせたくないからであって、塩分を控えるためではありません。減塩したいなら「減塩醤油」を選んでください。淡口に持ち替えると逆効果になります。
再仕込みは、醤油で醤油を仕込む
もうひとつ知っておくと面白いのが再仕込み醤油です。通常は麹に塩水を加えて仕込みますが、この醤油は塩水の代わりに、出来上がった生醤油を使います。仕込みを二度行うようなものなので、原料も期間も倍近くかかります。
結果として、色は黒く、とろみがあり、旨みが凝縮します。山陰から山陽にかけての産地に多く、「甘露醤油」と呼ばれることもあります。加熱料理に使うと持ち味が飛ぶので、刺身や冷奴にそのままかけるのが向いています。
2. 本醸造・混合醸造・混合|表示の読み方
種類の次に見るのが製法の表示です。ラベルの裏、原材料名の近くに小さく書かれています。ここで価格帯がほぼ決まります。
- 本醸造|大豆・小麦・塩・麹だけで、微生物の力で時間をかけて発酵させたもの。半年から一年、長いものは数年。
- 混合醸造|発酵の途中でアミノ酸液を加えるもの。期間を短縮できます。
- 混合|出来上がった本醸造醤油にアミノ酸液を加えるもの。最も工程が短くなります。
⚠ 混合が粗悪という意味ではありません。甘みと旨みが強く出るので、九州では混合の甘口醤油が好まれ、それが土地の味になっています。「本醸造が上位」という単純な話ではなく、目指す味が違うと考えるほうが正確です。
丸大豆と脱脂加工大豆
原材料に「大豆(丸大豆)」と書かれているものと、「脱脂加工大豆」と書かれているものがあります。前者は大豆をそのまま、後者は油を搾ったあとの大豆を使います。
⚠ これも優劣ではありません。丸大豆は油分に由来するまろやかさが出る一方、脱脂加工大豆は発酵が均一に進みやすく、旨みが立ちやすいという性質があります。実際、名の通った蔵が脱脂加工大豆を選んでいることもあります。好みの問題として扱ってください。
3. 「生醤油」には二つの意味がある
店頭で混乱しやすいのがこれです。同じ「生醤油」という字が、二通りに読まれます。
「なましょうゆ」は、火入れ(加熱殺菌)をしていない醤油です。搾ったあとに加熱せず、微細な濾過で仕上げます。香りが華やかで、色も比較的明るい。ただし酵素が生きているぶん変化が早く、開封後は必ず冷蔵が前提です。
「きじょうゆ」は、他の調味料を加えていない醤油という意味で、火入れの有無とは関係ありません。刺身醤油や卵かけご飯用として売られる濃厚なものが該当します。
⚠ 買うときは読み仮名か説明文を確認してください。「生」の一字だけでは、どちらを指すのか決まりません。
4. 産地で選ぶ|木桶で仕込む蔵元
かつて醤油はすべて木桶で仕込まれていました。現在はステンレスやFRPのタンクが主流で、木桶仕込みは全体のごく一部——数パーセントに満たないと言われます。桶を作れる職人がほとんど残っていないためです。
⚠ 木桶だから美味しい、という話ではありません。タンク仕込みでも優れた醤油はいくらでもあります。ただ、木桶は内側の隙間に蔵ごとの菌が棲みつくため、同じ原料でも蔵によって風味が分かれます。その差を楽しみたいかどうか、という選び方になります。
井上醤油店(島根・奥出雲)
木桶と天然醸造を続ける、山陰の小さな蔵。
明治から続く蔵で、原料も製法も絞り込んでいます。看板の「井上古式じょうゆ」は木桶で長期熟成させたもので、香りの立ち方がはっきり違います。
再仕込み系の濃厚な醤油も手がけており、かけ醤油として一本置いておくには向いた蔵です。生産量が限られるため、店頭で見かけない地域も多くあります。

日田醤油(大分・日田)
九州の甘口を、蔵元の仕込みで。
九州の醤油は甘いことで知られますが、その甘さの出し方は蔵ごとに違います。日田は江戸期から続く蔵で、天皇献上の歴史を持ちます。
刺身にも煮物にも使える設計で、関東の濃口に慣れた人が「九州の味」を試す最初の一本として分かりやすい蔵です。味噌も手がけています。

河村醤油(山口)
再仕込みの本場で、小規模に作り続ける蔵。
山口は再仕込み醤油の産地として知られる土地です。塩水ではなく生醤油で仕込み直すため手間も原料も倍近くかかりますが、そのぶん旨みが凝縮します。
刺身や冷奴にそのままかける用途で持ち味が出ます。加熱すると特徴が飛びやすいので、煮炊きには濃口を別に用意するのが賢明です。
かけ醤油に|再仕込み・たまり
旨みが濃く、卵かけご飯や刺身に向く
塩水の代わりに醤油で仕込む再仕込みと、大豆主体のたまり。どちらも加熱すると持ち味が飛ぶので、かけて使うのが本領です。卵かけご飯に一本置くなら、この二つのどちらかを。
煮炊き用|本醸造の濃口
毎日使うほうは、手に入りやすいものでよい
煮物や照り焼きは加熱するので香りは飛びます。ここに高価な醤油を使うのはもったいない。本醸造の表示があるものを、値段で選んで構いません。二本持ちの片方はこれです。
小瓶・密封ボトル
⚠ 開封後1か月。大きい瓶は不利になる
醤油は開封から酸化が進み、色が黒く香りが飛びます。150〜200mlの小瓶を買い切るほうが、結果的に美味しい醤油を食べていることになります。二重構造の密封ボトルなら変化はさらに緩やかです。
🎁 ふるさと納税で「蔵元の醤油」をお得に
醤油の蔵がある自治体では、蔵元の醤油やセットが返礼品に並ぶことがあります。普段は手が出ない蔵の一本を試すには向いた方法です。⚠ ただし開封後の日持ちは変わりません。まとめて届く場合は、使い切れる量かどうかを先に考えてください。
二本持ちが、いちばん効く
蔵元の醤油は、普段使いには少し高価です。現実的なのは使い分けること——煮炊き用には手に入りやすい濃口を、かけ醤油には蔵元のものをという組み合わせです。 加熱すれば香りは飛びますから、良い醤油を煮物に使うのはもったいない。逆に、冷奴や刺身にかける一滴は、違いがそのまま出ます。二本置くだけで、費用をほとんど増やさずに満足度が上がります。
5. 開封後は冷蔵庫へ
意外に知られていませんが、醤油は開封した瞬間から酸化が始まります。色が黒ずみ、香りが飛び、味が角ばってくる。腐るわけではないので気づきにくく、そのまま使い続けてしまいがちです。
開封後は冷蔵庫。これだけで進み方がかなり緩やかになります。常温に置くと、夏場は一週間ほどで色の変化が分かるほどです。
目安は開封後1か月。大きな瓶を買って半年かけて使うより、小さい瓶を買い切るほうが、結果的に美味しい醤油を食べていることになります。蔵元の醤油に150mlや200mlの小瓶が多いのは、この理由からです。
密封ボトル(二重構造で空気に触れない容器)の商品なら、常温保存でも変化がかなり遅くなります。⚠ ただし、それも開封後の話ではなく「空気に触れさせない」仕組みなので、詰め替えると意味がなくなります。
6. よくある質問(FAQ)
減塩したいのですが、淡口にすればいいですか?
いいえ、逆効果です。淡口醤油の塩分は濃口より高いのが一般的です。色が薄いだけで、味が薄いわけではありません。
減塩を目的とするなら、「減塩醤油」と明記された商品を選んでください。使う量を減らすほうが確実な場合もあります。かけるのではなく小皿に取って付ける、という使い方の変更でも量は減ります。
賞味期限が切れたら使えませんか?
賞味期限は「美味しく食べられる期限」で、安全性の期限ではありません。塩分が高いので、期限を過ぎてすぐ傷むものではありません。
⚠ ただし未開封の話です。開封後は期限にかかわらず酸化が進みます。色が黒く、香りが弱くなっていたら、風味の面では役目を終えています。煮物など加熱する料理に回すのが実際的です。
白い膜のようなものが浮いています
産膜酵母(さんまくこうぼ)である可能性が高いです。醤油の表面が空気に触れ続けると発生します。有害なものではありませんが、風味は確実に落ちています。
⚠ 常温で長く置いた場合に起きやすいので、冷蔵保存で防げます。発生したものは取り除けば使えますが、そこまで進んでいるなら買い替えの時期です。
卵かけご飯に向く醤油はどれですか?
再仕込み、またはたまりが向きます。どちらも旨みが濃く、卵の甘みに負けません。
濃口でも構いませんが、卵に対して香りがやや強く出ます。「卵かけご飯専用」として売られている醤油の多くは、出汁を加えた甘めの設計です。純粋な醤油の味を見たいなら、再仕込みを一度試してみてください。
木桶仕込みは何がそんなに希少なのですか?
桶そのものを作れる職人がほとんど残っていないためです。醤油の木桶は直径2メートルを超えるものもあり、一本作るのに相応の技術と時間がかかります。
既存の桶は百年以上使われているものも珍しくなく、壊れたら同じものを補充できないという状況にあります。⚠ ただし、木桶であること自体が味の保証ではありません。蔵ごとの菌による風味の差を楽しむもの、と考えてください。
九州の醤油はなぜ甘いのですか?
諸説ありますが、砂糖や甘味料を加える製法が土地に根づいたためです。魚を刺身で食べる文化との相性、暑い気候、長崎経由で砂糖が入りやすかったことなど、いくつかの説明がされています。
⚠ どれが正解かを断定できるものではありません。確かなのは、九州では甘口が「普通の醤油」だということです。関東の濃口に慣れていると最初は驚きますが、煮物に使うと角のない仕上がりになります。
7. まとめ:色と塩分は関係ない
この記事でいちばん覚えて帰っていただきたいのは、淡口は塩分が高いという一点です。色の薄さを味の薄さだと思っていると、減塩のつもりで逆のことをしてしまいます。
そのうえで、製法の表示を一度だけ見てみてください。本醸造か混合か。丸大豆か脱脂加工大豆か。どちらが上ということではなく、自分がどの味を好んでいるのかが分かります。
そして二本持ち。煮炊き用と、かけ用。良い醤油を煮物に入れても香りは飛びます。冷奴にかける一滴のために一本置く——それがいちばん費用対効果の高い使い方です。







