面の布団をひとつ手で刺すのに、3〜4か月かかると言われています。
面・小手・胴・垂。一組を一人の職人が最初から最後まで手で仕上げると、完成まで1〜2年かかる防具もあります。だから普通は工程を分けて、何人かで作ります。それでも数か月です。
その手間が、どこに掛かっているのか。布団を何ミリ間隔で刺すかという、たった一つの数字に掛かっています。しかもその間隔は、いまも尺貫法で呼ばれています。
竹刀のほうにも、選ばれている理由があります。竹に求められているのは硬さではなく、折れずにしなって戻る「粘り」です。福岡には、竹を伐るところから仕上げまでを一貫してやる工場があります。一度閉じて、剣道家たちの声で戻ってきた工場です。
この記事では、刺し幅の読み方、竹の選ばれ方、そして胴に塗られる漆までを順に見ていきます。
【早見表】刺し幅の呼び名と、仕上がり
| 呼び名 | 間隔 | 縫い方 | 仕上がり |
|---|---|---|---|
| 1.5分刺し ▾ | 約4.5ミリ | 手刺し | 形がつけやすく、シャープ |
| 2分刺し ▾ | 約6ミリ | 手刺し | クッション性が高く、厚みが出る |
| 5ミリ刺し ▾ | 5ミリ | ミシン刺し | 動きやすさ寄り |
| 6ミリ刺し ▾ | 6ミリ | ミシン刺し | 受ける側に厚み |
| 読み方 | 手刺しは「分」、ミシン刺しは「ミリ」。1分はおよそ3ミリです。この単位の話から ▾ | ||
数字が小さいほど、間隔が細かくなります。呼び名を押すと、その解説へ飛べます。
1. 間隔を、いまも「分」で数えています
1分は、およそ3ミリです
剣道の防具で、面や小手や垂の厚い部分を布団と呼びます。この布団は、糸を等間隔に刺して作られています。
その間隔の呼び名が「2分刺し」「1.5分刺し」です。1分がおよそ3ミリなので、2分刺しは約6ミリ、1.5分刺しは約4.5ミリの間隔で刺していることになります。
尺貫法です。メートル法に切り替わってから何十年もたつのに、この道具の世界では、いまも「分」で間隔を数えています。
ミシンで刺すときは、ミリで呼びます
一方、ミシンで刺した防具は「4ミリ刺し」「8ミリ刺し」のように、そのままミリで呼ばれます。
同じ間隔を測っているのに、単位が分かれています。手で刺すものは「分」、機械で刺すものは「ミリ」。売り場で表記を見れば、どちらの作り方かが分かるということでもあります。
どちらも、数字が小さいほど間隔が細かくなります。1.5分刺しは2分刺しより細かく、5ミリ刺しは6ミリ刺しより細かい。
間隔が変わると、仕上がりが変わります
刺し幅が広いほど、クッション性が高まり、厚みのある仕上がりになります。
刺し幅が狭いほど、形がつけやすく、シャープな仕上がりになります。
どちらが上ということではありません。厚くて柔らかいほうがよい場面と、薄くて締まっているほうがよい場面があります。3章で、その使い分けの実例を見ます。
2. 一針ずつ刺すと、面布団だけで3か月
縫い方そのものが違います
ミシン刺しは、2本の糸を交互に縫い合わせていきます。ミシンの縫い目です。
手刺しは、1本の糸を内側に隠すように縫い上げます。そのため表に出る刺し目が点のようになります。点刺と呼ばれる状態です。
刺し目が細かくなると、そのぶん「中により多くの芯材を入れることができる」。受け止められる衝撃の量が変わってきます。
面布団ひとつに、3〜4か月
人の手で面布団を1つ刺すのに、3〜4か月かかるとも言われています。面ひとつではありません。面の、布団の部分だけでです。
そして、完成までに1〜2年かかる防具もあります。一人の職人が、面も小手も胴も垂も、最初から最後まで手で仕上げた場合です。
だから普通は工程を分けます。分業にして、それでも納期は3〜4か月のものが多い。分けてなお、季節がひとつ変わるだけの時間が要ります。
買うときに、表記を読む
「手刺し風仕上げ」と書かれた商品もあります。手刺しの見た目に寄せたミシン刺しで、手刺しとは別のものです。
どちらが良いという話ではありません。ただ、上に書いたような工程と時間が掛かっているのは「手刺し」のほうです。商品名をそのまま読んで、どちらなのかを確かめてから選んでください。
3. 刺し幅は、その人の役割で決まります
打つ側か、打たれる側か
細かいほど上等、という道具ではありません。刺し幅は、その防具を着ける人が何をするかで選ばれます。
刺し幅が広いほうが、クッション性が高く厚みのある仕上がりになります。ということは、打たれる回数が多い人ほど、広いほうが向くということになります。
それが商品名にそのまま出ている例があります。京都武道具の純国産ラインで、5ミリ刺しと6ミリ刺しを並べて見てみます。
純国産5mmミシン小手『木鶏』|岩手県久慈工場製
刺し幅は5ミリ。商品名に「岩手県久慈工場製」と書かれています。どこで作られたかが、名前の中に入っている小手です。
5ミリは、6ミリより間隔が細かい側です。そのぶん形がつけやすく、締まった仕上がりになります。自分が打っていく稽古で使うほうに向いています。
小手は、防具のなかでいちばん先に傷む部品です。単品で選べるようになっているのは、そのためでもあります。
剣道 小手単品 純国産5mmミシン小手『木鶏』(岩手県久慈工場製)
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純国産6mm指導者用小手『修道』|打たれても痛くない
刺し幅は6ミリ。5ミリより間隔が広い側です。そして商品名が「指導者用」「打たれても痛くない小手」。
指導者は、打たれる側に立ちます。元立ちとして小手を差し出し、一日に何十本と受ける。だから、あえてクッション性の高い6ミリを選ぶ。
刺し幅の原則が、そのまま用途になっています。広いほど厚い。厚いほど受けられる。数字の大小は、上下ではなく役割の違いだということが、この2つを並べると見えてきます。
剣道 小手単品 純国産6mm指導者用小手『修道』(打たれても痛くない)
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純国産5mmミシン小手|洗えるメッシュ仕様
同じ純国産ラインの、洗える小手です。刺し幅は5ミリ。バイオクリーンドライメッシュという生地を使っています。
小手は手を入れる部品なので、汗がいちばん溜まります。洗えるかどうかは、稽古の頻度が高い人ほど毎日のことになります。
刺し幅は同じ5ミリのまま、生地の側で解いたという作りです。変えるところと変えないところが、はっきりしています。
剣道 小手単品 純国産バイオクリーンドライメッシュ 5mmミシン小手(洗える)
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4. 竹に求められているのは、粘りです
硬いだけでは、竹刀になりません
竹刀に使われる竹には、いくつか種類があります。西日本武道具は国産真竹について、「肉質が硬くかつ粘りがあり腰が強い」と書いています。
硬さと、粘り。竹刀は打ち合う道具なので、当たった瞬間にしなって、また戻らなければなりません。硬いだけの竹は、しなる代わりに折れます。
広く使われている桂竹については、「繊維が細く多い事で非常に強度が高い」と説明されています。強さの出どころが、真竹とは違うということです。
同じ銘柄で、竹の産地だけを変えたもの
国産真竹の中にも、産地の別があります。豊後材と京都材。
西日本武道具の『誉』という竹刀には、この二つが並んでいます。同じ銘柄で、同じ形(39・直刀型)で、同じ価格。違うのは竹の出どころだけです。
作り手が、産地を書き分けて並べている。それは、そこに違いがあると考えているということです。
竹刀『誉』豊後材|大分の竹で組んだ一本
国産真竹の豊後材を使った、39・直刀型の竹刀です。柄の太さも選べます。
SSP加工が施され、シールが付いています。これは全日本剣道連盟の基準を満たした竹刀に付けられる、安全のしるしです。
次の京都材と、価格も形も同じです。竹の産地だけを比べられる並びになっています。
剣道 竹刀『誉』豊後材 39 直刀型(那珂川真竹工場製・SSP)
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竹刀『誉』京都材|同じ銘柄、違う土地の竹
こちらは京都材。銘柄も、寸法も、価格も豊後材と同じです。変えてあるのは竹の産地だけです。
竹は、育った土地の気候と土で身の詰まり方が変わります。同じ真竹でも、産地を分けて仕入れる理由がそこにあります。
二本並べて選べる形になっているのは、選ぶ人がいるからです。握ってみて決める人のために、両方が用意されています。
剣道 竹刀『誉』京都材 39 直刀型(那珂川真竹工場製)
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5. 一度閉じた工場が、戻ってきました
竹を伐るところから、自分たちでやっています
さきほどの『誉』が作られているのは、福岡県那珂川市の那珂川真竹工場です。西日本武道具の公式サイトには、こう書かれています。
「竹の伐採から製品化までを一貫して国内の工場で製作し、真竹竹刀職人の手で最初から最後まで一本一本丁寧に仕上げています」。
竹を伐るところから始めています。掲げている言葉も短い。「日本で、日本の材料を用い、日本人の手で」。2008年に動き出した工場です。
2018年に閉じて、2019年に戻りました
この工場は、一度止まっています。「2018年に一時閉鎖しておりました」と、公式サイトに書かれています。
続きがあります。「全国の武道具店様や多くの剣道家の皆様からの励ましや復活を望む声をいただき、2019年秋に再稼働いたしました」。
閉じた工場が、使う人たちの声で戻ってきた。竹刀は消耗品です。割れたら替える道具です。その消耗品を国内で作り続けることに、それだけの人が声を上げたということになります。
6. 胴には、いまも漆が塗られています
台は、竹を並べて作ります
胴の、丸く張り出した部分。あの台は細く割った竹を並べて作られています。
商品名に出てくる「50本立」という言葉は、その竹の本数です。本数が多いほど、竹の一本ずつは細くなります。
そして表面には本漆が塗られます。合成の塗料ではなく、漆です。塗って、乾かして、また塗る。時間の掛かる仕上げが、打たれる面に使われています。
日本製 本漆塗 竹胴|返し渕仕立
竹の台に本漆を塗った胴です。濃紺刺しの胴胸に、返し渕という縁の仕立て。
胴は、防具のなかでいちばん人目に触れる部品です。打たれる面であると同時に、正面から見える面でもあります。漆が使われ続けているのは、その両方に応えるためでしょう。
替え胴として、いま使っている防具に足すこともできます。
剣道 竹胴 日本製 本漆塗 濃紺刺し 返し渕仕立 二本足胸
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日本製 本漆塗 聖浄塗 50本立竹胴|碁盤刺し
台を組む竹が50本。本数が増えるほど、割る作業も並べる作業も増えていきます。
胴胸は碁盤刺し。縦横に刺して格子を作る刺し方で、ベタ刺しの上に模様が乗ります。刺すという仕事が、機能だけでなく見た目にも回っている部分です。
漆は聖浄塗。塗りの名前が付くところまで、仕上げが細かく分かれています。
剣道 竹胴 日本製 本漆塗 聖浄塗 50本立 濃紺ベタ刺し 碁盤刺し
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7. よくある質問(FAQ)
刺し幅は、細かいほうがいいのですか?
細かいほど上等、という道具ではありません。刺し幅が狭いと形がつけやすくシャープに、広いとクッション性が高く厚みのある仕上がりになります。打つ機会が多いなら狭いほう、受ける機会が多いなら広いほうという選び方ができます。指導者用の小手にあえて6ミリが選ばれているのは、そのためです。
手刺しとミシン刺し、どちらを選べばいいですか?
縫い方が違います。ミシン刺しは2本の糸を交互に縫い合わせ、手刺しは1本の糸を内側に隠すように縫い上げます。手刺しは刺し目が細かいぶん、中により多くの芯材を入れることができます。ただし面布団ひとつに3〜4か月かかる作り方なので、納期も含めて考えることになります。
「手刺し風」と書いてあるものは、手刺しですか?
別のものです。手刺しの見た目に寄せたミシン刺しを指します。悪い商品という意味ではありませんが、この記事で書いた工程と時間が掛かっているのは「手刺し」のほうです。商品名をそのまま読んで確かめてから選んでください。
竹刀の竹は、真竹を選んだほうがいいですか?
強さの出どころが違います。国産真竹は「肉質が硬くかつ粘りがあり腰が強い」、桂竹は「繊維が細く多い事で非常に強度が高い」と説明されています。どちらも強い竹ですが、しなって戻る粘りを重く見るなら真竹という選び方になります。握って決める人が多い部分でもあります。
SSPシールとは何ですか?
全日本剣道連盟の基準を満たした竹刀に付けられる、安全のしるしです。竹刀は割れる道具なので、稽古や試合での事故を防ぐための確認が行われています。試合で使う竹刀は、この表示があるかどうかを見ておいてください。
防具は一式で買わないといけませんか?
単品でも買えます。とくに小手は、手を入れる部品なので傷むのが早く、単品での買い替えが多い部分です。胴も替え胴として足せます。一式を揃えてから、傷んだところだけを入れ替えていくという付き合い方ができる道具です。
8. まとめ:数字は、上下ではなく役割です
剣道の防具は、布団を何ミリ間隔で刺すかで呼び名が変わります。手で刺したものは「2分刺し」「1.5分刺し」と尺貫法で、ミシンで刺したものは「4ミリ刺し」とミリで。1分はおよそ3ミリです。同じ間隔を測る単位が、作り方で分かれたまま残っています。
人の手で面布団を1つ刺すのに、3〜4か月。一人の職人が一組を最後まで仕上げると、1〜2年かかる防具もあります。だから工程を分けて、それでも数か月。手刺しは1本の糸を内側に隠すように縫い上げ、刺し目が細かいぶん、中により多くの芯材を入れることができます。
刺し幅の数字は、上下ではなく役割です。狭いほど形がつけやすくシャープに、広いほどクッション性が高く厚みが出ます。だから指導者用の小手には、あえて広い6ミリが選ばれています。打たれる側に立つ人の道具だからです。
竹刀の竹に求められているのは、硬さではなく粘りです。打ち合ってしなって、また戻る。国産真竹が「肉質が硬くかつ粘りがあり腰が強い」と言われるのは、その両方を持っているからです。福岡県那珂川市の工場では、竹を伐るところから仕上げまでを国内で一貫してやっています。その工場は2018年に一度閉じ、全国の武道具店と剣道家の声で、2019年秋に戻ってきました。
割れたら替える消耗品を、国内で作り続けること。そこに声を上げた人たちがいて、いまも竹が伐られています。売り場で表記を読むと、その手間がどこに掛かっているのかが見えてきます。