日本の手縫い針は、ほとんどが広島で作られています。
針を作っているチューリップ株式会社の公式サイトに、こう書かれています。「現在でも、広島は手縫針、侍針の全国生産量の9割以上を占める我が国最大の針の産地となっております」。
そして、針の袋の裏には、たいてい数字が並んでいます。0.76mm×54.5mm。これは太さと長さです。この2つが読めるようになると、針は自分で選べます。
この記事では、広島に針が集まった理由と、袋の数字の読み方、そして用途ごとに何が変わるのかを順に書きます。
1. 手縫い針の9割以上は、広島で作られています
始まりは、下級武士の内職でした
広島で針を作っているチューリップ株式会社の公式サイトに、産地の由来が書かれています。
「広島針の製造の歴史は、遠く300年以上前、藩主浅野家が下級武士の手内職として普及させたことに始まります」。藩が広めた手仕事が、そのまま地場産業になりました。
そして現在について、こう続きます。「現在でも、広島は手縫針、侍針の全国生産量の9割以上を占める我が国最大の針の産地となっております」。
手元にある針が広島のものである可能性は、かなり高いということです。
豆知識:たたら製鉄の鉄が、川を下って針になりました
なぜ広島だったのか。公式サイトの説明が、そのまま地図の話になっています。
「広島湾に注ぐ太田川の上流50キロの中国山地の中に(中略)『加計』(現、安芸太田町)という地域があり、江戸時代には、中国山地の大砂鉄地帯に位置する出雲と並ぶ芸北地域の『たたら製鉄の中心地』でした」。
そして、「広島針はこのように加計の砂鉄を原料に『たたら製鉄法』によってできた鉄を太田川の水運を利用して、現在の広島市に運び、そこで針として加工することで発展してまいりました」。
山で採れた砂鉄を、たたらで鉄にして、川で運び、河口の町で針にする。日本刀と同じ製鉄法から出てきた鉄です。
そして、その加計にはいまもチューリップの工場があります。会社概要に「加計工場 広島県山県郡安芸太田町」と載っている。300年前の理由と、現在の住所がつながっています。
工程は、30以上あります
針は、細い鋼線を切って、削って、磨いたものです。公式サイトには「30以上の工程にわたって針は作られ」とあり、蓄積してきた技術を「切る、削る、磨く」と表現しています。
広島針は、地域団体商標に登録されています。公式サイトに「広島が生んだ針のブランドとして地域団体商標(第5124410号)に登録されています」とあります。産地の名前が、そのまま商標になっている。
1本あたりの値段は、100円ほど。8本入りで880円という針が、この記事に並びます。何年も使える道具の値段としては、かなり安いほうだと思います。
チューリップ 針ものがたり 普通地用針セット|まず、この8本から
品番THN-061、8本入り。仕様欄に「国産:広島針」とあります。木綿や麻といった普通地を縫うための、いちばん基本の針です。
中身は4サイズが2本ずつ。0.76mm×54.5mm、0.71mm×45.5mm、0.71mm×39.4mm、0.71mm×36.4mm。太さはほぼ同じで、長さが4種類入っています。
だから、この1袋で長さの使い分けを覚えられます。針ものがたりシリーズの特徴として、「糸通りのなめらかな針穴」「折れにくく適度にしなるボディ」「スムーズな布通りの針先」が挙げられています。
チューリップ 針ものがたり 普通地用針セット 8本入(広島針)
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2. 袋の数字は「太さ×長さ」です
2つの数字を、順に読みます
針の袋に「0.76mm×54.5mm」と書いてあったら、前が太さ、後ろが長さです。それだけです。
太さは、布に開ける穴の大きさだと考えてください。厚い布や目の粗い布には太い針が要り、薄い布や目の詰まった布には細い針を使います。
長さは、一度に何針すくえるかに関わります。長い針は運針でまとめて進められ、短い針は細かいところを縫うのに向きます。
キルト針は、太さが変わりません
これがいちばん分かりやすい例です。チューリップのキルト針は、番号によって寸法がこう変わります。
NO.8は長さ29mm・太さ0.53mm。NO.9は27mm・0.53mm。NO.10は25mm・0.53mm。NO.12は23mm・0.53mm。NO.13は22mm・0.51mm。
太さは、ほぼ動いていません。変わっているのは長さだけです。つまりキルト針を選ぶというのは、長さを選ぶことだと言えます。
販売店の説明にも「針の長さはひとりひとり手の大きさも違うのでどれが一番とは言えませんが、初めての方にはNO.9をおススメしています」とあります。
縫いにくいときは、短くしてみる
同じ販売店の説明に、こんな一文があります。「今使っているキルトの針で縫いにくいなと思う方は一度針を少し短くしてみるのもいいかもしれません。キルトは長いより短いほうがやりやすいことがあります」。
腕が悪いのではなく、針の長さが手に合っていないことがあるということです。NO.9で縫いにくければ、NO.12やNO.13へ。2mmずつしか変わりませんが、指でつまんで動かす道具なので、その2mmが手ごたえを変えます。
番号が大きいほど、短い。この向きだけ覚えておけば、売り場で迷いません。
チューリップ 針ものがたり キルト針|長さを、番号で選ぶ
商品ページに「広島針 針ものがたり チューリップ社製」とあります。NO.8・NO.9・NO.10・NO.12・NO.13の5サイズから選ぶ形です。
長さは29mmから22mmまで、1mmから2mmきざみ。太さは0.51mmから0.53mmで、ほとんど変わりません。選んでいるのは長さです。
店の言葉で「最高の布通りと使いやすさを追求した高級針シリーズです」「細い割りに折れなくていい」。
最初の1本ならNO.9。手が小さい方や、細かく縫いたい方はNO.13も候補になります。
チューリップ 針ものがたり キルト針(パッチワーク・広島針)
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3. 刺繍針の番号は、通す糸の本数で決まります
布ではなく、糸に合わせます
刺繍針だけ、選び方の軸が違います。見るのは布の厚さではなく、通す刺繍糸が何本取りかです。
フランス刺繍針の仕様欄には、番号ごとの用途がそのまま書かれています。No.3は「25番刺繍糸5〜6本取り用、5番刺繍糸用」。No.6は「3〜4本取り用」。No.9は「1本取り用」。
糸が太ければ、針穴も大きくなければ通りません。だから本数が針の番号を決めます。刺繍糸を何本取りで刺すかを先に決めれば、針は自動的に決まるということです。
番号と寸法は、きれいに対応しています
フランス刺繍針の仕様は、8サイズすべてが数字で示されています。No.3が0.97mm×44.5mm、No.4が0.91mm×42.9mm、No.5が0.84mm×41.3mm、No.6が0.76mm×39.7mm、No.7が0.69mm×38.1mm、No.8が0.61mm×36.5mm、No.9が0.53mm×34.9mm、No.10が0.46mm×33.3mm。
番号が1つ大きくなるたびに、細く、短くなります。キルト針と違って、太さも長さも一緒に動く。
材質は「鋼線/ニッケルメッキ」と仕様欄にあります。鉄なので、湿気の多いところに出しっぱなしにはしないほうがいいと思います。使い終わったら針ケースへ戻す、それだけで持ちが変わります。
豆知識:最初に持った針も、たぶん広島でした
チューリップの公式サイトに、こんな一文があります。「小学校の家庭科の教材用針セットは業界一位」。
家庭科の授業で配られた、あの小さな針セット。玉止めがうまくいかず、糸が針穴からすぐ抜けた、あの針です。多くの人にとって、人生で最初に持った針だったはずです。
同じページには「チューリップブランドのレース針は50か国以上、長年にわたり輸出されております」ともあります。教室の針箱と、海外の手芸店の棚が、同じ広島につながっている。
身近すぎて、産地を意識したことがなかっただけなのかもしれません。
チューリップ 針ものがたり フランス刺繍針|糸の本数で番号を選ぶ
商品ページに「広島針」とあります。No.3からNo.10まで8サイズ、各8本入り。説明は「針先が鋭く、フランス刺しゅうに最適な針です」。
番号ごとの用途が、仕様欄にそのまま書かれています。25番刺繍糸を1本取りならNo.9かNo.10、3〜4本取りならNo.6、5〜6本取りならNo.3かNo.4。迷う余地がありません。
材質は鋼線にニッケルメッキ。使う本数が決まっているなら、その番号を1袋。複数の本数を刺すなら、番号違いを2袋持っておくと途中で止まりません。
チューリップ 針ものがたり フランス刺繍針(広島針)
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4. まち針は、縫うための針ではありません
役割は「留める」ことです
まち針は、布を縫うのではなく、布を動かないようにしておくための針です。裁断した布を重ね、縫う前に留めておく。仮止めのための道具です。
だから、糸を通しません。針穴の代わりに頭が付いています。穴がいらない分だけ、細く作れます。
数字を並べると、はっきり分かります。チューリップのまち針は0.55mm×48.0mm。同じシリーズの縫い針は0.71mmから0.76mmでした。まち針のほうが、細い。
留めるだけなら、布に残る跡は小さいほうがいい。その差が、0.55と0.71という数字に出ています。
留める布に、合わせて選びます
チューリップのまち針の説明には、対応する布がそのまま書かれています。「木綿、麻、ウールなどの普通地の仮止めに最適です」。
ここでも見るのは、布の厚さと目の細かさです。薄い生地や目の詰まった生地に太いまち針を刺すと、抜いたあとに跡が残ることがあります。
本数は、多めに持っておいたほうが楽です。15本入りで880円。床に落として何本か行方不明になる道具なので、切らして手が止まるより、1袋余分にあるほうが助かります。
チューリップ 針ものがたり まち針|0.55mmの仮止め
品番THN-074、15本入り。仕様欄に「国産:広島針」。針サイズは0.55mm×48.0mmです。
「木綿、麻、ウールなどの普通地の仮止めに最適です」と説明されています。普段の洋裁や小物づくりで使う布は、たいていここに入ります。
縫い針と同じ「針ものがたり」シリーズです。特徴として「折れにくく適度にしなるボディ」が挙げられています。曲がったまま使い続けると布を傷めるので、まち針こそ状態を見て替えたい道具だと思います。
チューリップ 針ものがたり まち針 15本入(広島針)
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5. 京都には、布の名前で呼ぶ針があります
広島が9割、では残りの1割は?
そのひとつが、京都のみすや針です。広島とは別の系統として、いまも売られています。
面白いのは、名前の付け方です。広島の針は「0.76mm×54.5mm」のように寸法で呼びます。みすや針はそうではありません。
きぬ針、もめん針。縫う布の名前が、そのまま針の名前になっています。そして「四ノ五」「三ノ二」「大ちゃぼ」という呼び名でサイズを表します。
洋裁の物差しと、和裁の物差し。同じ針でも、数え方の系統が違うということだと思います。
溝穴という、別の作りもあります
みすや針のセットの説明に、「全て溝穴です」という但し書きがあります。針穴が丸い穴ではなく、細長い溝になっている作りのことです。
広島針とどちらが良いという話ではありません。系統が違えば、針穴の作りも、呼び名も、揃え方も違う。両方あることが、選べるということだと思います。
広島針を一通り使ってみたあとで、こちらを試すという順でいいと思います。持ち比べると、自分の手がどちらに合うかが分かります。
みすや忠兵衛 復刻版 京都本みすや針セット|きぬ針と、もめん針
京都のみすや忠兵衛の公式出品です。商品ページに「製造国:日本」とあります。「当店で昔販売していた針セットのパッケージを復刻し、現在でもよく使われるきぬ針・もめん針を揃えました」。
内容は、きぬ針の四ノ五と四ノ二、もめん針の三ノ五・三ノ二・大ちゃぼが各5本ずつ。合わせて25本に、糸通し1枚と針ケース1個が付きます。「全て溝穴です」。
パッケージが復刻版なので、見た目がそのまま古い。ページにも「ちょっとした贈りものにもおすすめです」とあります。針ケースが付くので、これ1つで道具が揃います。
みすや忠兵衛 復刻版 京都本みすや針セット(公式)
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6. よくある質問(FAQ)
広島針とは何ですか?
広島で作られている針のことです。チューリップ株式会社の公式サイトに「広島針の製造の歴史は、遠く300年以上前、藩主浅野家が下級武士の手内職として普及させたことに始まります」とあります。
同じページに「現在でも、広島は手縫針、侍針の全国生産量の9割以上を占める我が国最大の針の産地となっております」とも書かれています。「広島が生んだ針のブランドとして地域団体商標(第5124410号)に登録されています」という記述もあります。
針の袋に書いてある数字は、何を表していますか?
前が太さ、後ろが長さです。「0.76mm×54.5mm」なら、太さ0.76mmで長さ54.5mm。
太さは、布に開ける穴の大きさ。厚い布には太い針、薄い布には細い針を使います。長さは、一度にすくえる針数に関わります。長い針はまとめて進められ、短い針は細かいところに向きます。番号で表示されている場合は、番号が大きいほど細くて短い針です。
刺繍針は、どの番号を選べばいいですか?
通す刺繍糸の本数で決まります。フランス刺繍針の仕様欄には、番号ごとの用途が書かれています。
25番刺繍糸の1本取りならNo.9かNo.10、2〜3本取りならNo.7、3〜4本取りならNo.6、5〜6本取りならNo.3かNo.4が目安として示されています。何本取りで刺すかを先に決めれば、針は自動的に決まります。
キルト針は、どれを選べばいいですか?
長さで選びます。チューリップのキルト針は、NO.8が29mm、NO.9が27mm、NO.10が25mm、NO.12が23mm、NO.13が22mm。太さは0.51mmから0.53mmで、ほとんど変わりません。
販売店の説明では「初めての方にはNO.9をおススメしています」とあります。「今使っているキルトの針で縫いにくいなと思う方は一度針を少し短くしてみるのもいいかもしれません」という助言も添えられています。手の大きさで合う長さが変わる道具です。
まち針と縫い針は、何が違いますか?
役割が違います。まち針は縫うためではなく、布を動かないように留めておくための針です。糸を通さないので針穴がなく、代わりに頭が付いています。
太さも違います。チューリップのまち針は0.55mm、同じシリーズの縫い針は0.71mmから0.76mm。まち針のほうが細いです。留めるだけなら、布に残る跡は小さいほうがいいからだと考えられます。
きぬ針、もめん針とは何ですか?
京都のみすや針の呼び名です。寸法ではなく、縫う布の名前が針の名前になっています。絹を縫うならきぬ針、木綿を縫うならもめん針。
サイズは「四ノ五」「四ノ二」「三ノ五」「三ノ二」「大ちゃぼ」のように呼びます。広島針のmm表示とは、数え方の系統そのものが違います。みすや針のセットには「全て溝穴です」という但し書きがあり、針穴の作りも丸穴ではありません。
7. まとめ:数字が読めれば、針は選べます
日本の手縫い針は、ほとんどが広島で作られています。チューリップ株式会社の公式サイトに「現在でも、広島は手縫針、侍針の全国生産量の9割以上を占める我が国最大の針の産地となっております」とあります。始まりは300年以上前、藩主浅野家が下級武士の手内職として広めたことでした。
産地の理由は、地形で説明できます。中国山地の加計で採れた砂鉄を、たたら製鉄で鉄にして、太田川の水運で河口の広島へ運び、そこで針に加工した。そして加計には、いまも針の工場があります。
選び方は、袋の数字が読めれば片がつきます。前が太さ、後ろが長さ。番号が大きいほど、細くて短い。
そのうえで、種類ごとに見るところが違います。縫い針は布の厚さ。キルト針は太さがほぼ一定なので長さ、つまり手の大きさと縫い方。刺繍針は通す糸の本数。まち針は縫わない針なので細く、留める布に合わせて選びます。
広島が9割、では残りの1割はどこか。そのひとつが京都のみすや針です。きぬ針、もめん針。四ノ五、大ちゃぼ。寸法ではなく、縫う布の名前で呼びます。数え方の系統ごと違う針が、いまも並んでいるということです。
1本あたり100円ほどの道具です。まずは長さ違いが入った8本の袋から始めて、自分の手に合う長さを探してみてください。