純米、吟醸、大吟醸。棚の前でラベルを見比べているうちに、結局は値段で決めてしまう。
そんな買い方をしていました。
ところが、見るところはもっと少なくて済みます。ラベルの二文字だけ。
いま造られている日本酒の、およそ9割は速醸(そくじょう)という造り方です。乳酸を加えて酒母を仕込む方法で、安定していて、すっきりした酒になります。では、残りの1割は。櫂(かい)で米をすり潰し、蔵に棲みついた菌が乳酸を作るのを待つ、生酛(きもと)と山廃(やまはい)です。1752年から生酛一筋という蔵もあります。
このページでは、その造りの違いと、精米歩合という数字の読み方から日本酒を選んでいきます。
【早見表】造りと精米歩合で選ぶ
| こう飲みたい | 選ぶもの | その造りのところ |
|---|---|---|
| 香りを立たせたい | 純米大吟醸・大吟醸 ▾ | よく磨いた米。透明感の方向 |
| 米の味を飲みたい | 純米酒 ▾ | 磨きを抑える。ふくらみと旨味 |
| 濃くて複雑な味へ | 生酛(きもと) ▾ | 全体の2%。櫂で米をすり潰す |
| コクと余韻が欲しい | 山廃(やまはい) ▾ | 全体の8%。山卸をしない生酛系 |
| すっきり飲みたい | 速醸(表示は無いことが多い) | 全体の約9割。安定して軽快 |
| ラベルで見るところ | 「生酛」「山廃」の二文字 | 書いてあれば、それが売り(2章) |
| 山廃を飲み比べたい | 刈穂「山廃六舟」 ▾ | 同じ山廃でも、蔵ごとに輪郭が違います |
| いまの一本はそのままで | ふだんの一本 ▾ | 買い替えず、造りの違う一本を足すだけ |
1. 9割がやめた造り方が、残っている
「造り方が違っても、そんなに変わらないだろう」。そう思われるかもしれません。ところが、日本酒でいちばん味を分けているのは、実はここです。
日本酒は、まず「酒母(しゅぼ)」を作るところから始まります。酵母を大量に育てた、酒のもとです。酛(もと)とも呼びます。
ここで雑菌に負けないように、乳酸が要ります。その乳酸を、どうやって用意するか。造りが分かれるのは、この一点です。
買ってくるか、湧いてくるのを待つか
速醸(そくじょう)は、乳酸を加えます。確実で、安定していて、期間も短い。酛の仕込みは2週間ほどで済みます。いま造られている日本酒の、およそ9割がこの方法です。
生酛(きもと)は、加えません。蔵の空気や道具に棲みついた乳酸菌が自然に増えるのを待ちます。そのために、櫂という棒で米をすり潰す「山卸(やまおろし)」という作業をします。寒い蔵で、何人もが桶に向かって、何時間も。それが深夜に及ぶこともある作業です。
山廃(やまはい)は、その山卸をやめたもの。「山卸廃止」を縮めて山廃です。すり潰さないぶん、桶に少しだけ酸素が入ります。そこで働く菌が変わり、山廃独特の香りが生まれます。
数字にすると、はっきりします
| 造り | 全体に占める割合 | 味 |
|---|---|---|
| 速醸 | 約90% | すっきり、軽快 |
| 山廃 | 8% | コクと酸、長い余韻 |
| 生酛 | 2% | 深く複雑。ボディがある |
生酛は、100本のうち2本。手間がかかるうえ、失敗の危険もある造り方を、それでも続けている蔵があるということです。
ただし、速醸が手抜きだという話ではありません。この方法があるから、安定した酒が安く手に入ります。すっきりした酒が飲みたい日に、生酛は重すぎることもある。9割を占めているのには、理由があります。
2. ラベルの二文字で、味が変わる
売り場で、これだけ見ておけば足ります。
ラベルに「生酛」または「山廃」と書いてあるかどうか。
「そんな専門的な表示、読めるわけがない」と思われるかもしれません。けれど、覚えるのはこの二つだけです。
速醸には、たいてい何も書かれていません。9割がそれなので、わざわざ書く理由がないからです。
逆に「生酛」「山廃」と書いてあれば、それはその蔵が売りにしているということ。手間をかけた証拠を、自分でラベルに出しているわけです。
そして、この二文字がある酒は、燗にすると化けます。温めたときの伸び方が、速醸の酒とはっきり違うんです。冷やして飲んで「重い」と感じたら、次はぬる燗を試してみてください。同じ酒だとは思えないほど変わります。
温度の付け方は「日本酒の温度と飲み方|冷酒・熱燗の作り方と温度別おすすめ銘柄」にまとめています。何度で飲むかまで決まると、同じ一本がもう一段おいしくなります。
3. 精米歩合は、高級さではなく方向
ラベルにもうひとつ、数字が載っています。精米歩合(せいまいぶあい)とは、玄米からどれだけ削ったかを示す割合です。
「50%」なら、半分まで削ったということ。数字が小さいほど、たくさん削っています。
ここで多くの方が「小さいほうが良い酒」と受け取ります。ところが、そうではありません。
削るほど高級、ではありません
よく磨いた酒のほうが値段は上がります。米をたくさん使い、時間もかかるからです。ですが「磨くほど旨い」わけではありません。
米の外側には、たんぱく質や脂質が多くあります。削ると、それが減る。結果として、味は透明感の方向へ寄っていきます。華やかな香りが立ちやすいのも、このためです。
逆に、削りを抑えると外側が残ります。米そのもののふくらみと旨味が出ます。どちらが上ということではなく、違う方向に振れているだけです。
数字を、味の言葉に置き換える
- 50%前後(大吟醸)|透明感と華やかな香り。冷やして、香りを楽しむ方向
- 60%前後(吟醸)|バランス型。香りと味の両方が立つ
- 70%前後(本醸造・純米)|米のふくらみと旨味。燗にしても崩れにくい
ラベルには「特別純米」「特別本醸造」と書かれたものもあります。この「特別」に、細かい決まりはありません。その蔵が、何かこだわったものに付けている。そう考えてかまいません。何が特別なのかは、たいてい裏ラベルに書いてあります。
4. 蔵で選ぶ|6つの候補
いきなり生酛から入る必要はありません。いま飲んでいる酒はそのままに、一本だけ、造りの違うものを足してみる。それがいちばん分かりやすい入り方です。
とはいえ、蔵の数は膨大です。ここでは「造りがはっきり出ている蔵」に絞りました。違いが分からなければ、比べる意味がないからです。
大七酒造(福島・二本松)|生酛
生酛を試すなら、まずここから。
1752年(宝暦二年)の創業から、生酛造り一筋。いまも櫂を入れて山卸をしています。深く複雑で、ボディのある味です。
冷やして飲んで重いと感じたら、ぬる燗へ。生酛は温めたときに伸びます。
菊姫(石川)|山廃
山廃の濃さを知るならこの蔵。
山廃仕込みの濃厚な旨味で知られます。山卸をしないぶん桶に酸素が入り、独特の香りが出る。それがはっきり出ている酒です。
軽快な酒に慣れていると、最初は強く感じます。味の濃いつまみと合わせてみてください。
刈穂/秋田清酒(秋田)|山廃六舟
山廃のもう一本。
「山廃六舟」が代表作として知られる蔵です。コクと酸、そして長い余韻。山廃らしい輪郭が出ます。
菊姫と飲み比べると、同じ山廃でも蔵ごとに違うのがよく分かります。
純米酒(精米歩合65%前後)
米の味を飲みたいときに。
削りを抑えたぶん、米のふくらみと旨味が残ります。燗にしても崩れにくいのがこの帯の強みです。
「純米」とだけ書かれた酒がいちばん幅広いところ。蔵の性格がそのまま出ます。
純米大吟醸(精米歩合50%前後)
香りで選ぶ一本。
よく磨いた米から出るのは、透明感と華やかな香り。冷やして、香りの立つ器で飲むのが向きます。
燗にすると香りが飛びます。この一本は冷やして。贈り物にも選びやすい帯です。
ふだんの一本(買い替えなくていい)
いま飲んでいる酒は、そのままで大丈夫です。
9割を占める速醸の酒は、安定していて軽快。毎日の晩酌で、生酛の濃さが欲しいとは限りません。
安い酒が悪いのではありません。造りの違う一本を横に置いて、飲み分けるほうが長く楽しめます。
5. まず試してほしい飲み方
「飲み比べなんて、何本も買わないとできない」と思われるかもしれません。ただ、一本でできる方法があります。
同じ酒を、冷やと、ぬる燗で飲み比べる。それだけです。
生酛・山廃は、温めると化けます
冷やした生酛は、正直に言うと重く感じることがあります。酸もあり、味も濃い。「思っていたのと違う」と、そこで止めてしまうのはもったいない。
同じ酒を人肌より少し温かいくらいに温めると、味がほどけます。閉じていた香りが開き、酸が丸くなって、旨味が前に出てきます。同じ一本とは思えないほどです。
逆に、大吟醸は温めないでください。よく磨いた米から出た華やかな香りは、熱を加えると飛びます。この帯は冷やして飲むためのものです。
半分残して、翌日にもう一度
開けた日と、翌日で味が変わります。とくに生酛や山廃のように味の要素が多い酒は、空気に触れて開くことがあります。
一晩で飲み切らずに、半分残してみてください。翌日のほうが好みだった、ということがよくあります。栓をして冷蔵庫へ。
器を替えると、同じ酒が変わります
これはもう一段、深い楽しみ方です。ぐい呑みとお猪口、ガラスと陶器。口の広さと素材で、香りの立ち方が変わります。
器の話は「酒器おすすめ素材別比較|能作の錫・うすはりガラスで飲み比べ」にまとめてあります。酒を選べるようになったら、次は器です。
6. よくある質問(FAQ)
「純米」と書いてあれば良い酒ですか?
良し悪しではなく、造りの違いです。「純米」は米と米麹だけで造り、醸造アルコールを加えていないという意味です。
アルコールを加えた酒が劣るわけではありません。香りを引き出したり、味を軽くしたりする目的で使われます。大吟醸にもアルコールを加えたものがあります。
米の味を飲みたいなら純米、すっきり飲みたいならそうでないもの。この分け方が実際的だと思います。
生酛と山廃は、どちらから試すべきですか?
山廃のほうが手に入りやすく、種類も多いので、そちらからで構いません。全体の8%が山廃、生酛は2%です。
味の方向は近く、どちらもコクと酸があり、余韻が長い。山廃は山卸をしないぶん桶に酸素が入り、独特の香りが出ます。そこが好き嫌いの分かれ目になることがあります。
どちらも、ぬる燗にすると印象が変わります。
精米歩合の数字が小さいほど良いのですか?
良いのではなく、味が別の方向に振れます。
削るほど米の外側が減り、味は透明感の方向へ寄ります。華やかな香りも立ちやすい。逆に、削りを抑えると米のふくらみと旨味が残ります。
値段は磨くほど上がりますが、それは米をたくさん使い、時間もかかるからです。「高い=自分の好み」とは限りません。
「特別純米」の「特別」とは何ですか?
細かい決まりはありません。その蔵が、何かこだわったものに付けています。
精米歩合を下げた、酒米を特定のものに絞った、造りを変えた。理由は蔵によって違います。
何が特別なのかは、たいてい裏ラベルに書いてあります。そこを読むと、その蔵が何を大事にしているかが見えてきます。
開けたあと、どれくらいで飲み切るべきですか?
栓をして冷蔵庫に入れておけば、数日から一週間ほどは楽しめます。ただし味は動きます。
それが悪いとは限りません。生酛や山廃のように味の要素が多い酒は、空気に触れて開くことがあります。翌日のほうが好みだった、ということもよくあります。
香りが命の大吟醸は、早めに。時間が経つほど、いちばんの持ち味が薄れます。
冷やと燗、どちらで飲めばいいですか?
造りで決めると、まず外しません。
生酛・山廃・純米は、ぬる燗が向きます。温めると酸が丸くなり、旨味が前に出ます。
大吟醸は冷やして。華やかな香りは熱で飛びます。
温度の付け方は「日本酒の温度と飲み方|冷酒・熱燗の作り方と温度別おすすめ銘柄」にまとめてあります。
7. まとめ:ラベルの二文字から
いま造られている日本酒の、およそ9割は速醸です。乳酸を加えて仕込む、安定した造り方。これが悪いわけではありません。この方法があるから、すっきりした酒が手に届く値段で買えます。
残りの1割が、生酛と山廃。山廃が8%、生酛はわずか2%です。櫂で米をすり潰し、蔵に棲みついた菌が乳酸を作るのを待つ。手間がかかり、失敗の危険もある造り方を、1752年から続けている蔵があります。
売り場で見るのは、ラベルの二文字だけで足ります。「生酛」か「山廃」か。速醸には、たいてい何も書かれていません。9割がそれなので、わざわざ書く理由がないからです。書いてあれば、それはその蔵の売りです。
もうひとつの数字、精米歩合は「高級さ」ではなく「方向」でした。削るほど透明感、残すほど米のふくらみ。そして買ってきたら、まず冷やとぬる燗で飲み比べてみてください。生酛や山廃は、温めると化けます。同じ一本とは思えないことがあります。