元日の朝くらいは、いつもと違う器で、家族と一杯を交わしたい。
そう思ったときに出てくるのが、屠蘇器(とそき)です。銚子と、三つ重ねの盃と、それをのせる台。
屠蘇器は、一年に一度しか出さない器です。そして漆の塗りによっては、出すたびに少しずつ色が変わっていきます。漆器の老舗・山田平安堂は、その様子を「漆器が自分の色に染まっていくような…そんな喜び」と書いています。
この記事では、越前の溜塗の屠蘇器、会津の三つ組の盃、越前の職人が塗った盃台、そしてお屠蘇の土台になる三河の本みりんを紹介します。お屠蘇のつくり方と、年の若い順に飲む作法、お正月のあとのしまい方もまとめました。
1. 年に一度出すたびに、漆が透けていく
「漆器が自分の色に染まっていく」
1919年創業の漆器店・山田平安堂は、白檀塗(びゃくだんぬり)という技法を説明するなかで、こう書いています。「溜塗りと同じように、経年で下がより透けて見えてくる」。
溜塗や白檀塗は、下の色や箔の上に、透ける漆を重ねて仕上げる塗りです。年月とともに上の漆が透けて、下に塗った色や箔が少しずつ浮かび上がってきます。山田平安堂はその様子を「漆器が自分の色に染まっていくような…そんな喜びがあります」と続けています。
一年に一度だから、変化に気づく
毎日使うお椀なら、色の変化は少しずつで気づきにくいものです。屠蘇器は、大晦日に箱から出して、松の内が明けたらまたしまう器。
一年ぶりに箱を開けたとき、「去年より明るくなった」と気づける。家族の背が伸びていくのと同じ時間を、器も重ねていきます。
2. 越前・鯖江:溜塗の盆に、銚子と盃をのせて
盆は、木地に溜塗
福井県鯖江市でつくられた越前漆器の屠蘇器です。商品の説明には「盆は溜塗りです、黒塗りではありません」とあります。
溜塗は、深い飴色の塗り。盆は木製で、そこに漆を塗り重ねています。1章のとおり、溜塗は年月とともに下の色が透けてくる塗りです。毎年この盆を出すたびに、少しずつ色が変わっていくのを楽しめます。
越前漆器 屠蘇器 溜 小判型|福井・鯖江
木製の溜塗の盆に、銚子と盃がそろった屠蘇器ひと揃いです。小判型の盆は幅36.2cm、奥行き19.8cm。
盆は木製・漆塗り、盃と銚子は木粉樹脂に漆塗りと、部位ごとに素材が書かれています。飴色の溜塗が、元日の食卓に落ち着いた色を添えます。
越前漆器 屠蘇器 溜 小判型(盆:木製 漆塗り)福井県鯖江市
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3. 三つ重ねの盃を、年の若い順に
盃が三つあるのは、三回に分けて飲むから
京都・伏見の蔵元、山本本家は、お屠蘇の作法をこう紹介しています。「三段重ねの盃で3回に分けて飲む」「年少者から年長者へ順番に盃をすすめる」。
三つの盃で、少しずつ。そして家族のなかで一番年の若い人から盃を受けます。いつもは最後に回ってくる子どもが、元日の朝だけは一番に。屠蘇器は、家族の順番を入れ替える器でもあります。
会津漆器 三ツ組盃 朱内金地 扇型 松竹梅|福島・会津
木製・漆塗りに、手描きの蒔絵。扇の形をした三つの盃に、松竹梅が描かれています。
外は朱、内側は金地。お屠蘇を注ぐと、金の上に酒が揺れます。化粧箱入りなので、一年しまっておくのにも向いています。
会津漆器 三ツ組盃 2.7 朱内金地 扇型 松竹梅(木製 漆塗り 手描き蒔絵)
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盃台は、越前の職人が全工程を
三つの盃をのせる台です。あたかやは、この盃台の工程を「木地製作→下地→研ぎ→中塗り→研ぎ→手塗り漆塗り」と書き、「全ての工程において、越前漆器産地の腕の良い職人さん達によって製作しています」と添えています。
木に朱漆を手で塗った、シンプルな台。お正月以外は花台や香炉台に使えると、あたかや自身が勧めています。一年じゅう出しておける屠蘇器の一部、というわけです。
あたかや 木製 三組盃用 杯台 朱漆塗り|越前漆器
木地に朱漆を手塗りした、三つ組の盃のための台です。12cm角、高さ2.8cm。
手持ちの盃と組み合わせて、屠蘇器を自分でそろえることもできます。お正月が過ぎたら、小さな花を活けた器の台に。
あたかや 木製 三組盃用 杯台 朱漆塗り(越前漆器)
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豆知識:「お屠蘇気分」は、みんなで飲んだから
お正月の浮かれた気分を「お屠蘇気分」といいます。山本本家によると、下働きの少年(丁稚や小僧)まで集まって、お屠蘇を飲む祝い事が広まったことから、この言葉が生まれたそうです。
家族も、働く人も、一番若い人から順に同じ酒を飲む。屠蘇器を囲む時間そのものが、「お屠蘇気分」の正体だったのかもしれません。
4. お屠蘇は、清酒と本みりんで一晩
大晦日の夜に浸して、元旦の朝に引き上げる
蔵元の金井酒造店は、つくり方をこう説明しています。「大晦日の夜、屠蘇散の袋を清酒と本みりんに浸す。一晩(5〜8時間ほど)置いて、生薬の香りと風味を移す。元旦の朝、袋を取り出していただく。」
分量の目安は、山本本家によると合わせた酒300mlに屠蘇散を一包。甘めが好きなら本みりんを多めに、すっきりさせたいなら清酒を多めに。清酒とみりんを同量から、清酒2:みりん1くらいのあいだで、家の好みを探します。
甘みの土台になるのは、本みりん
金井酒造店は「みりんは「本みりん」を選ぶこと(みりん風調味料とは別物で、本みりんは酒類)」と書いています。
愛知・碧南の角谷文治郎商店の三州三河みりんは、国産のもち米、愛知県産米の米こうじ、自社の蔵で造った本格焼酎で仕込む本みりんです。お屠蘇の甘みを、この一本に任せます。
角谷文治郎商店 三州三河みりん 700ml|愛知・碧南
もち米と米こうじと、自社蔵の焼酎。米だけで仕込んだ本みりんです。
お屠蘇の甘みに、そのまま。お正月が過ぎても、煮物や照り焼きでいつもの台所に戻ってきます。
角谷文治郎商店 三州三河みりん 700ml
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屠蘇散は、どこで買える?
屠蘇散は、山本本家によると酒屋やスーパー、ドラッグストアなどで手に入ります。中身の生薬は製品によって違うので、袋の表示を見て選ぶのがよいそうです。
漬けすぎると濁りや沈殿が出ることがあるので、5〜8時間を目安に様子を見ながら引き上げてください。
5. 屠蘇器を選ぶ前に、確かめておくこと
① 材質の欄を、部位ごとに読む
屠蘇器は、盆・銚子・盃・盃台で素材が違うことがよくあります。2章の屠蘇器も「盆/木製 漆塗り 盃・銚子/木粉樹脂 漆塗り」と分けて書かれていました。
木地の器がほしい部分はどこかを決めてから、商品ページの材質の欄を読むと、選びやすくなります。
② ひと揃いか、少しずつそろえるか
最初からひと揃いで迎えるなら、2章のような屠蘇器。盃と台を別々に選んで組み合わせるなら、3章の会津の盃と越前の盃台のように、産地をまたいでそろえることもできます。手持ちの銚子や徳利を生かす方法もあります。
③ 溜か、朱か、黒か
年ごとの色の変化を楽しみたいなら、溜塗。おめでたい華やかさなら朱。おせちの重箱と並べたときに、色がぶつからないかも考えておくと安心です。
6. 松の内が明けたら、こうしまう
洗って、拭いて、布に包んで箱へ
山田平安堂のお手入れの案内によると、漆器は柔らかいスポンジと食器用の中性洗剤、ぬるま湯で洗えます。熱湯は変色のおそれがあるので避けます。洗ったあとは乾拭き。漆の光沢を保つためにすすめられています。
長くしまうときは、直射日光の当たらない場所で、箱に入れ、柔らかい布で包む。著しい乾燥や湿気も避けて。来年の大晦日まで、ここで一年を過ごします。
7. よくある質問(FAQ)
お屠蘇はどうやってつくりますか?
大晦日の夜、屠蘇散を清酒と本みりんに浸し、元旦の朝に引き上げます。
目安は合わせた酒300mlに屠蘇散一包、浸す時間は5〜8時間ほど。清酒とみりんの割合は、同量から清酒2:みりん1くらいで好みに合わせます。
お屠蘇は、誰から飲みますか?
一般には、年少者から年長者へ順にすすめるとされています。
三段重ねの盃で、3回に分けて飲む作法も伝わっています。地域や家によって違いがあるので、家の習わしがあればそちらを大切にしてください。
みりんは、料理用のものでもいいですか?
本みりんを選びます。
蔵元の金井酒造店は、みりん風調味料とは別物で、本みりんは酒類だと書いています。ラベルの「本みりん」の表示を確かめてください。
溜塗の色は、本当に変わりますか?
年月とともに、上の漆が透けて下の色が見えてくるとされています。
山田平安堂は、白檀塗について「溜塗りと同じように、経年で下がより透けて見えてくる」と説明しています。変わり方は、しまう場所や使い方によっても違います。
屠蘇器は、お正月以外にも使えますか?
盃台や盃は、ほかの場面でも使えます。
あたかやは、朱漆の盃台を花台や香炉台としても勧めています。ぬりもの屋も、朱の銚子を「お正月・婚礼・結納等の際の大切なお道具」と紹介しています。
漆の屠蘇器は、どうしまえばいいですか?
ぬるま湯と中性洗剤で洗って乾拭きし、布で包んで箱にしまいます。
直射日光の当たらない、著しい乾燥や湿気のない場所に保管します。熱湯や研磨剤入りの洗剤は避けてください。
8. まとめ:毎年出すたびに、器も年を重ねる
屠蘇器は、一年に一度しか出さない器です。溜塗の漆は、年月とともに下の色が透けてきます。山田平安堂の言葉を借りれば、「漆器が自分の色に染まっていくような」器です。
ひと揃いで迎えるなら、越前・鯖江の溜塗の屠蘇器。盆は木地に溜塗です。
盃を選ぶなら、会津の三ツ組盃。木製・漆塗りに手描きの松竹梅。台は、越前の職人が全工程を手がけた朱漆の盃台。
お屠蘇は、大晦日の夜に屠蘇散を清酒と本みりんに浸して、元旦の朝に。甘みの土台は、碧南の三州三河みりん。そして、一番若い人から三つの盃で。
今年のお正月は、ぜひ日本の漆の屠蘇器を出してみてください。溜塗の盆なら、来年また箱を開けたとき、色が少し変わっているかもしれません。