備前焼の器に走る、赤い線。表面に散った、胡麻のような粒。
実は備前焼には、絵付けも釉薬もありません。
赤い線はワラが、粒は松の薪の灰が、くすんだ灰色や青は窯の中の煙がつけたもの。備前焼の模様は、窯の中で炎がつけます。
だから、同じ形の器でも、景色は一つずつ違います。この記事では、岡山県備前市伊部の窯元・小西陶古のビアマグを焼き色違いで並べ、還元の青を得意とする柴岡陶泉堂とあわせて紹介します。
1. 絵も釉薬もない。模様は炎がつける
七〜十昼夜、松の薪で焼き締める
岡山県備前焼陶友会は、備前焼をこう説明しています。「良質の陶土で一点づつ成形し、乾燥させたのち、絵付けもせず釉薬も使わずそのまま焼いたもの」。土は、伊部周辺の地下にある「ひよせ」という粘土層から掘り出します。
それを千数百度の炎で、七〜十昼夜かけて焼き締めます。窯の中で器にかかる灰、触れたワラ、こもった煙。その一つひとつが、器の肌に模様を残します。
2. 緋襷と胡麻:ワラの赤、灰の粒
ワラが、緋色の線になる
緋襷(ひだすき)は、明るい肌に走る赤い線です。陶友会によると「ワラの成分と粘土の鉄分が科学反応をおこし、緋色の線が現れたもの」。
胡麻(ごま)は、表面に散った粒。「松割木の灰が焼成中に作品に付着し、胡麻をふりかけたような状態になったもの」です。岡山県の説明では、灰が熱でとけて、自然の釉薬になったものとされています。
小西陶古 ビアマグ(緋襷)|岡山・備前市伊部
赤い線が走る、小西陶古の定番のビアマグです。高さ約11cm、口径約8cm。販売店は「はじめての方にも気軽に使っていただけるビアマグ」と紹介しています。
小西陶古は、「備前焼本来の赤松を使用した伝統の焼成を守り、量より質に重点を置いたものづくり」をしている伊部の窯元です。
小西陶古 備前焼 ビアマグ(緋襷)
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小西陶古 ビアマグ(胡麻)|岡山・備前市伊部
同じ形のビアマグの、胡麻の景色です。販売店の言葉は「全般に胡麻がかかり備前焼のおもしろさにもあふれたアイテム」。
緋襷と並べると、同じ窯元の同じ形でも、炎の当たり方でここまで顔が変わるのがよくわかります。口径は約7cm。
小西陶古 備前焼 ビアマグ(胡麻)
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3. 桟切:偶然だった景色を、狙って出す
「桟切の陶古」と呼ばれた初代
桟切(さんぎり)は、窯の中でいぶされて生まれる、ねずみ色や暗い灰色の景色です。岡山県の説明では、自然のいぶし焼でできるほか、焼成の直前に木炭を入れて色を変える方法もあります。
小西陶古の公式サイトには、こう書かれています。「初代はそれまで偶然に作られていた「桟切(サンギリ)」という景色を人工的に作り出す方法を考案しました」。窯まかせだった景色を、狙って出せるようにしたのです。いまも「その鮮やかな桟切には特に自信をもち、美しい味わいを今も受け継いで」います。
小西陶古 ビアマグ(桟切)|岡山・備前市伊部
「桟切の陶古」の桟切です。販売店は「小西陶古の人気モデル」「備前焼ならではの素朴な存在感のある桟切のビアマグ」と紹介しています。
緋襷・胡麻と同じ形なので、3つの景色をそろえて、家族や仲間で色違いにするのも楽しい使い方です。
小西陶古 備前焼 ビアマグ(桟切)
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柴岡陶泉堂 湯呑み(桟切)|岡山・備前市伊部
1912年創業、伊部の柴岡陶泉堂の湯呑みです。約180cc。窯の構造が「還元色」を出しやすく、灰や木炭で色の変化をつける桟切を得意としています。
窯元の言葉は「素直な作風・土と炎の自然美・実用性」。販売店は「毎日使い込む程に味わいが深まります」と書いています。
柴岡陶泉堂 備前焼 湯呑み(桟切)
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豆知識:「桟切の陶古」は「細工物の陶古」でもあった
小西陶古は、桟切だけでなく「細工物の陶古」としても知られてきました。茶道具や干支の置物など、細かな造形の作品です。
初代は、明治初期の細工の名工と言われた永見陶楽の孫。いまは初代の孫の小西陶藏さんが窯元の作品を監修し、作家としても備前市の指定無形文化財保持者に認定されています。
4. 青備前:還元の炎がつくる青
赤茶色の備前焼が、青くなる
赤茶色の印象がある備前焼ですが、「還元焼成」と呼ばれる焼き方では、肌が青みがかった色に焼き上がります。これが青備前です。
柴岡陶泉堂の柴岡久さんは、自分の窯についてこう話しています。「当窯の構造は「還元色」が出やすいので、灰や木炭で色の変化をつけた「桟切(さんぎり)」や還元焼成の「青備前」を得意としています」。同じ伊部でも、窯の構造で得意な色が変わるのです。
小西陶古 青備前御飯茶碗|岡山・備前市伊部
青みがかった肌の、毎日のご飯茶碗です。高さ6cm、口径12cm。白いご飯がよく映えます。
販売店は「備前焼のご飯茶碗はご飯粒がくっつかないので実はとても使い易いです」と書いています。
小西陶古 備前焼 青備前御飯茶碗
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5. 写真と同じものは届かない
商品写真は「見本」
備前焼を通販で買うときに、知っておきたいことがあります。紹介した小西陶古と柴岡陶泉堂の器を扱う販売店は、こう断っています。「こちらの商品写真は見本でございます」「備前焼の特性上、見本写真とは、景色(焼き色)がひとつひとつ異なります」。
届く器は、写真の器ではありません。けれどそれは、世界に一つの景色が自分のところに届くということでもあります。緋襷の線がどこを走るか、胡麻がどこに散るか。箱を開けるまでわからないのも、備前焼の楽しみです。
豆知識:備前焼の人間国宝
陶友会によると、金重陶陽は昭和31年に国の重要無形文化財保持者(いわゆる人間国宝)に指定されました。
岡山県によれば、備前焼の生産が始まったのは平安時代の末期から鎌倉時代の初期。国の伝統的工芸品には、昭和57年に指定されています。
6. ビール、ご飯、お茶。使い方で選ぶ
① ビールなら、ビアマグ
小西陶古のビアマグを扱う販売店は、「備前焼には微細な凸凹があり、発砲能力が高いことから、泡はきめ細かく、泡の寿命が長い」と説明しています。
ビールだけでなく、焼酎や冷たいお茶にも使える大きさです。景色違いで3つそろえれば、誰のマグかもすぐわかります。
② 毎日のご飯とお茶なら、茶碗と湯呑み
白いご飯を盛るなら、青備前の茶碗。青みがかった肌に、ご飯の白が映えます。毎日お茶を飲むなら、柴岡陶泉堂の桟切の湯呑み。販売店が書いているとおり、使い込むほど味わいが深まるのを楽しめます。
③ 贈るなら、景色を選んで
相手の好きな色を思い浮かべて、緋襷の赤、胡麻の粒、桟切のくすみ、青備前の青から選ぶ。どの景色が届くかは一つずつ違うので、その人だけの器になります。
7. よくある質問(FAQ)
備前焼には、釉薬を使わないのですか?
使いません。絵付けもしません。
岡山県備前焼陶友会は「絵付けもせず釉薬も使わずそのまま焼いたもの」と説明しています。表面の模様は、窯の中の灰やワラ、煙がつけたものです。
緋襷(ひだすき)とは何ですか?
器に走る赤い線の景色です。
陶友会によると「ワラの成分と粘土の鉄分が科学反応をおこし、緋色の線が現れたもの」です。
桟切(さんぎり)とは何ですか?
窯の中でいぶされて生まれる、ねずみ色や暗い灰色の景色です。
岡山県の説明では、自然のいぶし焼のほか、焼成の直前に木炭を入れて色を変える方法もあります。伊部の小西陶古の初代は、それまで偶然だった桟切を人工的に作り出す方法を考えました。
通販で買うと、写真と同じものが届きますか?
届きません。景色は一つずつ違います。
販売店は「こちらの商品写真は見本」「景色(焼き色)がひとつひとつ異なります」と書いています。どんな景色が届くかも、備前焼の楽しみの一つです。
青備前とは何ですか?
還元焼成で、青みがかった肌に焼き上がった備前焼です。
柴岡陶泉堂は、窯の構造が還元色を出しやすく、青備前を得意としています。
備前焼は、どこでつくられていますか?
岡山県の備前市伊部を中心とした地域です。
紹介した小西陶古と柴岡陶泉堂は、どちらも伊部の窯元です。土は、伊部周辺の地下の「ひよせ」という粘土層から採ります。
8. まとめ:炎が描く、自分だけの一客
備前焼には、絵も釉薬もありません。模様は、七〜十昼夜燃え続ける窯の中で、炎がつけます。
緋襷の赤い線はワラ、胡麻の粒は松の灰、桟切のくすみはいぶし、青備前の青は還元の炎。伊部の小西陶古は、偶然だった桟切を狙って出す方法を考え、柴岡陶泉堂は窯の構造を生かして青備前を焼いています。
同じ形でも、届く景色は一つずつ違います。ぜひ、自分の景色を一つ選んでみてください。箱を開けたとき、それがあなただけの備前焼です。