戸棚から一枚出して、テーブルに置く。
まだ何も盛っていないのに、食卓がぱっと明るくなる。九谷焼は、そういう器です。
石川県でつくられる九谷焼の持ち味は、焼き上げた器の上に描く「上絵」。緑・黄・赤・紫・紺青の五つの色で知られます。
ただ、同じ九谷焼でも顔つきはさまざまです。色を重ねて描く青手、1ミリに3本の線を引く赤絵細描、60年描き続けられてきた笛吹の湯呑、そして絵を描かない白九谷。この記事では、窯元と作り手ごとに紹介します。
1. 九谷焼は、焼いたあとに描く器
緑・黄・赤・紫・紺青の五彩
伝統的工芸品産業振興協会は、九谷焼をこう紹介しています。「豪快で濶達な線書きの上に、緑、黄、赤、紫、紺青の五彩で施される和絵具の、重厚な輝き」。そして「九谷焼は多色の絵が描かれる上絵付けに本来の持ち味」がある、と。
器はまず本窯で、1300度になるまで約15時間かけて焼きます。その上に絵具で絵を描き、今度は上絵窯で800〜1000度で焼き付けます。絵は、器を一度焼き上げてから描くものなのです。
2. 青手:黄・緑・紺青、絵具の厚みを見る
山代温泉の窯元、九谷美陶園
石川県加賀市の九谷美陶園は、大正3年(1914年)創業。山代温泉の工房で、手描きの九谷焼をつくっています。地元の古九谷や吉田屋手など、昔からの九谷の基本を大切にした器も手がける窯元です。
その「青手」の皿は、黄・緑・紺青の3色で描かれています。販売店の説明にあるとおり、見てほしいのは「九谷焼ならではの絵具の厚みや透明感」です。
九谷美陶園 青手かごめ文様 七寸皿|石川・加賀市
籠の網目を文様にした「かごめ文」を、職人が手で描いた七寸皿です。一辺約21.7cm。取り皿にも、ひと皿盛りにも使える大きさです。
九谷美陶園の言葉はこうです。「毎日の食卓に、使い易い温もりのある器を何時までも愛用頂けるようにと手造りしております」。和食にも洋食にも、と書いているとおり、販売店も朝食の皿としてすすめています。
九谷美陶園 青手かごめ文様 七寸皿
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豆知識:一度は途絶えた九谷焼
伝統的工芸品産業振興協会によると、九谷焼の始まりは17世紀半ば。九谷の鉱山で陶石が見つかり、加賀藩の職人が有田で磁器づくりを学んで帰ってきたことからです。ところが17世紀の終わりごろ、突然つくられなくなってしまいます。
再び窯に火が入ったのは19世紀。古九谷の再興をめざした吉田屋窯、赤絵細描画の宮本窯など、たくさんの窯が生まれました。
3. 赤絵細描:1ミリに3本の線
細い筆と、赤い絵具だけで
赤絵細描は、細い筆を使い、赤絵具で繊細なラインを描きあげる九谷焼の絵付け技法です。第一人者の福島武山さんを紹介した北陸中日新聞の記事は、その細かさを「米粒に名前、一ミリの間に三本の線を描き」と書いています。
武山さんが求めるのは「破綻のない美しい線」。娘の福島礼子さんをはじめ、多くの弟子がその技を受け継いでいます。
福島礼子 ぐい呑 赤絵細描波千鳥文|石川(福島武山一門)
直径6.4cmの小さな盃に、波と千鳥を赤い線で描き込んだぐい呑です。桐箱入り。
一つずつ手描きなので、絵付けの濃淡は一つひとつ違います。お酒好きの人への贈り物にも。
福島礼子 九谷焼 ぐい呑 赤絵細描波千鳥文(桐箱)
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4. 上出長右衛門窯:60年描き続ける笛吹
笛を吹く人の、ゆるい線
石川県能美市の上出長右衛門窯は、明治12年に九谷焼の問屋として創業し、昭和16年に本窯を入れた窯元です。平成12年の沖縄サミットでは、首脳晩餐会の器に使われました。
この窯が60年描き続けているモチーフが「笛吹」。笛を吹く人物を、のびやかな線で描いた湯呑です。販売店の言葉を借りれば、「堅苦しくなく自由な笛吹は、鮮やかで美しい色彩の九谷焼とは違った魅力」があります。
上出長右衛門窯 笛吹 湯呑(12種から選べる)|石川・能美市
昔ながらの笛吹に加えて、トランペット、ドラム、ラジカセ、スケートボードまで。12種から選べます。笛吹という伝統を継ぎながら、持たせるものだけを今の暮らしに替えたシリーズです。
代々続く職人が一つずつ手で描いています。径7×高さ8.2cm、化粧箱入り。音楽をやっている人へ、楽器を選んで贈る使い方もできます。
上出長右衛門窯 笛吹 湯呑(12種から選べる・化粧箱)
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上出長右衛門窯 飯茶碗 吾唯足知 大|石川・能美市
紺青で描いた、毎日のご飯茶碗です。濃淡をつけて描くので、同じものは二つとありません。
ご飯を食べ終えると、底に「吾唯足知(われ、ただ足ることを知る)」の文字が出てきます。径12cm、約225g。
上出長右衛門窯 飯茶碗 吾唯足知 大
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豆知識:「吾唯足知」は、口を足して読む
茶碗の底の文字は、真ん中の「口」を共有するように4つの字が並んでいます。それぞれの字に真ん中の口を足して読むと「吾唯足知」。
販売店の説明によると、水戸光圀公が京都の龍安寺に寄進したと言われる「つくばい」に刻まれた言葉です。
5. 白九谷:絵を描かない九谷焼
鉄分が少し多い陶石の、青みがかった白
石川県小松市の宮吉製陶は、1972年創業。九谷焼の素地(絵を描く前の白い器)づくりを手がけてきた窯元で、平成2年からは型打ちによる手挽きのロクロで器をつくっています。
白九谷の説明にはこうあります。「九谷焼産地の陶石は鉄分がやや多く、焼くと独特な青みがかかった白磁」。絵を描かないからこそ、花坂陶石の白の質感と、型で打ち出した浮き彫りの文様がよく見えます。
宮吉製陶 磁器白九谷 型打 7.5寸輪花鉢(リム)2枚|石川・小松市(ふるさと納税)
花の形の縁に、茶色の「縁錆(ふちさび)」をひいた白九谷の鉢です。縁錆は磁器の伝統的な装飾で、器全体が引き締まって見えます。径約23cmが2枚。
型打ちの器は職人の手が入るので、雰囲気も薄さも、一枚ずつ少しずつ違います。小松市のふるさと納税の返礼品です。
宮吉製陶 磁器白九谷 型打 7.5寸輪花鉢(リム)2枚(小松市ふるさと納税)
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6. 使い方で選ぶ。食洗機と電子レンジ
① 食卓のどこに置くかで選ぶ
料理と一緒に器を眺めたいなら、青手の皿。毎日手に取るなら、上出長右衛門窯の湯呑や茶碗。晩酌の時間を特別にしたいなら、赤絵細描のぐい呑。そして、色のある料理を引き立てたいなら白九谷です。
② 食洗機・電子レンジは、器ごとに確かめる
九谷焼だからといって、扱いは一律ではありません。販売店や窯元の表示では、上出長右衛門窯の笛吹(ドラム)は電子レンジ・食洗機とも使用可能、宮吉製陶の白九谷も食洗機・電子レンジ可(オーブンは不可)です。
一方、福島礼子さんの赤絵細描のぐい呑は、販売店が「永くご愛用頂く為に食洗器、電子レンジのご使用は当店では推奨しておりません」としています。細い線を長く楽しむなら、手で洗うのが安心です。
7. よくある質問(FAQ)
九谷焼の「五彩」とは何ですか?
緑・黄・赤・紫・紺青の五つの色です。
伝統的工芸品産業振興協会は、九谷焼の特徴を「緑、黄、赤、紫、紺青の五彩で施される和絵具の、重厚な輝き」と紹介しています。
九谷焼は、どこでつくられていますか?
石川県の金沢市、小松市、加賀市、能美市です。
この記事で紹介した窯元は、加賀市(九谷美陶園)、能美市(上出長右衛門窯)、小松市(宮吉製陶)にあります。
赤絵細描とは何ですか?
細い筆と赤い絵具で、細かな線を描き込む九谷焼の絵付け技法です。
第一人者の福島武山さんについて、北陸中日新聞は「米粒に名前、一ミリの間に三本の線を描き」と伝えています。
九谷焼は食洗機や電子レンジで使えますか?
器によって違います。
上出長右衛門窯の笛吹(ドラム)や宮吉製陶の白九谷は使用可能と表示されています。赤絵細描のぐい呑は、販売店が使用を推奨していません。買う前に、それぞれの表示を確かめてください。
白九谷とは何ですか?
上絵を描かず、白磁の素地そのものを見せる九谷焼です。
宮吉製陶の白九谷は、九谷焼産地の陶石ならではの「青みがかかった白磁」と、型打ちの浮き彫りの文様が見どころです。
九谷焼を贈り物にするなら、何がいいですか?
相手の暮らしに合わせて選べます。
お酒好きの人には赤絵細描のぐい呑、毎日使ってほしいなら上出長右衛門窯の湯呑。笛吹シリーズは楽器を選べるので、音楽好きの人への贈り物にもなります。
8. まとめ:盛る前から、食卓が華やぐ
九谷焼は、焼き上げた器の上に絵を描く、上絵の器です。
九谷美陶園の青手は、黄・緑・紺青の絵具の厚みと透明感。赤絵細描は、1ミリに3本の赤い線。上出長右衛門窯は、60年描き続けてきた笛吹と、底に言葉が隠れた茶碗。宮吉製陶の白九谷は、絵を描かずに、青みがかった白と型打ちの文様を見せます。
戸棚から一枚出すだけで、食卓が明るくなる。そんな器を、ぜひ一つ選んでみてください。料理を盛ったあとも、きっと何度も眺めたくなります。