地下足袋は、日本で生まれた履物です。
ところが、いまも日本で作り続けている会社は、数えるほどしか残っていません。
作っている側が、はっきりそう書いています。兵庫県高砂市で地下足袋を作る高砂産業は、自社のサイトにこう記しています。
「国産(日本製)の地下足袋を店頭で見ることが少なくなっています」
日本製を探している人には、見つけにくくなりました。
それでも、材料から加工まで日本にこだわって作り続けている会社があります。この記事では、その会社を一社ずつ紹介します。あわせて、箱に書かれた「5枚」「12枚」の読み方もお伝えしましょう。
【早見表】日本製の地下足袋を作っている会社
| 会社 | どこで作っているか | 向いている使い方 | 価格の目安 |
|---|---|---|---|
| 高砂産業(倭紋) ▾ | 兵庫県高砂市 | 普段履き・祭り | 5,900円前後 |
| 大同石油 ▾ | 東京都北区 | 山林作業・鮎釣り | 9,600円前後 |
| 丸五 ▾ | 岡山県倉敷市 | 祭り・普段履き | 8,500円前後 |
| SOU・SOU ▾ | 京都(製造は上の2社) | 柄で選ぶ普段履き | 8,500円前後から |
| 覚えておくこと | 箱の「5枚」「12枚」はサイズではありません。こはぜの数、つまり丈です | ||
会社名を押すと、その解説へ飛べます。
1. 日本製の地下足袋は、なぜ見つけにくいのか
地下足袋は、ふつうの靴より手がかかります。足の形に沿わせて布を裁ち、縫い、そこへゴムの底を貼る。工程の多くが手作業のままです。だから人件費がそのまま値段に出ます。
生産が賃金の安い国へ移ったのは、この理由です。人の手の数が、そのまま原価になる作りかたなので、賃金の差がまともに効きます。
それでも、国内に工場を残して作り続けている会社があります。この記事で紹介するのは、その会社です。次の章から、一社ずつ見ていきます。
箱の「5枚」「12枚」は、サイズではありません
日本製を探す前に、ひとつ覚えておくと選びやすくなります。地下足袋の箱に書かれた「5枚」「12枚」という数字は、こはぜの数、つまり丈の長さです。
こはぜは、漢字で甲馳と書きます。履き口に並んだ爪の形をした金具で、向かい側の糸に引っかけて留めるものです。足袋に付くようになったのは明治の頃だとされています。金具は縦に並ぶので、枚数がそのまま丈になります。1枚でおよそ2cm。
5枚なら足首まで。脱ぎ履きが早く、動きも軽くなります。12枚から15枚になると、ふくらはぎまで隠れます。草や小石から脚が守られるので、現場で一日履くならこちらです。
どちらが上ということはありません。覆う範囲が違うだけです。脱ぎ履きの回数が多いなら短いほう、脚を守りたいなら長いほうと考えてください。
豆知識:白足袋では、東と西で好みが分かれます
着物に合わせる白足袋にも、こはぜがあります。面白いのは地域で好みが違うことで、関東では4枚、関西では5枚が好まれるといわれます。
関東は足首が見えるほうが粋、関西は素肌を見せないほうが奥ゆかしいという感覚の違いだそうです。ただし礼装や日本舞踊では5枚が基本で、結婚式では「4=しまい」を嫌って5枚が選ばれます。これは白足袋の話で、地下足袋とは別ですが、同じ金具が地域の美意識まで映しているのは面白いところです。
2. 高砂産業|材料も、加工も、全部日本
帆布は岡山、染めは京都、こはぜは東大阪
兵庫県高砂市に、高砂産業という会社があります。1969年の設立で、自社ブランドの名前を倭紋(わもん)といいます。
この会社が掲げているのは、安定した高品質の確保と、日本の伝統的な技術の継承という2つです。そのために、全ての材料と加工を日本製で通しています。
どこまで日本かというと、部品の産地まで分かれています。足袋の生地に使う8号帆布は岡山で織られたもの、染色は京都の手捺染、こはぜは東大阪で加工。底のゴムは兵庫です。
日本製という一言の中身が、地名で並んでいます。それぞれの土地に残る、数少ない職人の仕事を集めた形です。
裁断も縫製も、いまだに手作業です
工場での作りかたも変わっていません。裁断、縫製、加工。この3つの段階が、すべて手作業です。ベテランの職人と、これから覚えていく若い職人が、並んで作っています。
生地には三河木綿の刺子織を使ったものがあります。剣道着や柔道着に使われる、丈夫な特殊織物です。表面に凹凸があり、糸目が細かいので、履き込むほど風合いが出ます。裏地は黒なら黒のギンガムチェック、紺なら赤のギンガムチェック。
兵庫県の「五つ星ひょうご」にも選ばれています。サイズは22.0cmから28.0cmまで。
豆知識:この工場は、海外のサーファーにも足袋を送っていました
高砂産業が作ってきたのは、作業用の足袋だけではありません。1973年に釣り用の地下足袋を手がけ、1983年にはアメリカのオニール社からの依頼で、サーフィン用の足袋式ブーツを輸出しています。1992年にはダイビング用にも広がりました。
そして2004年から、京都のSOU・SOUの地下足袋を作っています。指が分かれた履物は、波の上でも水の中でも役に立つ。そのことに、海の向こうが先に気づいていたわけです。日本の売り場から国産が消えていく間に、この工場は外とつながっていました。
倭紋の刺子|剣道着の生地で作った一足
三河木綿の刺子織を使ったモデルです。
剣道着や柔道着と同じ生地なので、擦れる場所が多い履物との相性がいい。表面の凹凸が光を拾うので、黒でも平板に見えません。
裏地にギンガムチェックが入っています。脱いだときに見える場所まで作ってあるのは、作業着ではなく履物として作られている証拠です。
倭紋の帆布|岡山の8号帆布と、京都の染め
岡山で織った8号帆布を、京都で手捺染したものです。
8号は、帆布のなかでは中くらいの厚み。張りがあって、履くうちに足の形へ落ち着いていきます。
底は薄く作られているので、土の上を歩く用途に向きます。庭仕事や畑なら、地面の凹凸が足裏で分かるほうが安全です。硬い舗装を長く歩くなら、厚めの底を選んでください。
3. 大同石油|山と川で使う日本製
東京都北区に、大同石油という会社があります。名前から想像しにくいのですが、作っているのは滑り止めの履物です。ブーツ、ウェダー、そして地下足袋。
ここの地下足袋は、用途がはっきりしています。山林の作業と、鮎釣り。どちらも、濡れた岩や苔の上に立つ仕事です。だから底にはスパイクが打ってあります。
こはぜ4枚から、防水のマジックテープ式まで
作りは用途で分かれています。山林用のこはぜ4枚と8枚、マジックテープで留める先割れと先丸、そして完全防水のもの。先丸というのは、つま先が分かれていない形です。
価格は9,000円台から13,000円台。ふつうの地下足袋の3倍ほどですが、スパイクを打った特殊な底と、防水の構造が入っています。
注意したいのは、スパイクは屋内や舗装の上では使えないことです。床を傷めますし、金属の上では逆に滑ります。山と川の道具だと割り切って選んでください。
山林作業用|こはぜ8枚のスパイク足袋
ふくらはぎの手前まで覆う丈です。
下草の茂った斜面で脚が露出していると、それだけで消耗するもの。8枚あれば、脛から下は隠れます。
底のスパイクは、濡れた斜面と落ち葉のために付いています。先の割れた形と先丸の形があり、指で踏ん張りたいなら先割れです。
防水スパイク足袋|川に入って使う
水を通さない作りのスパイク足袋です。
鮎釣りのように川へ入ったまま長く立つ使い方を想定しています。苔の付いた石は、普通の靴底では止まりません。
こはぜ7枚のものと、マジックテープ式があります。水辺で何度も脱ぎ履きするならマジックテープ、一日入りっぱなしならこはぜが向きます。
4. 丸五|一度手放して、取り戻した
岡山県倉敷市の丸五は、1919年(大正8年)の創業で、100年を超えました。
この会社が自ら語る成り立ちが面白いところで、創業者は人力車のタイヤに使われていたゴムを、足袋に貼りつけたといいます。布の足袋のままでは外を歩けない。そこにすり減らない底を付けたわけです。もっとも、ゴム底足袋を最初に作ったのが誰かは、はっきりしません。ほかにも名乗る会社があります。
いちど海外へ移し、そして戻しました
丸五も、いちどは生産を国の外へ移しています。2008年ごろ、ファッション向けの足袋を海外の自社工場で作り始めました。
面白いのは、その後です。2010年、この会社は日本での生産を復活させました。始まりは職人4人ほどの小さな工場で、掲げた言葉が「Made in Kurashiki」。
復活させた足袋のひとつが、股付と先丸の5枚こはぜです。およそ40年ぶりに作られた、丸五の国産地下足袋として売られています。股付は指が分かれた形、先丸は分かれていない形。どちらも足首までの短い丈です。
面白いのは底で、丸五に残っていた、いちばん古い地下足袋の底の型を復刻しています。戻したのは工場だけではなかった、ということです。
ひとつ気をつけたいのは、丸五の地下足袋は種類が多いことです。海外で作っているシリーズもあるので、日本製を選ぶなら「国産」と明記されたものを指名してください。
豆知識:社名の「五」は、五大陸のことだそうです
丸五という社名には、五大陸を飛び回るという意味が込められているといいます。ロゴにもアラビア数字の5が使われています。
大正時代の倉敷で、足袋を作る会社が世界を名前に入れていた。その百年後に、足袋型の靴が実際に海外で買われているのを見ると、名前が先に決めていたようにも思えてきます。
5. SOU・SOU|国産の地下足袋を、普段履きに
作るのではなく、売り続けている
京都のSOU・SOUは、2003年に始まったブランドです。自社に工場は持っていません。ここまで紹介してきた高砂産業と、丸五の国産ラインが作り手です。
それでもこの記事に入れたのは、国産の地下足袋を売り場に置き続けているからです。自ら「国内唯一の国産地下足袋ブランド」を名乗っています。
並んでいるのは、作業着の色ではありません。大胆な柄と色のテキスタイルを自分たちで起こし、それを地下足袋に仕立てています。作業のための履物を、街で履くものへ引き戻した格好です。
地下足袋は、いまjika-tabiという綴りで海外に通じます。翻訳されずに残った言葉のひとつです。向こうで受けているのは、日本での使われ方とは少し違います。底が薄く、指が分かれていて、足の形に沿う。その特徴が、できるだけ素足に近い履物を求める人たちに見つけられました。
作業着として始まったものが、普段履きとして外へ出ていった。珍しい例です。そしてその足元を支えているのが、兵庫と岡山に残った小さな工場だというのは、知っておいていい話だと思います。
貼付地下足袋|柄で選ぶ一足
オリジナルのテキスタイルを使った地下足袋です。
貼付とは、底を貼り付けて作る製法のこと。色柄で選べるので、作業用に見えません。
こはぜ式のほか、マジックテープ式や子ども用もあります。価格は他の地下足袋より上がりますが、生地から自分たちで作っているぶんだと考えてください。
6. 選び方|留め方・底・サイズ
会社が決まったら、見るところは3つです。丈(こはぜの枚数)はもう分かっているので、残りを見ていきます。
① 留め方|こはぜか、マジックテープか
こはぜは一枚ずつ引っかけて留めます。締まり具合が自分で決められて、脚に沿うので緩みにくい。慣れれば早く留められます。
もうひとつの留め方が、マジックテープ式。一動作で脱ぎ履きできるので、出入りが多い仕事や、子ども用に向きます。締め加減の細かさは、こはぜにかないません。
初めてなら、脱ぎ履きの回数から決めてください。一日履きっぱなしならこはぜ、何度も脱ぐならマジックテープです。
② 底|薄いほど地面が分かります
底の厚みで、履き心地がまるで変わります。薄い底なら地面の形が伝わり、足の裏で状態が分かる。そのぶん小石を踏めば痛いし、長く歩けば疲れます。
厚めの底や、空気を入れたクッション入りのものもあります。硬い場所を長く歩くなら、こちらのほうが楽です。濡れた岩や落ち葉の上に立つなら、スパイクの付いたものという選択肢があります。
足場が悪い場所ほど薄く、平らな場所を長く歩くほど厚く。そう考えると外れません。
③ サイズ|足の長さと、足の幅を測る
地下足袋は足に沿う履物なので、靴のサイズ感覚のままだと合いません。見るのは足長(かかとから指先)と足囲(親指の付け根まわり)の2つです。
丸五は足の測定シートを無料で配っています。印刷して足を乗せれば、長さと幅が分かるものです。買う前に一度測っておくと、失敗が減ります。
迷ったら、大きいほうを選んでください。倭紋を作る高砂産業は、「地下足袋は、しっかり足の指が伸びる設計になっておりますので、25.0cmの小さめより26.0cmの大きめをお勧めいたします」と案内しています。指が伸びきらないと、この履物の良さが出ません。足袋は靴下と違い、伸びて合わせてくれる部分が多くないので、なおさらです。
7. よくある質問(FAQ)
日本製の地下足袋は、どこで買えますか?
作っている会社の直営店か、その会社の商品を扱う通販が確実です。高砂産業の倭紋には、楽天に製造元の直営店があります。
実店舗では、置いていないことがあります。作っている会社が限られるためです。商品ページの生産国の欄を見て選んでください。
スパイクの付いた地下足袋は、普段履きにも使えますか?
屋内や舗装の上では使えません。スパイクは濡れた岩や斜面に食い込ませるためのもので、硬い床では刺さらず、かえって滑ります。フローリングやタイルは傷めます。
山林作業と鮎釣りのための道具だと割り切って選んでください。街で履くなら、スパイクの付いていない薄底のものが向きます。
なぜ日本製の地下足袋は高いのですか?
工程の多くが手作業だからです。高砂産業では裁断、縫製、加工の3段階すべてを人の手でやっています。人件費が、そのまま値段になる。
日本製の地下足袋は5,900円あたりから。スパイクや防水の入ったものは1万円を超えます。裁つ人、縫う人、底を貼る人。その手の数を買っていると考えてください。
箱の「12枚」はサイズのことですか?
違います。こはぜの枚数、つまり丈の長さです。こはぜは履き口に縦に並ぶので、枚数が増えるほど丈が伸びます。1枚でおよそ2cm。
5枚なら足首まで、12枚から15枚ならふくらはぎまで覆います。サイズは別に表記されています。
サイズは靴と同じでいいですか?
靴の感覚のままだと合いません。足に沿う履物なので、見るのは足長(かかとから指先)と足囲(親指の付け根まわり)です。
丸五が足の測定シートを無料で配っています。印刷して足を乗せれば測れます。迷ったら店で履いてみるのが確実です。足袋は伸びて合わせてくれる部分が多くありません。
なぜ親指が分かれているのですか?
靴ではなく、足袋に底を付けたものだからです。もともとの足袋の形が、そのまま残っています。結果として足の指で地面をつかめるようになり、足場の悪い場所で使われてきました。
ただし守る力は靴に劣ります。重いものが落ちる場所では、安全靴を選んでください。先丸という、つま先の分かれていない形もあります。
8. まとめ:作り続けている会社が、まだあります
地下足袋は日本で生まれた履物ですが、いまも日本で作り続けている会社は、数えるほどしか残っていません。手のかかる作りなので、生産が賃金の安い場所へ移りました。日本製は、探さないと出てきません。
それでも作り続けている会社があります。兵庫県高砂市の高砂産業は、帆布は岡山、染めは京都、こはぜは東大阪と、材料の産地まで日本で通しています。裁断も縫製も手作業のままです。東京の大同石油は、山林作業と鮎釣りという滑る場所のための足袋を国内で作り続けています。
岡山の丸五は、いちど海外へ移した生産を2010年に職人4人で日本へ戻しました。「Made in Kurashiki」と名づけて、およそ40年ぶりの国産地下足袋を出しています。京都のSOU・SOUは、その国産を柄物の普段履きとして売り場に置き続けています。
選ぶときは、まず丈から。箱の「5枚」「12枚」はサイズではなく、こはぜの数、つまり丈です。1枚でおよそ2cm。そのあとで留め方と底、そして足長と足囲を測る。
買う人がいなくなれば、この工場も止まります。日本製の地下足袋を探しているなら、商品ページの生産国の欄を見て、国産と書かれた一足をぜひ手に取ってみてください。