塗りたての漆喰の壁に、継ぎ目のない、なめらかな面。
それをつくるのは、左官職人の手と、一枚の薄い鋼の鏝(こて)です。
この記事では、左官鏝を「どこで打たれたか」から選びます。鏝は、大工道具の町・兵庫県三木の伝統的工芸品のひとつ。伝統的工芸品の工場で手打ちされた仕上鏝、4代約100年続く梶原鏝製作所の鏝、土間を仕上げる長い先丸鏝、そして扱いやすい本焼の角鏝。
海の向こうの左官職人も手にする日本の鏝を、用途で選べるようにまとめました。
【早見表】左官鏝、どれにする?
| 鏝 | 作り手 | 形・長さ | 向いている仕事 |
|---|---|---|---|
| 本鍛造手打 仕上鏝 ▾ | カネミツ(伝統的工芸品の工場) | 仕上鏝・210mm | 壁の仕上げ |
| HISIKA 重次作 モルタル押鏝 ▾ | 梶原鏝製作所 | 押さえ鏝・210mm | モルタルの押さえ |
| SHINARI 先丸土間鏝 ▾ | 梶原鏝製作所 | 先丸・360mm | 土間の仕上げ |
| 播州三木産 本焼 角鏝 ▾ | 播州三木産 | 角鏝・240mm | 広い面の塗り付け |
名前を押すと、その章へ飛べます。塗るもので選ぶなら6章 ▾へ。
1. 鏝は、三木で打たれる
城下の復興から、大工道具の町へ
伝統的工芸品産業振興協会によると、兵庫県三木の町は、安土桃山時代の末期に羽柴秀吉に攻められて三木城が落城し、一度壊されました。秀吉が町民の税を免じて復興を図ると、神社や寺、家を建て直すために大工職人が各地から集まり、それが三木の大工道具の発展につながりました。
いま「播州三木打刃物」として国の伝統的工芸品に指定されているのは、鋸、鉋、鑿、鏝、小刀。左官の鏝もそのひとつです。技法の決まりには、鏝は焼入れのあとに押さえ込んで歪みを取ること、仕上げは手作業で行うことが定められています。
海の向こうの左官職人も、日本の鏝を使う
日本の鏝は、海外でも売られています。米国ペンシルベニア州で石灰の建材を扱う Lancaster Lime Works は、三木のメーカーの日本の鏝を「天然素材を塗るのに最良の左官鏝と考えられている」と紹介しています。英国の自然素材の建材店 Mike Wye も、粘土の壁や、モロッコの磨き漆喰「タデラクト」の道具として日本の鏝を扱っています。
2. 伝統的工芸品の工場で、手打ちされた仕上鏝
安来鋼の青紙1号を、本鍛造で
カネミツの「本鍛造手打 仕上鏝」は、販売店の説明では「伝統的工芸品指定を受けている工場の手打ち」の鏝です。鋼は、刃物の鋼として知られる安来鋼の青紙1号を使った本焼の鏝です。
仕上鏝は、壁の最後の面をつくる鏝です。
カネミツ 本鍛造手打 仕上鏝 210mm 本焼安来鋼 青紙1号|兵庫・三木
播州三木打刃物の、手打ちの仕上鏝です。長さ210mm。
メーカーからの取り寄せです。毎日の仕事の道具を、三木の手打ちの一本にしたい職人に。
カネミツ 本鍛造手打 仕上鏝 210mm 本焼安来鋼 青紙1号(播州三木打刃物)
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3. 4代約100年:梶原鏝製作所
使い込むほど、手になじむ鏝
三木の梶原鏝製作所は、4代にわたって左官鏝を作り続けて約100年。三木の刃物店「みきかじや村」の紹介では、「使いはじめはもちろん、使い込む事で、より手になじむ鏝を製造」しています。
鋼には安来鋼などの刃物鋼を使い、それぞれに合った焼入れと焼き戻しで、硬さと粘りを持たせています。柄はすべて檜。白い柄の「別打HISIKA」は細部まで精密に仕上げたもの、黒い柄の「HISIKA」は機械仕上げで、鋼と焼入れは同じです。
梶原鏝製作所 HISIKA 重次作 本焼 モルタル押鏝 210mm|兵庫・三木
モルタルを押さえるための、本焼の鏝です。全長約210mm、柄は約115mm。
販売は、日本の伝統工具を扱う滋賀の「道具屋 善左衛門」。道具の専門店で選びたい人に。
梶原鏝製作所 HISIKA 重次作 本焼 モルタル押鏝 210mm(兵庫・三木)
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4. 土間を仕上げる、長い先丸鏝
長さ360mm、厚さ0.4mm
土間鏝は、床を仕上げるための鏝です。梶原鏝製作所の「SHINARI(しなり)」は、先の丸い土間鏝。長さは360mmと、2章の仕上鏝(210mm)よりずっと長い鏝です。
販売店の説明では「土間仕上げ用先丸鏝」で、長さ360mm、幅100mm、厚さ0.4mm。先丸の形について、三木の鏝メーカーのカネシカは「塗り重ね部分に発生しやすい『つなぎ目』をムラ無く仕上げます」と説明しています。
梶原鏝製作所 SHINARI 先丸土間鏝 360mm|兵庫・三木
土間の仕上げに使う、先丸の長い鏝です。300mmから420mmまで長さがあります。
玄関や土間、ガレージの床を自分で仕上げたいときにも。
梶原鏝製作所 SHINARI 先丸土間鏝 360mm(兵庫・三木)
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5. 広い面を塗る、本焼の角鏝
四角い鏝は、塗り付けの基本
三木の鏝メーカー、カネシカの製品説明では、角鏝は「コンクリート・壁・土間・側溝等の広い範囲の塗り付け、補修に最適」とされています。
「播州三木産」の本焼の角鏝は、販売店の説明では「本焼で柔軟さがあり、扱いやすい」。鏝板を留める前後の鋲(リベット)にはステンレスを使い、腐食しにくくしています。
播州三木産 本焼 角鏝 240mm ステンリベット|兵庫・三木
三木で作られた、本焼の角鏝です。長さ240mm。255mmもあります。
壁の塗り替えや補修をはじめて自分でやってみる人の、最初の一本にも。
播州三木産 本焼 角鏝 240mm ステンリベット
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6. 塗るもので選ぶ
① 壁の最後の面をつくるなら:仕上鏝
カネシカの製品説明では、仕上鏝は「モルタル全般の塗り付け、細部の仕上、ツヤ出し」に向く鏝。漆喰や土の壁をなめらかに仕上げる仕事には、2章の手打ちの仕上鏝を。
② モルタルを押さえるなら:押さえ鏝
塗ったモルタルを押さえる仕事には、3章の梶原鏝製作所のモルタル押鏝。
③ 床なら:土間鏝。広い面なら:角鏝
コンクリートの床は4章の長い土間鏝。広い壁に材料を塗り付けるなら5章の角鏝です。
あわせて:ほかの大工道具も三木で
三木の鉋や鑿は鑿・鉋のガイドに、鋸と金槌はのこぎり・金槌のガイドにまとめています。
7. よくある質問(FAQ)
左官鏝は伝統的工芸品ですか?
兵庫県三木の「播州三木打刃物」として、鏝は国の伝統的工芸品に含まれています。
指定は平成8年(1996年)。鋸、鉋、鑿、小刀とあわせた5品目です。
なぜ三木で大工道具が作られるようになったのですか?
三木城の落城後、町の復興のために大工職人が各地から集まったことが、大工道具の発展につながりました。
秀吉が町民の税を免じて復興を図ったと、伝統的工芸品産業振興協会が紹介しています。
梶原鏝製作所の「別打HISIKA」と「HISIKA」は何が違いますか?
鋼と焼入れは同じで、仕上げが違います。
白い柄の「別打HISIKA」は細部まで精密に仕上げたもの、黒い柄の「HISIKA」は機械仕上げです。
日本の鏝は海外でも使われていますか?
はい。米国や英国の自然素材の建材店が、日本の鏝を扱っています。
米国の Lancaster Lime Works は、日本の鏝を「天然素材を塗るのに最良の左官鏝と考えられている」と紹介しています。
床のコンクリートにはどの鏝を使いますか?
土間鏝です。
梶原鏝製作所の「SHINARI」は、販売店の説明で「土間仕上げ用先丸鏝」とされる、長さ300〜420mmの鏝です。
鏝の柄は何でできていますか?
梶原鏝製作所の鏝は、柄がすべて檜です。
播州三木打刃物の決まりでも、柄は木製と定められています。
8. まとめ:壁を塗る鋼は、三木で打たれる
なめらかな壁の向こうには、一枚の鋼があります。
伝統的工芸品の工場で手打ちされたカネミツの仕上鏝。4代約100年、檜の柄で使い込むほど手になじむ梶原鏝製作所の押さえ鏝と土間鏝。扱いやすい播州三木産の本焼の角鏝。
秀吉の時代に大工が集まった町の鋼で、あなたの壁を塗ってみてください。