一人前の弓師になるには、10年以上かかると言われています。
宮崎県都城市で作られている都城大弓。原料は真竹と櫨(はぜ)で、200から300を超える工程のほとんどが手作業です。平成6年に国の伝統的工芸品に指定されました。
矢のほうにも、独特の決まりがあります。矢は2本で一組。同じものを2本作るのではありません。表と裏の向きが逆になる2本を組にします。
その矢に付く羽根は、いまも天然の鳥の羽です。七面鳥、黒鷲。使える羽根が限られているなかで、稽古用と試合用が選び分けられています。
この記事では、弓の作られ方、矢の組み方と羽根、そして手にはめるゆがけまでを順に見ていきます。
1. 竹の弓は、200を超える工程で作られます
原料は、真竹と櫨です
宮崎県都城市の公式サイトには、都城大弓についてこう書かれています。「真竹と櫨(はぜ)を原料として作られています」。
竹だけではありません。竹と、櫨という木を貼り合わせて弓の身体を作ります。しなって戻る力を、二つの材の組み合わせで出しています。
竹そのものの粘りについては、前日の剣道具の記事で書きました。竹刀は一本の竹を割って使いますが、弓は貼り合わせて使う。同じ真竹でも、扱い方が違います。
200から300を超える工程、そのほとんどが手作業
同じページに、工程の数が書かれています。「200から300を超える工程は、そのほとんどが手作業で」。
そして、続きがあります。「一人前の弓師になるには10年以上の歳月が必要」。
工程の数と、人が育つ年数が、並んで書かれています。200を超える手作業を身につけるのに、10年。道具の話であると同時に、人の話でもあるということです。
いまも、都城で作られています
都城大弓は、平成6年に国の伝統的工芸品に指定されました。都城市の公式サイトによれば、現在5人の国の伝統工芸士がいて、全国トップの竹弓の生産量を誇っています。
竹の弓は、量販の売り場にはほとんど並びません。受注で作られるものだからです。この記事で紹介できるのは、次の章から出てくる別の材の弓になります。
2. いまの弓は、材で選べるようになっています
貼り合わせるという考え方は、同じです
竹弓が竹と櫨を貼り合わせて作られるのに対して、いま広く使われている弓は、グラスファイバーやカーボンを芯材と貼り合わせて作られています。
層にして貼り合わせる、という考え方そのものは変わっていません。変わったのは、貼り合わせる材のほうです。
弓には「並寸」「伸寸」といった長さの別があり、引く力の強さ(弓力)も選びます。身長と、引ける力で決まる部分です。
弓『楓』並寸|6kgから13kgまで
山武弓具店(千葉県山武市)の弓です。弓力は6kgから13kgまで選べます。
初心者教室や弓道部向けとして案内されている一張りです。弓は引く力に体が慣れていく道具なので、最初は軽いものから始めて、あとで強いものに移るという進み方をします。
籐は三ヶ所巻。弓の表面に籐を巻いて補強してある箇所の数です。
弓道 弓『楓』並寸 黒 籐三ヶ所巻(山武弓具店)
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弓『練心』並寸|同じ店の、ひとつ上
同じ山武弓具店の、『楓』の上にあたる弓です。同じ店で並んでいるので、段の付き方がそのまま読めます。
弓は、引き分けたときの手応えで選ぶ道具です。同じ弓力でも、しなり方や戻り方に違いが出ます。
こちらも籐三ヶ所巻。握りの位置や太さは、使う人の手に合わせて調整していく部分です。
弓道 弓『練心』並寸 黒 籐三ヶ所巻(山武弓具店)
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弓『直心2 カーボン』並寸|カーボンを貼り合わせた弓
芯材にカーボンを使った弓です。籐巻は三ヶ所巻と五ヶ所巻から選べます。
竹と櫨を貼り合わせるという作り方の、材を替えた形です。層にして張り合わせ、しなりと戻りを作る。構造の発想は、竹弓から続いています。
湿度や温度の影響を受けにくいのが、この材の使いどころです。毎日引く道具として選ばれています。
弓道 弓『直心2 カーボン』並寸(山武弓具店)
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3. 矢は、表裏が逆の2本で一組です
甲矢と乙矢で、一手
弓道の矢は、2本で一組として扱われます。甲矢(はや)と乙矢(おとや)。この2本を合わせて一手(ひとて)と呼びます。
面白いのは、同じ矢を2本作っているのではないということです。甲矢は行射のとき、正面から見ると羽根の表が向いています。乙矢は、射手側に表が向きます。
表と裏が逆になる2本を、わざわざ作り分けて組にしている。6本組で売られているものは、甲矢3本と乙矢3本という中身になります。
シャフトの太さも、選ぶところです
矢の軸をシャフトと呼びます。商品名に出てくる「1913」のような数字は、この軸の規格です。
推奨される弓力が、シャフトごとに決まっています。弓が強いほど、それに耐える軸が要る。弓を選んでから矢を選ぶという順番になるのは、そのためです。
矢の長さも、引く人の腕の長さで決まります。矢尺と呼ばれる寸法で、既製品でも長さを選ぶ形になっています。
4. 羽根は、いまも天然の鳥のものです
使える羽根が、限られています
矢に付く羽根は、いまも天然の鳥の羽です。七面鳥、鷲、鷹、白鳥。鳥の種類によって、硬さも重さも模様も変わります。
そして使える羽根は限られています。猛禽類のなかには、ワシントン条約で商業取引が原則禁止とされている鳥もいます。どの鳥がどう扱われるかは、鳥ごとに違います。
そのなかで、稽古用と試合用が選び分けられている。次の2つは、同じ店の同じシャフト・同じ6本組で、羽根だけが違う矢です。
ジュラルミン矢 6本組 ターキー先黒染羽|日々の稽古に
羽根はターキー、つまり七面鳥です。手に入りやすく、日常の練習に向いているとされる羽根です。
先黒染めは、羽根の先だけを黒く染めたもの。射た矢が的の前でどう飛んでいるかを、目で追いやすくする意味もあります。
シャフトは1913。次の矢と同じ規格です。違うのは羽根だけなので、羽根が何を変えるのかを比べられます。
弓道 ジュラルミン矢 6本組 ターキー先黒染羽 1913シャフト(翠山弓具店)
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ジュラルミン矢 6本組 黒手羽|同じシャフト、違う羽根
羽根が手羽に変わります。シャフトは同じ1913、本数も同じ6本組。
羽根は、矢の飛び方を安定させる部品です。硬さや厚みが変われば、空気の受け方が変わります。耐久性の高い羽根が試合向きとされるのは、何度も射るなかで形が保たれるからです。
矧糸(はぎいと)の色も選べます。羽根を軸に留める糸で、6本を自分の組として見分けるしるしにもなります。
弓道 ジュラルミン矢 6本組 黒手羽 1913黒シャフト(翠山弓具店)
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羽根は、消耗する部品です
羽根は、的や矢取りの際にこすれて傷みます。軸そのものが無事でも、羽根が痛めば飛び方が変わります。
羽根の張り替えを受けている店もあります。軸を残して羽根だけを新しくする、という直し方ができる道具です。
5. ゆがけは、鹿革でできています
親指に、堅い芯が入っています
ゆがけは、弓を引く右手にはめる革の手袋です。鹿革で作られます。
普通の手袋と違うのは、親指に堅い芯が入っていることです。この芯を堅帽子と呼びます。
弦を受けるのは、親指の付け根の一点です。そこに力が集まるので、そこだけ作りが変えてあります。三ツガケは、親指・人差し指・中指の三本を覆う形です。
ゆがけ 堅帽子 三ツカケ 控えなし|鹿革製
鹿革の三ツガケです。親指に堅帽子が入っています。控えなしという仕様は、手首を固定する当てが付かない形を指します。
ゆがけは、体にいちばん近い道具です。手のかたちに沿って革が馴染んでいくので、使うほど自分のものになっていきます。
下がけという薄い布を中にはめて使います。汗が直接革に入らないようにするためで、こちらは洗って替えられます。
弓道 ゆがけ 堅帽子 三ツカケ 控えなし 鹿革製(山武弓具店)
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ゆがけ 三本カケR|初心者用として案内されているもの
これから始める人向けとして案内されている三つがけです。
ゆがけは、弓や矢と違って人と共有できません。手の形に馴染む道具なので、稽古を続けるなら早めに自分のものを持つことになります。
単品で選べるようになっているのは、そのためでもあります。
弓道 ゆがけ 三本カケR 初心者用(山武弓具店)
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6. 弦は、切れる前に替える部品です
消耗品として、常に予備を持ちます
弦は消耗品です。引くたびに張力がかかり、少しずつ傷んでいきます。切れる前に替えるのが前提の部品なので、予備を持っておくのが普通です。
いま広く使われているのは合成繊維の弦です。伸びにくく、扱いやすい。並寸用・伸寸用と、弓の長さに合わせたものを選びます。
弦を張ったり外したりするのも、稽古の一部です。使い終わったら外して、弓を休ませます。
弦『天弓弦 翠』1本入|合成繊維の弦
合成繊維の弦です。並寸・伸寸から選べます。
この記事で紹介しているなかで、いちばん頻繁に買い替える部品です。弓もゆがけも長く使う道具ですが、弦だけは減っていきます。
中仕掛けという、矢をつがえる位置の糸巻きは自分で作ります。ここも消耗する部分で、稽古のたびに見ておく場所です。
弓道 弦『天弓弦 翠』1本入 並寸・伸寸(合成繊維/山武弓具店)
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7. よくある質問(FAQ)
竹弓は、どこで手に入りますか?
量販の売り場にはほとんど並びません。受注で作られるものだからです。都城市の公式サイトによれば、都城は全国トップの竹弓の生産量を誇り、5人の国の伝統工芸士がいます。竹弓を探すなら、弓具店や産地に直接あたることになります。
最初の一張りは、どう選べばいいですか?
弓力(引く力の強さ)と、長さから決まります。身長で並寸か伸寸かが決まり、そこから引ける力に合わせて弓力を選びます。強すぎる弓は形が崩れるので、軽いところから始めるのが一般的です。所属している道場や部で、指導者に相談できる部分でもあります。
矢は、なぜ2本で一組なのですか?
甲矢と乙矢を合わせて「一手」と数えます。この2本は同じものではなく、行射のときに羽根の表が向く方向が逆になります。甲矢は正面から見て表が、乙矢は射手側に表が向きます。6本組は、甲矢3本と乙矢3本という中身です。
矢羽根は、どれを選べばいいですか?
ターキー(七面鳥)は手に入りやすく、日常の練習に向くとされています。鷲などの羽根は耐久性が高く、試合向きとされます。猛禽類のなかにはワシントン条約で商業取引が原則禁止の鳥もおり、扱いは鳥ごとに違います。まずは練習用から始めて、必要になってから考える形で十分です。
ゆがけは、人から借りてもいいですか?
手の形に馴染んでいく道具なので、自分のものを持つほうがよいとされています。親指の堅帽子に力がかかる位置は、人によって少しずつ違います。稽古を続けるなら、早めに自分の一つをということになります。中に下がけをはめて使い、そちらは洗って替えられます。
弦は、どれくらいで替えますか?
引いた回数で傷んでいく部品です。切れてから替えるのではなく、切れる前に替えるのが前提なので、予備を持っておきます。矢をつがえる位置の中仕掛けも消耗するので、稽古のたびに見ておく場所です。
8. まとめ:道具の数え方に、作り方が出ています
宮崎県都城市の都城大弓は、真竹と櫨を原料に作られています。都城市の公式サイトによれば、200から300を超える工程のほとんどが手作業で、一人前の弓師になるには10年以上の歳月が必要とされています。平成6年に国の伝統的工芸品に指定され、いまも5人の国の伝統工芸士がいて、全国トップの竹弓の生産量を保っています。
竹と木を貼り合わせてしなりを作る、という考え方は、いまの弓にも続いています。グラスファイバーやカーボンに材が替わっても、層にして張り合わせる構造は変わっていません。
矢は、2本で一組です。同じものを2本作るのではなく、行射のときに羽根の表が向く方向が逆になる2本を組にします。甲矢と乙矢で一手。6本組は、その3組ぶんです。
羽根は、いまも天然の鳥のものです。使える羽根は限られていて、そのなかで稽古用と試合用が選び分けられています。ゆがけは鹿革で、親指に堅帽子という芯が入ります。弦を受けるのが親指の付け根の一点だからです。
矢を「一手」と数え、弓の巻きを「三ヶ所」と数え、ゆがけを「三ツ」と数える。道具の数え方そのものに、どう作られてきたかが残っています。売り場で名前を読むと、その形になった理由のほうが見えてきます。