40年ぶりに、その生地は織り直されました。
酒屋や米屋が腰に巻いていた、厚い綿の前掛け。いちばん厚い生地は、いつのまにか作られなくなっていました。それを、前掛けを扱う会社が師匠と呼ぶ織り手と組んで試織し、2011年に売り場へ戻しました。
織っているのは、愛知県豊橋市です。使われているのは、70年から100年前のシャトル織機。なかには大正3年に発明された型が、いまも動いています。
買うときに決めるのは、丈と、ポケットの有無です。丈は「寸」で呼ばれていて、短いものは腰の下だけ、長いものは膝まで届きます。
この記事では、生地の話、丈の選び方、そして腰紐の巻き方までを順に見ていきます。
【早見表】丈の呼び名と、届くところ
| 呼び名 | 丈 | 向いている場面 |
|---|---|---|
| AA寸 ▾ | 約34cm | 腰まわりだけ。動きを止めない |
| A寸 ▾ | 約38cm | 立ち仕事の定番 |
| 中寸 ▾ | 約56cm | 腿まで覆う |
| 長寸 ▾ | 約70cm | 膝あたりまで。荷を抱える仕事 |
| もう一つ決めること | ポケットの有無。同じ丈で両方あります ▾ | |
寸法は「豊橋帆前掛け」シリーズの表記によります。呼び名を押すと、その解説へ飛べます。
1. 作られなくなった生地を、織り直しました
師匠と呼ぶ織り手が、いました
前掛けを扱う会社エニシングの公式サイトに、こう書かれています。「前掛けの我々の師匠である芳賀さん」との協力により、40年前の生地を復活させました。
40年前に作られていた厚い生地は、その時点でもう作られていませんでした。残っていたのは、当時のものと、それを織っていた人です。
試しに織ってみて、確かめて、また織る。そうして2011年10月より、正式に販売開始と記されています。一度途切れた生地が、売り場に戻りました。
「1号」は、いちばん厚い生地のことです
同じページによれば、昔の受注表では「1号」「2号」「3号」という通称があり、「糸の太さを変えながら数種類の生地の厚さがあった」とのことです。1号がいちばん厚い生地にあたります。
いま織られているものは「四番の太さの糸を使い織っています」。糸の太さが、そのまま生地の厚さになります。
Anything 前掛け用腰紐 65mm巾×10m巻|エニシングの部材
前掛けを腰に留める紐です。65mm巾、10m巻。切って使うので、何本ぶんも取れます。
前掛けは、本体と紐でできています。紐が切れたら本体を捨てるのではなく、紐を替える。直しながら使う前提の道具だということが、この部材が売られていることに出ています。
手持ちの前掛けの紐を新しくするのにも使えます。幅が合うかどうかだけ、確かめてから選んでください。
Anything(エニシング)前掛け用腰紐 65mm巾×10m巻/黒
商品情報を読み込み中…
2. 大正3年に発明された型が、動いています
10台を、引き継ぎました
生地を織っているのは愛知県豊橋市です。同じ公式サイトには、「約70〜100年前の『トヨタ製』『スズキ製』『遠州製』のシャトル織機10台を引き継ぎ」とあります。
新しく買った機械ではありません。もともと動いていたものを、そのまま引き継いでいます。
なかでも豊橋工場では、「豊田自動織機」のN型(大正3年発明、戦後昭和24年製造)が現役稼働中と書かれています。大正3年は1914年です。
織るのは豊橋、染めるのは東京
工程は、ひとつの土地で完結していません。織りは豊橋。そして染めは「主に東京都内で行」われていると書かれています。
染めについては、もうひとつ。「洗濯堅牢度の検査でも高いランクを保っています」。洗っても色が落ちにくいかどうかを、検査で確かめているということです。
働くための布です。汚れたら洗う。洗って、また使う。色が落ちないことは、見た目の話であると同時に、道具としての条件でもあります。
3. 丈は「寸」で呼ばれています
短いものから、膝まで届くものまで
帆前掛けを選ぶとき、最初に決めるのが丈です。売り場ではAA寸、A寸、中寸、長寸という呼び名が並びます。
AA寸で約34cm、A寸で約38cm、中寸で約56cm、長寸で約70cm。いちばん短いものといちばん長いもので、倍以上違います。
短いほど動きを止めません。長いほど覆う範囲が広くなります。どちらが上ということはなく、何をする場面で着けるかで決まります。
豊橋帆前掛け AA寸(約34cm)|いちばん短い丈
丈は約34cm。腰まわりだけを覆います。房無し、ポケット有り。商品名に「日本製」と明記されています。
短いぶん、脚の動きをまったく妨げません。しゃがむ、立つ、歩く。その繰り返しが多い仕事に向きます。
巾は約46cm。この巾は、どの丈でも変わりません。変わるのは丈だけです。
豊橋帆前掛け AA寸(約34cm)房無し ポケット有り 日本製
商品情報を読み込み中…
豊橋帆前掛け A寸(約38cm)紺|立ち仕事の定番
約38cm。AA寸より4cmだけ長い丈です。房無し、ポケット有り、紺。
4cmの差は小さく見えますが、腰骨のあたりに掛かるか、その下まで下りるかが変わります。着けたときの見え方も変わる部分です。
紺は、前掛けでいちばんよく見る色です。汚れが目立ちにくく、洗いを重ねると色が落ち着いていきます。
豊橋帆前掛け A寸(約38cm)房無し ポケット有り 紺 日本製
商品情報を読み込み中…
豊橋帆前掛け 中寸(約56cm)紺|腿まで覆う
約56cm。A寸から一気に18cm伸びます。腿のあたりまで覆う丈です。ポケット無し。
ここからポケットの無いものが出てきます。腰に巻いて、布そのものを働かせる形です。手を拭く、荷を受ける、膝を突く。
丈が伸びるほど、布の重さも増します。厚い生地なので、長いものは着けたときにずしりときます。
豊橋帆前掛け 中寸(約56cm)ポケット無し 紺 日本製
商品情報を読み込み中…
4. 同じ丈で、ポケットの有無が選べます
付いているほうがいい、とは限りません
いちばん長い長寸(約70cm)には、ポケットの有るものと無いものが両方あります。丈も色も同じで、違うのはそこだけです。
ポケットがあれば、道具や布を入れておけます。手を突っ込む場所があるのは、立ち仕事では楽です。
無いほうを選ぶ人もいます。屈んだときに中のものが落ちる。洗うときに乾きにくい。布が一枚のままのほうが、扱いが軽いという考え方です。
豊橋帆前掛け 長寸(約70cm)ポケット無し 黒
約70cm。膝あたりまで届く丈で、ポケットはありません。黒。
布が一枚のままなので、洗って干すのが速いです。縫い代が少ないぶん、乾きも早くなります。
次のカードは、これと同じ長寸・同じ黒でポケットが付いたものです。並べると、選ぶのはそこだけだと分かります。
豊橋帆前掛け 長寸(約70cm)ポケット無し 黒 日本製
商品情報を読み込み中…
豊橋帆前掛け 長寸(約70cm)ポケット有り 黒
丈も色も、前のカードとまったく同じ。ポケットが付いているだけです。
厚い生地に厚い生地を重ねて縫うので、ポケットの口はしっかりします。入れたものが動きにくい作りです。
迷ったら、何を入れるかを先に考えてみてください。入れるものが思いつかないなら、無いほうが軽く使えます。
豊橋帆前掛け 長寸(約70cm)ポケット有り 黒 日本製
商品情報を読み込み中…
帆前掛け HMK-213 キナリ|染めていない色
丈約63cm、巾約47cm。キナリ、つまり染めていない生成りの色です。商品名に「日本製」「伝統仕事着」とあります。
紺や黒と違って、生地そのものの色が見えます。綿がどんな糸で織られているのか、いちばん分かりやすいのがこの色です。
汚れは目立ちます。けれど働いた跡がそのまま残るので、使い込んだ姿を見せたい人には向きます。
帆前掛け HMK-213(伝統仕事着)丈約63cm×巾約47cm キナリ 日本製
商品情報を読み込み中…
5. 腰紐は、巻いて締めます
一周では、止まりません
帆前掛けの紐は、体に一周させて前で結ぶのではありません。二周させてから締めるのが普通の巻き方です。
厚い布が腰に張りつくと、腰が安定します。荷を持ち上げるとき、腰帯のようにはたらく。前掛けが仕事着として残ってきた理由の一つとされる部分です。
紐は、切れたら替えられます。1章のカードに出した10m巻の腰紐は、そのための部材です。本体はまだ使えるのに紐だけ傷むことが、それだけ多いということでもあります。
房が付いているものがあります
紐の先に房(ふさ)が付いた前掛けもあります。今回紹介したものは「房無し」と書かれているタイプです。
房があると、結んだ先が下がって見えます。働くうえで要るものではありませんが、着けたときの姿が変わる部分です。商品名に「房付」「房無し」と書かれているので、そこで見分けられます。
6. 洗うほど、体になじみます
最初は硬く、だんだんやわらかく
厚い綿なので、買ったばかりのころは硬く、板のように立ちます。腰に巻いても、なじむまでは形が決まりません。
洗って、乾かして、また巻く。それを繰り返すうちに、折れ癖が付いて、体の形に添うようになります。使う人の腰の位置で、生地が曲がる場所が決まっていきます。
色も変わります。洗濯堅牢度の検査で高いランクを保っていると書かれているとおり、急に落ちるものではありません。それでも、年単位で少しずつ淡くなっていきます。
濃い色は、最初だけ分けて洗います
紺や黒の濃い色は、最初の何回かは単独で洗うほうが安全です。他のものと一緒にする前に、水の色を見ておいてください。
厚いので、乾くのに時間がかかります。広げて干す。畳んだまま干すと、内側が乾きません。
アイロンは、掛けなくてかまいません。皺は使ううちに落ち着きますし、仕事着として使うなら皺そのものが姿になります。
7. よくある質問(FAQ)
丈は、どれを選べばいいですか?
何をする場面で着けるかで決まります。しゃがむ、立つの繰り返しが多いならAA寸やA寸。腿まで守りたいなら中寸。荷を抱える仕事なら長寸。巾はどの丈でも約46cmで変わらないので、変えるのは丈だけです。
ポケットは、有るほうがいいですか?
入れるものが思いつくなら有るほう、そうでないなら無いほうです。屈んだときに落ちる、洗うと乾きにくい、という理由で無いほうを選ぶ人もいます。同じ丈・同じ色で両方が用意されているので、そこだけを比べて決められます。
紐はどう巻くのですか?
体に二周させてから締めるのが普通の巻き方です。一周だと緩みやすく、二周させると厚い布が腰に張りついて安定します。紐が傷んだら、紐だけ替えられます。10m巻の腰紐が部材として売られているのは、そのためです。
「房」とは何ですか?
紐の先に付く飾りです。商品名に「房付」「房無し」と書かれているので、そこで見分けられます。働くうえで必要なものではありませんが、結んだ先の見え方が変わります。
洗濯機で洗えますか?
洗えますが、濃い色は最初の何回か単独で洗ってください。洗濯堅牢度の検査で高いランクを保っていると書かれていますが、最初は水の色を見ておくと安心です。厚いので、広げて干さないと内側が乾きません。
家庭で使ってもいいものですか?
かまいません。もともと酒屋や米屋が腰に巻いてきたものですが、いまは台所や庭仕事、工房でも使われています。厚い綿が一枚あるだけ、という単純な作りなので、使い道は着ける人が決められます。
8. まとめ:戻ってきた生地を、腰に巻く
いちばん厚い前掛けの生地は、一度作られなくなっていました。それを、師匠と呼ぶ織り手と組んで試織し、40年ぶりに織り直して2011年10月に売り場へ戻したと、エニシングの公式サイトに書かれています。
織っているのは愛知県豊橋市。使われているのは70年から100年前のシャトル織機10台で、なかには大正3年に発明された型が現役で動いています。大正3年は1914年です。織りは豊橋、染めは主に東京都内。洗濯堅牢度の検査で高いランクを保つ、とも記されています。働くための布だからです。
選ぶときに決めるのは、丈とポケットの二つ。丈はAA寸で約34cm、A寸で約38cm、中寸で約56cm、長寸で約70cm。巾はどれも約46cmで変わりません。長寸には同じ色でポケットの有るものと無いものがあり、そこだけを比べて選べます。
紐は二周させて締めます。厚い布が腰に張りつくと、体が安定する。紐が傷んだら紐だけ替えられて、そのための10m巻が部材として売られています。直しながら使う前提の道具だということです。
最初は板のように硬く、洗うたびにやわらかくなります。折れる場所は、着ける人の腰の位置で決まっていきます。戻ってきた生地が、これから使う人の形になっていきます。