東京の傘専門店、小宮商店によると、日本製の傘を作っている傘屋は、いまでは都内でもわずか数軒です。
それでも、ビニール傘を海外では作らないと決めた会社があり、生地を織るところから傘に仕立てる工場があります。
この記事では、日本で作られている傘をビニール傘・長傘・折りたたみ傘に分けて、作り手ごとに紹介します。透明な傘を江戸の雨具問屋から受け継いだホワイトローズ、生地を2枚ずつ裁つ前原光榮商店、織物工場がそのまま傘を仕立てる槇田商店、甲州織の小宮商店とRamuda、寒竹の手元のWAKAO。
実物を見に行ける店と、長く使うための手入れもまとめました。
【早見表】日本製の傘8選
| 傘 | 作り手 | 特徴 | こんな人に |
|---|---|---|---|
| カテールMI7 ▾ | ホワイトローズ(東京・台東区) | 白樺の中棒と椿の手元の透明ジャンプ傘 | 視界のいいビニール傘を通勤に |
| 縁結-雅- ▾ | ホワイトローズ(東京・台東区) | 約320g、楓の手元の透明傘 | 改まった席にもビニール傘で |
| NEWトラッド16 ▾ | 前原光榮商店(東京・台東区) | 16本骨、樫の中棒の晴雨兼用 | 毎日差す一本の長傘を |
| Tie 長傘 ▾ | 槇田商店(山梨) | 自社で織った生地、ジャンプ式 | スーツに合う織り柄を |
| かさね 折りたたみ ▾ | 小宮商店(東京・中央区) | 表と裏で色が違う甲州織、二段折 | 長傘の大きさを持ち歩きたい |
| 漆塗り手元 折りたたみ ▾ | Ramuda(東京・中央区) | 甲州織ジャガードと越前漆器の手元 | 贈り物に |
| バンブー 折りたたみ ▾ | WAKAO(東京・台東区) | 約200g、寒竹の手元と富士絹 | 軽い折りたたみを鞄に |
| 晴雨兼用 折りたたみ ▾ | 前原光榮商店(東京・台東区) | 約260g、シャンタン生地 | 日傘と雨傘を一本で |
傘の名前を押すと、その解説へ飛べます。
1. 日本製の傘を作る傘屋は、都内でもわずか数軒
下町に70軒あった傘の店
小宮商店によると、高度成長期には、東京の下町だけで70以上の傘関係の店が軒を連ね、大勢の傘職人がいました。平成になると、多くの会社がアジアの国々に製造を移し、日本の傘職人の多くが廃業。日本製の傘を作っている傘屋は、都内でもわずか数軒になりました。
この記事で紹介する作り手は、そのなかで日本で傘を作り続けている会社です。6社のうち5社は東京の台東区と中央区に、1社は山梨県の織物の産地にあります。
「傘」の字の4つの「人」
「傘」という字には、「人」が4つ入っています。前原光榮商店は、この4人を生地を織る職人、骨を組む職人、手元を作る職人、生地を裁断縫製する職人の、4つの分野の職人だと説明しています。一本の傘は、それぞれの技術を持つ職人の手を順に渡って仕上がります。
2. ビニール傘|ホワイトローズは、海外では作らない
江戸の雨具問屋が、透明な傘を作った
ホワイトローズの始まりは、享保6年(1721年)の武田長五郎商店です。五代目のときに徳川幕府の御用を許され、大名行列の雨具一式を納めた雨具問屋でした。
昭和20年代、ホワイトローズは傘を守るビニールの傘カバーを売り出し、店の前に行列ができるほど売れます。そこから、ビニールのフィルムを直接傘の骨に張るという発想にたどり着きました。ホワイトローズは、このビニール傘を「世界に先駆けた」ものだと伝えています。
1964年の東京オリンピックで来日したアメリカの傘のバイヤーの目にとまり、量産が始まります。ところが、数年のうちに台湾に工場を作られてしまいました。その教訓から、ホワイトローズは海外でビニール傘の最終生産をしないと決めています。東京都台東区には、いまも旭工場を構えています。
風を逃がす「逆支弁」と、風速15mの実験
ホワイトローズの傘には、特許の「逆支弁」という仕組みがついています。雨は入れずに、傘の内側にたまった風を外へ逃がす構造で、風にあおられにくくなっています。骨にはしなやかなグラスファイバーやカーボンを使っています。
代表の須藤宰さんは、自ら風速15m以上の強風のなかで傘の耐久実験をして、傘とともに無事に帰ってきたそうです。「人間を守ってなんぼ」がホワイトローズの考え方です。透明な傘なら、差している人にも、すれ違う人にも、周りがよく見えます。
豆知識:ビニール傘は、シルクの傘と同じ値段だった
ホワイトローズによると、昭和40年代に売り出されたビニール傘は、シルクと同じぐらいの高級品でした。色や柄を印刷できたので、最先端のファッションでもあったそうです。
透明なビニール傘が全国に知られたのは、銀座の路面店に置いた傘が、テレビの朝の番組で「銀座では中が透ける傘が流行しているらしい」と紹介されたのがきっかけでした。
ホワイトローズ カテールMI7|通勤に差す、紳士のビニール傘
白樺の中棒と椿の手元の、ワンタッチで開く透明なジャンプ傘。
親骨65cmの8本骨で、骨はグラスファイバー。逆支弁がついています。
ホワイトローズによると、平成22年の園遊会でも使われた傘です。色は黒、紺、オリーブ。麻の葉模様の傘袋がつきます。
ホワイトローズ カテールMI7 紳士用ジャンプ傘 65cm 8本骨
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ホワイトローズ 縁結-雅-|改まった席にも持てる透明傘
重さ約320g、楓の天然木の手元の透明な長傘。
骨はカーボンの8本骨。生地は3枚重ねの多層オレフィンで、濡れてもべたつきません。
ホワイトローズによると、上皇后美智子さまが園遊会で手にされた「縁結」を、さらに上質にした傘です。色はゴールド、ピンク、ネイビー。
ホワイトローズ 縁結-雅- 透明傘 58cm 8本骨
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3. 長傘|生地を2枚ずつ裁つ前原光榮商店、織りから仕立てる槇田商店
前原光榮商店|数ミリの誤差で、傘の張りと音が変わる
前原光榮商店は、昭和23年(1948年)に東京都台東区で創業した傘の会社です。前原光榮商店によると、傘の出来を左右するいちばん大切な技術は生地の裁断と縫製。数ミリの誤差があるだけで、傘を広げたときの張りや音、形が変わってしまいます。
大量生産の傘は、生地を8枚、10枚と重ねて裁断します。前原光榮商店は、ほとんどの傘を2枚重ねで裁断して精度を上げています。加工職人は、自分で調整した三角形の木型を生地に当て、断ち包丁で裁ちます。生地は、富士山麓の伝統的な機でゆっくり織られたものです。
前原光榮商店と小宮商店の傘づくりは、高級雨傘のガイドでもっと詳しく紹介しています。
前原光榮商店 紳士用 NEWトラッド16 晴雨兼用 長傘|16本骨の一本
16本の骨で丸く開く、紳士用の長傘。
中棒は樫、手元は籐か寒竹。直径約103cmで、日傘としても使える晴雨兼用です。
色は黒と紺。販売店によっては名入れも頼めます。
前原光榮商店 紳士用 NEWトラッド16 晴雨兼用 長傘 16本骨
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槇田商店|織物工場が、そのまま傘を仕立てる
槇田商店は、江戸末期の1866年に創業した山梨県の織物工場です。傘の生地を織るところから、傘に組み立てるところまで、すべての工程を自社で行っています。だから槇田商店の傘は、どれもプリントではなく織りの生地です。
糸は、富士山の雪解け水で鮮やかに染めたもの。密度の高い織物だから、細やかな模様や、立体感のある光沢が出せます。生地を木型に合わせて裁ち、縫製や手元の取り付けまで職人が手作業で仕上げます。全工程が自社なので、骨が折れても、生地に穴が開いても直してもらえます。
槇田商店 Tie 晴雨兼用 長傘|スーツに合う織り柄
2つの表情を持たせた、立体感のある織りの生地の長傘。
親骨65cm、直径108cmの8本骨。ボタンを押すと開くジャンプ式です。
防水・撥水に加えてUVカットの加工もしてあるので、夏の日差しの日にも使えます。槇田商店の公式ショップから届きます。
槇田商店 Tie 晴雨兼用 長傘 65cm ジャンプ
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4. 折りたたみ傘|甲州織の小宮商店とRamuda、寒竹のWAKAO
小宮商店|縁にミシン目のない、甲州織の二つ折り
小宮商店は、1930年創業の東京の傘の会社です。小宮商店の傘を代表する生地は、山梨県の富士吉田市を中心に400年以上織られてきた甲州織です。糸を先に染めてから織る「先染め」で、富士山の湧き水で深く鮮やかに染まります。
小宮商店は創業から、親骨が外側に折れる「二つ折り」の折りたたみ傘にこだわってきました。シルエットが美しく、甲州織のような上質な生地と相性がいいからです。
豆知識:緯糸が一度も切れない、傘のための生地
小宮商店によると、甲州織の傘の生地は、幅60cmほどの「小幅」という傘専用の織物です。昔ながらのシャトル織機で、緯糸を切らずに一本続きのまま往復させて織ります。
生地の端がほつれないので、傘の縁にミシン目がなく、すっきりと仕上がります。この小幅の傘生地を織る工場があるのは、いまでは山梨県だけです。
小宮商店 甲州織 かさね 折りたたみ傘|表と裏で色が違う
表と裏で色が違う甲州織の、二段折りの折りたたみ傘。
親骨55cmの8本骨で、長傘の大きさを持ち歩ける一本です。
撥水・耐水に加えてUVカットの加工つき。生地の端の細いラインがアクセントになります。小宮商店の公式ショップから届きます。
小宮商店 甲州織 かさね 折りたたみ傘 55cm 8本骨
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Ramuda|一日に数メートルしか織れない生地を、傘に
Ramudaは、1946年創業の東京・日本橋茅場町の株式会社市原の傘のブランドです。Ramudaによると、甲州織は経糸に撚り合わせた双糸、緯糸に一本の単糸を使うのが山梨の織物の特徴で、経糸を張る専門の職人がいるほど技術が要ります。一日に数メートルしか織れない生地です。
骨を作る職人、生地を織る職人、手元を加工する職人の手を経て、最後に伝統工芸士の傘職人が一本の傘に仕上げます。
Ramuda 甲州織 漆塗り手元 折りたたみ傘|贈り物に選びたい一本
甲州織ジャガードのレジメンタルストライプに、漆塗りの手元を合わせた折りたたみ傘。
手元は椿の木に、職人が一本ずつ手作業で漆を2度塗り重ねた越前漆器です。
親骨55cm、全長43cm。織模様がストライプに奥行きを出しています。販売店の限定品です。
Ramuda 甲州織 漆塗り手元 折りたたみ傘 55cm レジメンタル
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WAKAO|傘を、ファッションにした老舗
WAKAOは、1938年に傘職人の若尾定正さんが東京で創業しました。二代目は洋傘のファッションショーを開き、「単なる道具」だった傘をファッションの一部にしました。WAKAOは創業のときから、徹底して日本で傘を作り続けています。
トレードマークは、WAKAOが「最上級」と呼ぶ寒竹のバンブーハンドル。生地には、軽くて撥水性に優れ、絹のような質感の富士絹を使っています。
WAKAO バンブーハンドル 折りたたみ傘|約200gを鞄に
寒竹の手元と富士絹の生地の、重さ約200gの折りたたみ傘。
親骨は軽くて丈夫なカーボン。たたむと約33cmです。
販売店は「20年以上愛され続ける日本製ハンドメイドの傘」と紹介しています。生地の裁断から仕上げまで、熟練の職人が手がけています。
WAKAO バンブーハンドル 折りたたみ傘 55cm 富士絹
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前原光榮商店 レディース 晴雨兼用 折りたたみ傘|日傘と雨傘を一本で
風合いのあるシャンタン生地の、晴雨兼用の折りたたみ傘。
親骨50cmの8本骨で、重さ約260g、たたむと約32cmです。
親骨にはグラスファイバーとスチールを使い、丈夫さと軽さを両立させています。日差しの強い日も雨の日も、鞄に入れておけます。
前原光榮商店 レディース 晴雨兼用 折りたたみ傘 50cm 8本骨
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5. 実物を見に行く|手元を選んで、その場で付けてもらえる店
小宮商店 日本橋浜町アトリエショップ(東京・中央区)
小宮商店は2026年10月2日、創業の地の浜町に工房と一体になった店を開きました。店の奥は職人の仕事場で、ミシンの音や生地を裁つ手さばきを間近に感じられます。
店に入ると、手元のついていない傘が、ワインセラーのように天井から足元まで壁一面に並ぶ「アンブレラセラー」。傘と手元を手に取って組み合わせを選ぶと、その場で手元を取り付けて、世界にひとつの一本に仕上げてくれます。住所は東京都中央区日本橋浜町3-19-3 ムゲン日本橋ビル1Fです。
前原光榮商店、ホワイトローズ(東京・台東区)
前原光榮商店は、本社の1階のショールームを、創業75周年に「浅草三筋町店」としてリニューアルしました。ホワイトローズも浅草に店を構えていて、都営浅草線の浅草駅から歩いて行けます。
心斎橋みや竹(大阪)
明治29年(1896年)創業の傘の専門店です。ホワイトローズや前原光榮商店、小宮商店など、日本各地の作り手の傘をまとめて選べます。予約制のショールーム「傘寿庵」で、実物に触れて選ぶこともできます。
6. 長く使う|作り手が教える手入れと修理
開く前にほぐし、使ったら広げて室内で乾かす
前原光榮商店は、傘を開く前に手首を左右に2〜3回ひねるように軽く振って、生地をほぐしてから開くよう案内しています。ほぐさずに開くと、骨に負担がかかるからです。
使ったあとは、傘を広げた状態で、室内で陰干しします(小宮商店)。湿気が残っていると、親骨のサビや中棒の傷みにつながります(前原光榮商店)。WAKAOは、水滴を払うときは傘を斜め下に向けて、軽く開いたり閉じたりするよう勧めています。骨は左右の動きに弱いからです。高温になる車の中に置いておくのも避けましょう。
使った次の日は、休ませる
前原光榮商店によると、できれば同じ傘を毎日続けて使わず、使った次の日は休ませると、骨や生地が長持ちします。休ませるあいだに、より乾かせるからです。長傘と折りたたみ傘を一本ずつ持って、交互に使うのも一つの方法です。
壊れたら、作った会社に直してもらう
この記事の作り手の多くは、買った傘の修理を受け付けています。前原光榮商店は、台東区寿に修理部門「カサラボ」を設けています。小宮商店は部品がある限り修理を引き受け、1年間の無料保証もつけています。槇田商店は織りから仕立てまで自社なので、骨も生地も直せます。ホワイトローズは、10年以上同じ傘を使い続けられる修理の仕組みを用意しています。WAKAOも、生地の張り替え以外の修理を有償で受け付けています。
7. よくある質問(FAQ)
ビニール傘も修理できますか?
ホワイトローズの傘は修理できます。ホワイトローズは、10年以上同じ傘を使い続けられる修理の仕組みを用意しています。贈り物用の箱は、修理に出すときの発送箱としても使えます。
日傘としても使えますか?
晴雨兼用の傘なら使えます。この記事では、前原光榮商店のNEWトラッド16と晴雨兼用の折りたたみ傘、UVカット加工をした槇田商店のTieと小宮商店のかさねが、日差しの日にも使える傘です。
撥水が落ちてきたら、どうすればいいですか?
小宮商店は、防水スプレーを勧めています。風上に立ち、30cm以上離れたところから生地全体にまんべんなくかけて、傘を広げたまま室内で陰干しします。
ほかの会社の傘も、修理してもらえますか?
基本は、買った傘の作り手に頼みます。たとえば小宮商店は、使っている部品が違うため、小宮商店で買った傘だけを修理しています。修理を頼める店や条件は、それぞれの作り手に確かめてください。
日本製の傘かどうかは、どこで分かりますか?
商品名や商品の説明に書かれた製造国で確かめましょう。同じ作り手が、日本製の傘と海外で作った傘の両方を出していることもあります。たとえば小宮商店は、海外で作るシリーズの商品名に「海外製」と書いて分けています。
同じ傘を毎日使ってもいいですか?
前原光榮商店は、使った次の日は休ませることを勧めています。そのほうが傘がよく乾き、骨や生地の寿命が延びるからです。毎日差すなら、2本を交互に使いましょう。
8. まとめ:数軒になっても、日本で作り続ける傘
日本製の傘を作る傘屋は、都内でもわずか数軒になりました。それでも、それぞれのやり方で、日本で傘を作り続けている作り手がいます。
海外では作らないと決めたホワイトローズの透明な傘。生地を2枚ずつ裁つ前原光榮商店。織物工場がそのまま仕立てる槇田商店。縁にミシン目のない甲州織の小宮商店と、伝統工芸士が仕上げるRamuda。寒竹の手元のWAKAO。どれも、作り手の名前で選べる傘です。
次の雨の日に差す一本を、ぜひ作り手から選んでみてください。