裁ちばさみの切れ味は、刃の鋭さで決まっているのではありません。
決めているのは、2枚の刃がどれだけ精確に擦れ合うかです。そしてそこだけが、いまも人の手に残っています。
庄三郎の公式サイトに、こう書かれています。「現在ではその大部分を機械化することができましたが、切れ味にかかわる大事なところ"優れた刃の擦りあわせ"は、つくる人の永年の技と真心のみがなせるところであります」。
機械にできるところは、機械にした。そのうえで、切れ味を決める一点だけを手元に残している。工程表の最後から2番目に、「調整」という名前でそれが並んでいます。一丁ずつ、人が刃を合わせています。
だから手に取れば分かりますし、狂っても直せます。この記事では、その道具がどこから来たのかと、持ったときの手ごたえ、そして長く使うための扱い方を順に書きます。
1. 刀の鋭さが、いまも布を裁っています
日本の裁ちばさみは、刀鍛冶が作りました
吉田弥十郎、銘は弥吉。この人の名前が、東京の庄三郎と、兵庫の美鈴ハサミ、まったく別の2社の公式サイトに、それぞれ出てきます。
庄三郎はこう書きます。「刀鍛冶であった吉田弥十郎(銘:弥吉)は、自らの刀鍛冶技術を生かして、"日本のはさみ"の製作研究に取り掛かりました」。そして「弥吉師は、欧米式のはさみに日本刀のもつ鋭さを与え、またはさみ全体の軽量化を図り、独自のはさみを作り上げました。これが現在の日本のはさみの原形とされています」。
美鈴ハサミは、事情のほうを書いています。「12才の時に、刀鍛冶の弟子となったが、明治維新後廃刀の令が出て刀の製造ができなくなり、のちに日本独特のラシャ切鋏を創製した」。
刀が作れなくなった鍛冶屋が、洋服を裁つ道具を作った。そして「弟子、孫弟子、曽孫弟子たちによって正統派のラシャ切鋏として受け継がれて来た」と美鈴は続けます。
舶来のものは、大きくて重すぎました
幕末から明治にかけて、洋服が広まりました。洋裁の道具も一緒に入ってきます。庄三郎は「曲線的に、しかも厚い生地でも無理なく切れる、欧米式のはさみは裁縫の中で絶対的なものとなっていきました」と書いています。
ところが、そのまま使えたわけではありません。美鈴の解説に「当時のラシャ切鋏は大きくて重く、日本人の洋服職人には扱いやすい道具ではなかった」とあります。庄三郎の側も「機能的に満足するものの、品質的には決して満足のいくものではありませんでした」と。
形はいい。けれど、日本人の手には合っていなかった。そこを作り直したのが弥吉です。いま手に入る日本の裁ちばさみは、その作り直しの先にあります。
豆知識:刀の鋭さは、たとえ話ではありません
日本刀は、硬い鋼とやわらかい鉄を組み合わせて作られます。硬いだけでは欠け、やわらかいだけでは切れない。
いまの裁ちばさみも、同じ組み立て方です。庄三郎の商品仕様には「刃部に高級刃物鋼と極軟鋼の付け合わせを使用」とあります。刃物鋼と、極めてやわらかい鋼。2つを貼り合わせた材料です。
「日本刀のもつ鋭さを与えた」というのは、言葉のあやではなかったということだと思います。材料の組み立て方そのものが、持ち込まれている。
そして、この作りには、もうひとつ良いところがあります。4章で書きますが、貼り合わせてあるからこそ、狂っても直せます。
庄三郎 裁ちばさみ 24cm 標準型|その系譜の、まんなか
製造は株式会社庄三郎、東京都足立区保木間。創業者の三浦庄三郎は弥吉のはさみ製造技術を引き継いだ職人だと、公式サイトに書かれています。
刃部は「高級刃物鋼と極軟鋼の付け合わせ」。総重量は約312g。24cmは、裁ちばさみの標準サイズです。
迷ったら、これを選んでおけば外れません。この記事に出てくる話のほとんどが、そのままこの一丁の話でもあります。
庄三郎 裁ちばさみ 24cm 標準型(ラシャ切鋏)
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2. 切れ味は、一丁ずつ人が合わせています
機械にしなかった工程が、ひとつあります
庄三郎の製造工程のページには、「昔は、握る部分の形づくり、刃金を付ける、鍛える、削る、など全ての工程を人の手に頼っていました」。
そして、「現在ではその大部分を機械化することができました」と続きます。機械にできることは機械にした、と書いている。
そのうえで、「切れ味にかかわる大事なところ"優れた刃の擦りあわせ"は、つくる人の永年の技と真心のみがなせるところであります」。
切れ味を決める一点だけが、手元に残されています。同じページに「人の技のみが成し得る微妙な心づかいをもって仕上げられております」とも書かれています。
最後から2番目の工程の名前は「調整」です
工程表に、その仕事が名前を持って並んでいます。溶接、鍛造、バリ取り、焼入れ、研削、研磨、裏研磨。そのあとが「調整」です。
「2つの刃が最適に擦れ合うように調整する。微妙な調整具合が、はさみの切れ味を大きく左右するため、一丁づつ細心の注意を払って入念に行う」。
そして最後は検査です。「全ての工程に精通した職人が一丁づつ、仕上がり具合を確認する。また、布の試し切りを行い、切れ味を検査する」。
店に並ぶ前に、一度は布を切っている。手元に届く一丁は、そこを通ってきたものです。
左右で、作り分けています
人が刃を合わせているからこそ、できることがあります。庄三郎の左利き用の解説は、この一文から始まります。「"はさみで切る"ということは"2枚の刃を擦り合せる"ということです」。
そして左利き用が、2種類あります。総左利型は「右利型のはさみとは全く逆の構造」で、刃の重なりから逆にしてあります。「左手本来の自然な力の入れ方で切れるように」作られている。
足左利型は「握り部分のみが左手用」で、刃の構造は右利き用と同じ。だから「右利型のはさみを左手でご使用になられていた方は、従来と同じ力の入れ方でご使用できます」。
左手で使う人のために、2つの答えを用意している。刃の重なりから作り替えるというのは、相当な手のかけ方だと思います。
豆知識:ネジを締めてはいけないのも、同じ理由です
使っているうちに、ネジがゆるんできたように見えることがあります。締めたくなりますが、庄三郎の公式にこうあります。「はさみのネジを締め付けないで下さい。刃の擦れ合いが悪くなって刃を傷めることがあります」。
2枚の刃は、擦れ合うために、ある程度の遊びをもって組まれています。その合わせ具合が、職人の調整したところです。締めると、その仕事を打ち消すことになります。
切れ味が落ちたと感じたら、まず刃の汚れを拭いてください。公式には「固い素材を切っていますと、その切り粉や糸片が刃部に付着することにより、はさみの滑らかな擦り合せの妨げとなることがあります」とあります。だいたいは、そちらです。
庄三郎 足左利 STS-E2 260mm|左手のために、作り分けたもの
庄三郎の左利き用、足左利型です。握りだけが左手用で、刃の構造は右利き用と同じ。これまで右利き用を左手で使ってきた方は、力の入れ方を変えずに移れます。
刃から逆にしたい方には、総左利型という別の型があります。そちらは慣れ直しが要る代わりに、左手の自然な力で切れると説明されています。
左利きの人が「合うものがない」と諦めなくていいという話です。いまの持ち方を変えたいかどうかで選んでください。
庄三郎 足左利 STS-E2 260mm(左利き用 裁ちばさみ)
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3. 持つと、ずしりときます
24cmで、300gあります
初めて持つと、たいてい驚きます。庄三郎の24cmで、パッケージ込みの総重量が約312g。文具のはさみとは、まったく別の物体です。
刃はむき出しの鋼、柄は黒く塗った金属。握ってみると、手のひらに落ちる重さがあります。
この重さは、我慢するところではありません。美鈴の解説にこうあります。「使い馴れれば、ラシャ切鋏の重味は少しも苦にならないどころか、その重量感は使い手にとって快い感触を伝える」。
厚い布のために作られた道具です
もともとは、厚手の毛織物を裁つための道具でした。だから重い。その重さが、そのまま刃に載ります。
そして、厚いもの用に作られた道具は、薄いものも楽に切ります。美鈴の解説に「厚手の布地を切るために造られたラシャ切鋏は和裁の薄い生地を切るのにも実に楽々と切れる」とあります。
木綿でも、麻でも、何枚か重ねたキルトでも。一丁あれば、家で扱う布はだいたい足ります。
豆知識:「ラシャ」は、布の名前でした
売り場で「ラシャ切鋏」という名前を見かけます。裁ちばさみと同じものですが、この「ラシャ」が何なのかは、たいてい書かれていません。
美鈴ハサミの解説に答えがあります。「羅紗切鋏(ラシャ切鋏)の『羅紗』はポルトガル語のRAXAを音訳したものです」。羅紗は「毛織物の一種で地を厚く、織目を細かく表面だけをけばだてた物」。
面白いのは、そのあとです。「昭和の戦前まで冬物服地としてなくてはならなかったラシャ地は、今ではすっかり廃れてしまったが、名前だけは使われている」。
布のほうは消えて、道具の名前だけが残りました。売り場の「ラシャ切鋏」と「裁ちばさみ」は、同じものだと考えて構いません。
美鈴 高級洋裁鋏 江戸菊 240mm|最初の一丁に
製造は美鈴ハサミ株式会社、兵庫県小野市黒川町。創業は昭和24年、1949年です。公式サイトで「日本の伝統的な握り鋏、ラシャ切り鋏を中心に」と自社を説明しています。
品番808、全長約250mm。仕様は「刃部=高級刃物鋼、柄部=白心可鍛鋳鉄」「生産国:日本」。柄が可鍛鋳鉄なのは、庄三郎の分類表にある構造と同じです。
商品ページの言葉で「刃の噛み合わせが驚くほど軽く、滑らかなのが特長」。ここでも語られているのは噛み合わせです。5,000円台で、この系譜のものが手に入ります。
美鈴 高級洋裁鋏 江戸菊 240mm(品番808)
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4. 狂っても、直せます
貼り合わせてあるものだけが「矯正自由」です
庄三郎の公式に「日本の裁鋏の種類と特徴」という分類表があります。刃の作りごとに、性質を並べたものです。
そこに「矯正」という項目があります。鉄と鋼を貼り合わせた「地付き(はり合わせ)」だけが「矯正自由」。刃の全体が同じ鋼のものは「矯正が困難」、型に流し込んで作るものは「矯正不可能」と書き分けられています。
矯正できるというのは、狂った刃を直せるということです。貼り合わせてあるかどうかが、その一丁を長く使えるかどうかを決めています。
1章の豆知識で書いた「刀と同じ組み立て方」が、ここで返ってきます。硬い鋼とやわらかい鉄。やわらかいほうがあるから、狂いを戻せます。
作り手が、修理を受けています
庄三郎は「修理によって使用可能な場合はご要望により有償で修理いたします」と書いています。美鈴ハサミも、公式サイトに研ぎ直しサービスの窓口を置いています。
そして、断り書きが正直です。「はさみは、刃物の性格上、金属摩耗いたしますので長期的、永久的に切れ味を持続させることはできません」。
永久ではない。減っていく。それでも、直しながら使える。買って終わりではなく、作った人のところへ戻せる道具だということです。
材料をどこから作るかで、値段が変わります
貼り合わせ方には、2つのやり方があります。美鈴ハサミの公式カタログに説明があります。
「現在、日本で製造される多くの握り鋏は、あらかじめ鉄と鋼が貼り合わされた『複合鋼材』を使用して作られています」。材料を買ってきて、そこから成形する。こちらが多数派です。
もうひとつが総火造り(そうひづくり)。「総火造りでは複合材を使用せず、鉄と鋼を約1,000度の炎で熱し、金槌で叩きながら接合。同時に形状も整えていきます」。
ここでも、正直に書かれています。「鉄と鋼を接合する作業は極めて難しく、失敗も多い非効率な製法ですが、バネの強さ、握りの加減、刃のバランスなど、細部にまでこだわった仕上がりを実現できます」。同じ形の鋏に2つの値段が並んでいたら、たいていこの違いです。
播州刃物 水池長弥 手打鍛造 握り鋏|一本の鉄の棒から
兵庫県小野市の播州刃物。商品ページに「播州刃物の職人・水池長弥氏が一本ずつ手打ちで仕上げた」とあります。鋼は青鋼(あおはがね)です。
「小野市には、一本の鉄の棒から最終工程まで、今では珍しい手打ち鍛造で製造される数少ない職人さんがおられます」と説明されています。この章の総火造りにあたる作り方です。
同じ作り手に、複合鋼材を使った品も並んでいます。形も用途も同じで、違うのは材料をどこから作るか。この章の話が、そのまま2つの値段になっているのが見られます。
播州刃物 水池長弥 手打鍛造 握り鋏(糸切りばさみ)
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5. 世界から消えた道具が、日本にだけ残りました
握り鋏は、開かずに切れます
糸切りばさみのことです。U字にしなった1本の鋼の、両端に刃が向き合っている。ネジはどこにもありません。別名を和ばさみといいます。
美鈴ハサミの解説に、裁ちばさみとの違いが書かれています。「X型は使うとき刃を開いてから切るのに対し、U型握り鋏は握りしめるというワンタッチで使える便利さがある」。
開く動作が要りません。だから糸を切るような、細かくて回数の多い仕事で気持ちよく使えます。「和裁の仕立て物、刺しゅうなどには握り鋏は欠かせない道具」とあります。
日本人が、手放さなかった道具です
同じ解説に、こうあります。「はさみとしては最も古い歴史があるのに今はほとんど日本人だけが使う」。そして「世界各国にその痕跡は残っているのに、現在ほとんど日本だけで使われている」。
他の国では、より力の出るX型に置き換わっていきました。日本では置き換わらなかった。細かい手仕事に使うには、こちらのほうがよかったからだと思います。
古さの例も挙がっています。鎌倉の鶴岡八幡宮に残る北条政子の化粧具に、「刃の部分に菊花模様を彫りこんだ握り鋏」があるそうです。800年前の道具と、いま1,000円台で買えるものが、同じ形をしています。
産地は、兵庫県小野市です
美鈴ハサミの「播洲刃物の歴史」に、産地が書かれています。「今の産地は、小野市(兵庫県)と三条市(新潟県)に集中している」。そして「握り鋏は今もなお日本一の生産量を誇っています」と続きます。小野市のことです。
数字も載っています。1980年当時、小野市のはさみの生産は合わせて900万丁。うち握り鋏が512万丁、ラシャ切り鋏が235万丁。そのうえで「近年大幅な減少(1995年では104万丁)をきたしていますが、それにしても、握り鋏は今もなお日本一の生産量を誇っています」。
始まりは江戸時代。「小野市の握り鋏の創始者は、1783(天明3)年、大阪で、はさみ造りの修行をして帰郷した盛町宗兵衛である」。ひとりが持ち帰った技術が、200年たっていまも町の産業になっています。
豆知識:そろばんと、はさみの町
小野市の地場産業は、2つあります。美鈴ハサミの解説に「小野市には地場産業としてはさみと算盤(そろばん)がある」とあります。
そろばんのほうも、この町が中心です。同じページに「全国の算盤生産の75パーセントを造っている」と書かれています。始まりは400年前の慶長年間。
隣の三木市は、大工道具の産地です。「鋸、鉋、鎌、鏝、のみ、などを造り」とありますが、「はさみの生産は少ない」。町ごとに、作るものがきれいに分かれています。
指で弾く道具と、手で握る道具。どちらも、手を動かして使うものです。それがひとつの土地に集まっているというのは、面白い話だと思います。
美鈴 チョキチョキ 短刃 105mm|まず、この1本から
美鈴ハサミの糸切りばさみ、品番NO.505。105mmは握り鋏の標準的な大きさです。刃部は「高級刃物鋼 SK5」と表示されています。
この記事でいちばん手が届く一本です。1,000円台で、800年続いてきた形の道具が手に入ります。
短刃と長刃があります。短刃は先が短く、細かいところを狙いやすい。糸を切るのが主なら、短刃で困りません。
美鈴 チョキチョキ 短刃 105mm NO.505(糸切りばさみ)
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6. 売り場での確かめ方と、買った日にすること
手に取って、開いて閉じてみてください
人が合わせているものなので、手に取れば分かります。美鈴ハサミの解説に、素人向けの見分け方が書いてあります。
「上物と普通品との差は大きく、形だけ見たのではその違いは分かりずらい。手に取って刃を開閉してみれば、2枚の刃の擦れ合い方で素人にも区別がつく」。
見た目では分かりません。写真でも分かりません。同じページに「どんな種類のはさみでも手に取ってみなくては値打ちが分からない」とあります。店で見かけたら、一度握ってみてください。
最初は、やわらかい布から
庄三郎の使い方のページは、この注意から始まります。「はさみの刃先は極めて鋭利になっております。最初から厚い布や硬い布を切ると刃を傷めることがあります。柔らかい布を数回切ってからお使い下さい」。
買ってすぐ、いちばん厚い生地を試したくなります。そこだけ我慢してください。
下ろす前にもうひとつ。「ご使用になる前に、切るものを汚さぬように、刃先に十分注意しながら、はさみに塗布している油を拭き取って下さい」。新品には防錆の油が引いてあります。
厚いものはネジの近く、薄いものは先端
刃のどこを使うかで、切りやすさが変わります。公式の指示は2つに分かれています。
「糸を切るときや、薄いものを切るときには、はさみの先端部分の刃を使用して下さい」。
「厚いものを切るときは、はさみのネジに近いほうの刃の部分のみを開閉させてお使い下さい」。
ネジに近いほうが、力がかかります。厚い生地で刃先が滑るときは、もっと奥まで布を入れてから閉じてみてください。
使い終わったら、油を引いてケースへ
片づけの手順も書かれています。「ご使用後は、汚れ、ほこりを、乾いた柔らかい布で拭き取った後、刃の裏側、ネジの部分をミシン油の含んだ布で軽く拭いて、サックに入れて保管して下さい」。
もうひとつ、公式が勧めていること。「はさみの切れ味をより長く保つためには切る素材別に、はさみをご用意、ご使用なさることをお勧めします」。布用と、それ以外を分ける。紙や粘着テープを同じ一丁で切らない、というのはこの延長にあります。
拭いて、油を引いて、しまう。1日30秒の手間で、職人が合わせた擦れ合いを守れます。
栃木レザーの裁ちばさみケース|置き場所まで決めてしまう
庄三郎の公式が「サックに入れて保管して下さい」と書いています。そのサックにあたるものです。商品ページに「庄三郎 24cmが入る」と明記されています。
革は「約2mm厚の、植物性タンニン鞣しの栃木レザー」。本体サイズは約H5cm×W18cm、全5色です。作り手の自社ショップからの出品で、ハンドメイド品と書かれています。
刃を裸で引き出しに入れておくと、ぶつかって刃こぼれします。革は使うほど色が濃くなります。道具と一緒に育っていくものを、置き場所に選んでおくのは悪くない買い方だと思います。
栃木レザーの裁ちばさみケース(庄三郎24cm対応・日本製)
商品情報を読み込み中…
7. よくある質問(FAQ)
ネジがゆるんできました。締めてもいいですか?
締めないでください。庄三郎の公式に「はさみのネジを締め付けないで下さい。刃の擦れ合いが悪くなって刃を傷めることがあります」とあります。
2枚の刃は、擦れ合うために、ある程度の遊びをもって組まれています。その合わせ具合が、職人の調整したところです。切れ味が落ちたと感じたら、まず刃の汚れを拭いてください。切り粉や糸片が付いて擦り合わせの邪魔をしていることが多いです。
裁ちばさみで紙を切ってはいけないのですか?
庄三郎の公式サイトは「紙を切るな」とは書いていません。書かれているのは「はさみの切れ味をより長く保つためには切る素材別に、はさみをご用意、ご使用なさることをお勧めします」です。
理由になりそうな一文が同じページにあります。「固い素材を切っていますと、その切り粉や糸片が刃部に付着することにより、はさみの滑らかな擦り合せの妨げとなることがあります」。守りたいのは、職人が合わせた擦れ合いです。布用は布用として分けておくのが、いちばん確実です。
サイズは24cmと26cm、どちらがいいですか?
標準は24cm(240mm)です。迷ったらこちらで構いません。重さは、庄三郎の24cmでパッケージ込み約312gあります。
26cmは、その分だけ長く重くなります。一度に長く裁ちたい場合には向きますが、最初の一丁で選ぶ理由は多くありません。重さは、慣れると気持ちよくなる部分です。美鈴の解説にも「その重量感は使い手にとって快い感触を伝える」とあります。
左利きです。右利き用を左手で使ってはいけませんか?
使えないわけではありませんが、左利き用が2種類あります。庄三郎の説明では、足左利型は「握り部分のみが左手用」で刃の構造は右利き用と同じ。だから「右利型のはさみを左手でご使用になられていた方は、従来と同じ力の入れ方でご使用できます」。
総左利型は「右利型のはさみとは全く逆の構造」で、刃の重なりから逆にしてあります。こちらは「左手の力の入れ方が異なりますのでご注意下さい」と断りがあります。いまの持ち方を変えたくないなら足左利型、左手の自然な力で切りたいなら総左利型という分かれ方です。
切れなくなったら、研ぎに出せますか?
作り手が受けている場合があります。庄三郎は「修理によって使用可能な場合はご要望により有償で修理いたします」と書いています。美鈴ハサミも、公式サイトに研ぎ直しサービスの窓口を置いています。
ただし、永久ではありません。庄三郎の断り書きが正直です。「はさみは、刃物の性格上、金属摩耗いたしますので長期的、永久的に切れ味を持続させることはできません」。減っていく道具を、直しながら使う。それができるのは、刃が鉄と鋼の貼り合わせでできているからです。
握り鋏と裁ちばさみ、両方いりますか?
役割が違います。裁ちばさみは布を裁つ道具、握り鋏は糸を切る道具です。握り鋏は刃を開く動作が要らないので、細かくて回数の多い仕事で気持ちよく使えます。美鈴の解説にも「和裁の仕立て物、刺しゅうなどには握り鋏は欠かせない道具」とあります。
先に買うなら、握り鋏のほうが安く済みます。1,000円台からあります。裁ちばさみで糸を切る癖がつくと、先端を傷めます。2本に分けたほうが、どちらも長持ちします。
8. まとめ:人が合わせた道具は、直しながら使えます
裁ちばさみの切れ味を決めているのは、刃の鋭さではありません。2枚の刃が、どれだけ精確に擦れ合うか。そしてそこだけが、いまも人の手に残っています。庄三郎の公式サイトの言葉です。「切れ味にかかわる大事なところ"優れた刃の擦りあわせ"は、つくる人の永年の技と真心のみがなせるところであります」。
工程表の最後から2番目に、「調整」という名前でその仕事が並んでいます。「一丁づつ細心の注意を払って入念に行う」。そして最後に布の試し切りをして出荷されます。手元に届く一丁は、そこを通ってきたものです。
いまの形は、刀が作れなくなった鍛冶屋が作りました。東京の庄三郎と兵庫の美鈴、別々の会社の公式サイトが、それぞれ吉田弥十郎という同じ名前を挙げています。「欧米式のはさみに日本刀のもつ鋭さを与え」たと庄三郎は書いています。
持つと、ずしりときます。24cmで300gほど。その重さは我慢するところではなく、慣れると気持ちよくなる部分です。厚い布のために作られた道具なので、薄い布も楽に切れます。
そして、狂っても直せます。刃が鋼とやわらかい鉄の貼り合わせでできているから。庄三郎の分類表では、貼り合わせてあるものだけが「矯正自由」と書かれています。作り手が修理を受けています。永久ではないけれど、減っていく道具を、直しながら使えます。
糸切りばさみのほうは、1,000円台から。世界からはほとんど消えたのに、日本でだけ使われ続けてきた形です。まずはそこから始めても、ちゃんと同じ系譜のものが手に入ります。