年賀状の束をめくっていて、一枚だけ指が止まることがあります。
止めたのは、絵柄でも文面でもなく、紙のふちかもしれません。
越前の信洋舎製紙所が漉くはがきは、ふちを切りそろえていません。「耳」と呼ばれる、薄く揺らいだふちが四辺に残っています。一枚ずつ独立した枠で漉き、そのまま乾かすので、「二度と同じ紙は漉けません」。
この記事では、越前・美濃・京都・奈良の作り手のはがきと筆ペンを、使い方ごとに紹介します。和紙のはがきは私製はがきとして出すことになるので、元日に届けるための手順も最後にまとめました。
【早見表】和紙の年賀状、どれで出す?
| 作り手(産地) | 紙・道具 | こんな年賀状に | 書き方・刷り方 |
|---|---|---|---|
| 信洋舎製紙所(越前) ▾ | 一枚漉きのフォト和紙はがき | 写真を刷る年賀状 | インクジェット専用 |
| MOLZA 美の紙工房(美濃) ▾ | 耳付きはがき(厚く張りがある) | 家で刷って、筆で添える年賀状 | インクジェット・毛筆・ペン |
| 墨運堂(奈良) ▾ | 越前和紙はがき 50枚 | 干支の一字を筆で書く年賀状 | 毛筆(墨のにじみを楽しむ) |
| あかしや(奈良) ▾ | 天然竹筆ペン | 宛名と添え書き | 水性顔料インク |
| 福井朝日堂(京都) ▾ | 干支年賀状 未 3枚入 | 刷り上がった絵柄に一言添える年賀状 | 添え書きだけ |
作り手の名前を押すと、その解説へ飛べます。出し方の手順は6章 ▾へ。
1. ふちの揺らぎは、一枚ずつ漉いた跡です
「耳」と呼ばれる、切りそろえていないふち
和紙のはがきのなかには、ふちがまっすぐに切られておらず、薄く波打っているものがあります。これが耳です。紙を裁ち落とさずに残した、漉いたままのふちのことをいいます。
信洋舎製紙所は、フォト和紙の漉き方をこう説明しています。「一枚一枚が独立した障子の格子のような道具で漉かれてそのまま乾燥されるために独特の形になり」。
はがき一枚ぶんの枠で漉くので、四辺すべてが耳になります。枠から外してそのまま乾かすので、ふちの形は一枚ごとに違います。
和紙のはがきは、「私製はがき」として届きます
郵便局で売っている年賀はがきではなく、自分で用意した紙で出すはがきを私製はがきと呼びます。紙も、刷り方も、自分で選べるはがきです。
京都の福井朝日堂は、私製はがきが認められると、いち早く京都や日本の名所旧跡を凸版やコロタイプの多色刷りで絵はがきにして売り出した、と自社の沿革に書いています。
紙と刷りを選べることは、明治のころからの私製はがきの楽しみでした。和紙の年賀状は、その楽しみを一年に一度、使ってみる機会になります。
2. 越前・信洋舎製紙所:二度と同じ紙は漉けません
明治の建物と機械が、そのまま残る工房
福井県越前市。岡本神社の下に、信洋舎製紙所の工房があります。創業は1888年。公式サイトには「現在も明治時代の建物と機械がそのまま残っております」とあります。
創業のころは50人前後の職人を抱えていたそうです。五代目の西野正洋さんは、21歳のときに母親から漉き方を教わり、一枚漉きの耳付きの名刺を漉き始めました。はがきも、その一枚漉きでつくられています。
欧州の紙の原料を、明治の漉き方で
フォト和紙の原料はコットンです。商品の説明には「欧州で高級紙として名高い、コットンを明治時代の手漉き和紙の製法で仕上げた写真用紙」とあります。
欧州で高級紙に使われてきた原料を、越前の一枚漉きで漉く。写真のための紙として、その組み合わせを選んだということです。
紙肌には、コットンならではのやわらかな凹凸があります。つるつるの写真用紙とは手触りがまるで違うので、家族写真や、今年撮った一枚を年賀状にしたい人に向いています。
信洋舎製紙所 フォト和紙 ハガキサイズ 10枚入|越前
一枚ずつ漉いた、四辺に耳のあるはがきです。欧州の高級紙の原料コットンを、明治から続く工房の一枚漉きで仕上げています。
手作りのため、大きさと厚さに一枚ずつ差があります。同じ写真を刷っても、ふちの形は一枚ごとに違う。届いた相手の手元にあるのは、世界に一枚だけの年賀状ということになります。
インクジェットプリンター専用の写真用紙です。宛名は6章の手順で書き入れてください。
信洋舎製紙所 フォト和紙 越前和紙 ハガキサイズ 10枚入
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豆知識:「模造紙」は、越前の紙をまねた紙でした
信洋舎製紙所が創業のころに開発した三椏局紙(みつまたきょくし)は、パリ万博で金杯を受けました。同社によると、オーストリアの製紙会社がこれに似せた紙をつくり、それが「模造紙」の語源になったそうです。
学校の壁新聞で使ったあの大きな紙の「模造」は、越前の紙をまねたという意味だったことになります。
3. 美濃・MOLZA:家のプリンターで刷れる、耳付きのはがき
長良川の水で、紙をつくる町
岐阜県関市武芸川町。MOLZAは、ここに本社とメイン工場を置く製紙会社です。設立は1956年。会社概要には「長良川水系の良質で豊富な水に恵まれ、和紙から機能紙まで特長のある紙を生産しています」とあります。
和紙の製品は「美の紙工房」の名前で出しています。そのなかに、家のインクジェットプリンターで刷れる耳付きのはがきがあります。
厚く張りがあって、筆でもペンでも書ける
商品の説明はこうです。「新製法により、従来のはがきよりも厚く張りのある、耳付きのはがきです」「インクジェットプリンタのほか、毛筆・ペンにも対応しています」。
絵柄は家で刷って、添え書きは筆で。刷ったものと手で書いたものを、耳付きの一枚の中に並べられます。
宛名面には郵便番号の枠が刷られていません。そのぶん宛名は自由に書けますが、「郵便はがき」の表示は自分で入れる必要があります(→ 6章)。
MOLZA美の紙工房 インクジェット対応 耳付きはがき 生成 5枚入|美濃
はがきの大きさで、耳が付いた状態で届きます。少ない枚数から試したいとき、大切な数人にだけ和紙で出したいときに。
生成(きなり)は、白よりすこし温かい色です。墨の黒も、朱の赤も、白い紙より落ち着いて見えます。プリンターは手差し給紙が勧められています。レーザープリンターには使えません。
MOLZA美の紙工房 インクジェット対応 耳付きはがき 生成 5枚入 PA02
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MOLZA美の紙工房 インクジェットで作る 耳付きはがき 両面印刷 生成 A4 3枚(はがき12枚分)|美濃
A4の紙1枚から、はがき4枚分を刷る型です。3枚入りで12枚分。
両面に刷れるので、絵柄の面も宛名の面も家のプリンターで仕上げられます。出す枚数が多い人は、こちらのほうが手間がかかりません。
MOLZA美の紙工房 インクジェットで作る 耳付きはがき 両面印刷 生成 A4 3枚(はがき12枚分)PD02
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4. 筆で書くなら、墨がにじむ越前の紙と、奈良の竹軸
淡い墨で大きく書くと、にじみが模様になる
奈良で墨をつくる墨運堂が出している越前和紙のはがきです。筆と墨で書くためのはがきで、販売店の説明には淡墨で大きな字を書くと、筆線の芯とにじみの対比がおもしろいとあります。
裏いっぱいに、干支の「未」を一字だけ。線の芯は濃く残り、まわりに墨がふわりと広がります。にじみ方は墨の濃さや筆の運びで変わるので、同じ字を書いても一枚ずつ違う年賀状になります。
墨運堂 越前和紙はがき 50枚入|奈良・墨運堂
墨のにじみを楽しむための、越前の和紙のはがきです。絵手紙や書、水墨の年賀状に。
50枚入りなので、書き損じを気にせず練習できます。まず数枚、墨の濃さを変えて試し書きをして、にじみの具合をつかんでから本番へ。
墨運堂 越前和紙はがき 50枚入 28823
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竹の軸は、一本ずつ模様が違う
奈良筆の筆屋、あかしやの筆ペンです。軸は天然の竹。公式サイトには「一本一本、紋様も太さも手触りも微妙に異なる天然竹」とあります。
穂先は「奈良筆と同じ製筆技術で手づくりした穂先」。コシの強い人造毛を使い、一本ずつ造筆しているそうです。
2章のはがきが一枚ずつ違い、この軸も一本ずつ違う。書く道具まで「同じものがない」で揃えると、年賀状を書く時間そのものが少し楽しくなります。
宛名に向くのは、乾くと水に流れないインク
インクは水性顔料です。公式の説明では「筆跡は乾くと水に流れず色褪せしにくい」。年賀状は屋外のポストを通って届くので、宛名書きにも安心して使えます。
カートリッジ式で、替え穂も用意されています。穂先が傷んでも軸はそのまま、来年も同じ一本で書けます。
あかしや 天然竹筆ペン 桐箱入り|奈良
一本ずつ模様の違う竹軸を、桐の箱に収めた一本です。年賀状の季節に、書く人への贈りものとしても。
宛名にも添え書きにも、この一本で。替え穂とスペアインクで、長く使い続けられます。
あかしや 天然竹筆ペン 桐箱入り AK2500MK
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あかしや 天然竹筆ペン 透明ケース入り|奈良
同じ天然竹の筆ペンを、自分用の透明ケースで。ケースから軸の模様が見えるので、選ぶ楽しみがあります。
あかしや 天然竹筆ペン 透明ケース入り AK2000MP
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5. 京都・福井朝日堂:鉄道の切符を刷っていた店の、未年
明治25年、京都・三条で
福井朝日堂の創業は明治25年(1892年)。京都・三条通麩屋町で、いまも同じ場所に本社があります。
初代は、当時の最先端だった「印刷」を家業に定めました。寺社の入山券から、京都鉄道(いまのJR嵯峨野線)の切符まで刷っていたそうです。
私製はがきが認められると名所の絵はがきを多色刷りで売り出し、明治44年には人工三色版による名所絵はがきを全国に先駆けて企画販売した、と年表にあります。
刷り上がった未年に、一言だけ添える
2027年の未年(ひつじどし)用の干支年賀状は、3枚入り。「謹賀新年」などの文字が刷られた版と、文字の入っていない版があります。
絵柄は刷り上がっているので、書くのは添え書きの一言だけ。文字なしの版なら、4章の筆ペンで賀詞から自分で書けます。数枚だけ特別な相手に出したいときに向いた、少ない枚数の組です。
福井朝日堂 干支年賀状 未 3枚入 文字なし|京都
賀詞が刷られていない未年の年賀状です。「あけましておめでとう」も「謹賀新年」も、自分の字で。
絵柄の余白に、筆ペンで一行。刷りの確かさと手書きのゆらぎが、一枚の中に並びます。
福井朝日堂 干支年賀状 未 3枚入 FPN-5417(文字なし)
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福井朝日堂 干支年賀状 未 3枚入 謹賀新年|京都
「謹賀新年」まで刷り上がっている版です。目上の方や仕事の相手には、こちらが書きやすいはずです。
福井朝日堂 干支年賀状 未 3枚入 FPN-5416(謹賀新年)
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6. 和紙の年賀状を、元日に届ける五つの手順
① 宛名面の上に「郵便はがき」と書く
私製はがきには「郵便はがき」(英語なら POST CARD)の表示が要ります。日本郵便によると、表示がないと「手紙」として扱われ、料金が変わります。
3章のMOLZAのはがきは宛名面に何も刷られていないので、宛名面の上のほうに書き入れてください。ほかのはがきも、表示があるかを先に確かめておくと安心です。
② 1枚、はかりに載せてみる
通常のはがきとして届くのは、重さ2〜6g、大きさは長辺14〜15.4cm・短辺9〜10.7cmの範囲です。
2章のフォト和紙は、手作りのため一枚ずつ大きさと厚さに差があります。和紙のはがきを出す前は、1枚だけキッチンスケールに載せて確かめると安心です。範囲を外れると、はがきではなく手紙の料金になります。
③ 切手を貼る
2027年用の年賀郵便切手は、2026年11月2日に発行されます。はがき用の85円はシール式で、1枚から買えます。
④ 切手の下に、朱で「年賀」と書く
ここがいちばん大切です。郵便局で売っている年賀はがきには「年賀」の文字が赤で刷られていますが、私製はがきにはありません。
赤で「年賀」と書いていないと、年賀状として扱われず、元日に届けてもらえません。切手の下あたりに、朱の筆ペンで書き入れます。
⑤ 12月20日から27日のあいだに出す
2027年用の年賀状は、12月20日(日)から受け付けが始まります。元日に届けるための差出日の目安は12月27日(日)です。
どちらも去年より少し後ろにずれました(去年までは15日と25日)。
豆知識:早く出しすぎた年賀状は、年内に届きます
日本郵便は、受付開始より前(2026年は12月19日以前)に出された年賀状は、通常の郵便として扱うとしています。
つまり、書き上がってうれしくなって12月の半ばに投函すると、大晦日より前に相手の郵便受けに届いてしまうことがあります。和紙の一枚は、20日を待ってからポストへ。
7. よくある質問(FAQ)
和紙のはがきでも、85円で届きますか?
重さと大きさがはがきの範囲に収まり、「郵便はがき」の表示があれば、85円で届きます。
範囲は重さ2〜6g、長辺14〜15.4cm・短辺9〜10.7cmです。手作りの紙は一枚ずつ厚さが違うことがあるので、1枚量ってから出すと安心です。
年賀切手でない、ふつうの切手でも年賀状になりますか?
なります。大事なのは、切手の種類より朱書きの「年賀」です。
赤で「年賀」と書いてあれば、年賀状として扱われます。年賀切手を貼る場合も、朱書きの「年賀」は入れておきます。
耳付きのはがきは、家のプリンターに通りますか?
インクジェットプリンターで刷れます。一枚ずつ手差しで刷るのがおすすめです。
MOLZAの耳付きはがきは手差し給紙が勧められていて、レーザープリンターには使えません。信洋舎製紙所のフォト和紙もインクジェット専用です。フォト和紙は手作りで大きさにも差があるので、まず1枚で試し刷りをしてください。
筆ペンで宛名を書くと、雨でにじみませんか?
あかしやの天然竹筆ペンは水性顔料インクで、乾くと水に流れません。
公式に「筆跡は乾くと水に流れず色褪せしにくい」とあります。書いた直後はまだ乾いていないので、重ねる前にしばらく置いてください。
何日までに出せば、元日に届きますか?
2027年用は、12月27日(日)までが目安です。
受け付けは12月20日(日)から。19日以前に出すと、通常の郵便として年内に届いてしまうことがあります。
喪中の方には、どうすればいいですか?
年賀状は控えて、松の内が明けてから立春までに「寒中見舞い」として出す方法があります。
2章や3章の和紙のはがきは、朱で「年賀」と書かなければそのまま寒中見舞いにも使えます。福井朝日堂も、寒中見舞い用のはがきを出しています。
8. まとめ:一枚ずつ違う紙で、一年に一度の便りを
和紙の年賀状は、紙ごと相手の手に渡ります。ふちに残る耳は、一枚ずつ漉いた跡です。
写真を刷るなら、越前・信洋舎製紙所のフォト和紙。明治の建物と機械が残る工房で、欧州の紙の原料コットンを一枚漉きにしたはがきです。「二度と同じ紙は漉けません」。
家で刷って筆で添えるなら、美濃・MOLZAの耳付きはがき。厚く張りがあり、インクジェットでも毛筆でも書けます。
筆で一字を書くなら、墨運堂の越前和紙はがきと、一本ずつ模様の違う、あかしやの竹軸の筆ペン。刷り上がった未年に一言添えるなら、京都・福井朝日堂の干支年賀状。
出すときは、「郵便はがき」の表示、1枚量る、切手、朱で「年賀」、12月20日から27日。この五つで、和紙の一枚が元日に届きます。
今年の年賀状は、何枚かだけでも日本の和紙で出してみてください。受け取った人の指が、ふちで止まるかもしれません。