流行よりも、愛着を。袖を通した瞬間にわかる、ニッポンの繊維技術。

ファストファッションの対極にあるもの。それが日本のトップスです。
10年着てもヘタらない和歌山のスウェット、継ぎ目がなく身体と一体化する新潟のニット、洗うほどに風合いが増す兵庫のシャツ。
世界中のラグジュアリーブランドが信頼を寄せる日本の生地(テキスタイル)と、着る人の動きを計算し尽くした精緻な縫製技術。ここでは、消費するのではなく「愛用する」ための大人の日常着を特集します。

トップス・アウターの選び方と基礎知識

【和歌山・吊り編み】 空気を編み込む「1時間に1メートル」の魔法

世界で唯一、和歌山県にしか現存しない旧式の編み機「吊り編み機」。
・非効率が生む最高傑作:
現代の高速編み機が生地を強制的に引っ張りながら編むのに対し、吊り編み機は糸に余計なテンションをかけず、重力だけでゆっくりと編み下げます。その速度は1時間にわずか1メートル。
・10年後の風合い:
生産性は極めて低いですが、仕上がったスウェット生地は空気を含んでマシュマロのように柔らかく、何年洗濯してもその「ふっくら感」が失われません。「ヴィンテージ」と呼ばれるスウェットが今も残っているのは、この製法で作られているからです。


【新潟・五泉ニット】 縫い目がない?「ホールガーメント」の革新

日本一のニット産地、新潟県五泉(ごせん)市。雪国で育まれた粘り強い職人魂が、ニットの常識を変えました。
・第2の皮膚「ホールガーメント」:
通常、ニットは前身頃、後ろ身頃、袖を別々に編んで縫い合わせますが、最新技術(島精機製作所)と職人のプログラミングにより、一着まるごと「縫い目なし」で立体的に編み上げる技術です。
縫い目のゴロつきが一切なく、肩や脇のツッパリ感もゼロ。身体のラインに優しく寄り添う、未体験の着心地です。


【兵庫・播州織】 糸から染める「先染め」の美学

兵庫県西脇市を中心とする「播州織(ばんしゅうおり)」は、シャツ生地の王様です。
・色褪せない深み:
生地にしてから色を乗せるプリント(後染め)とは異なり、糸の芯まで染め上げてから織る「先染め(さきぞめ)」技法が特徴。
何色もの糸を組み合わせて柄を作るため、色に深みがあり、何度洗濯しても色が剥げ落ちず、美しい発色が続きます。高級ブランドのチェックシャツの多くが、実はこの播州織を採用しています。


【アウター・コート】 重さを感じさせない「立体裁断」

「良いコートは、手に持つと重いが、着ると軽い」。これは日本の仕立て(テーラリング)技術の真髄です。
・首と肩で支える設計:
日本製のコートやジャケットは、日本人の体型を知り尽くしたパタンナーが、平面的ではなく「立体的」に設計しています。
重心が分散され、首のカーブに襟が吸い付くようにフィットするため、実際の重量よりも驚くほど軽く感じます。腕を上げても裾が上がってこないのは、可動域まで計算された設計の証です。


神は裏側に宿る。変態的(褒め言葉)な縫製技術

日本製の服を手に取ったら、ぜひ「裏側」を見てください。
・柄合わせの執念:
チェックやボーダーのシャツで、前身頃とポケット、袖の継ぎ目の柄がピタリと合っていること。これは生地を贅沢に使い、職人が手作業で裁断・縫製しなければ不可能な芸当です。
・肌に当たらない縫い目:
肌着やカットソーに見られる「フラットシーマー」という縫い方は、4本の針と6本の糸で縫い合わせ部分を平らに仕上げます。肌へのストレスを極限まで減らす、日本の「おもてなし」の心が服にも宿っています。


服を育てるメンテナンス(Q&A)

Q. ウールのコートやニットのケアは?
A. 最強のケアは「ブラッシング」です。着用後に馬毛ブラシで優しく撫でるだけで、繊維の絡まりが解けて毛玉ができにくくなり、埃が落ちて艶が蘇ります。1日着たら2日休ませるローテーションも寿命を延ばす秘訣です。

Q. 白シャツの襟汚れ(黄ばみ)が気になります。
A. 黄ばみの原因は、繊維の奥に残った皮脂汚れの酸化です。衣替えで長期保管する前に、襟や袖口を固形石鹸(ウタマロなど)で予洗いし、お湯ですすぐのが効果的。クリーニングだけでなく、自宅でのケアが白さを守ります。